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第95回評議員会での理事長あいさつ
2019.05.19
本日は、お忙しい中、第95回評議員会にご出席いただき有難うございます。また、平素は評議員として、協会の活動にご理解、ご協力を賜り有難うございます。
最近の情勢と協会活動について、若干の所感を述べさせていただきます。
平成から令和に変わる中、国は、「人生100年時代、健康長寿、予防医療」をうたい、「国民一人一人ができるだけ長く健康に働くことができ、老後に不安を抱く必要のない社会を作る」ことを目指しています。これらは住民、医療提供者、保険者、行政が協働して取り組むべき事柄であり、異を唱えるものではありません。
しかしながら、「生涯現役」「働き方改革」「健康インセンティブ強化」「労働生産性の向上」との文言が並べられ、その一方で、プライマリ・バランス黒字化、社会保障費抑制、規制緩和と営利産業化を推し進める姿勢を合わせ見れば、健康弱者、あるいは経済的弱者に相対することの多い医師・歯科医師の団体としては、もろ手を挙げて賛成とは言い難いものがあります。
政府は、少子高齢化、公債依存と残高累増、負担先送り論により、プライマリ・バランスの黒字化を「背水の陣」と絶対視し、国債残高累増の主因を、⾼齢化に伴う社会保障費の増加に押し付け、「税と社会保障の一体改革」と称した「消費税増税」と「社会保障費の抑制」による財政健全化路線を加速しています。
振り返れば平成の30年間は、消費税導入とその増税の時代でしたが、所得税、法人税の減税により、消費増税分は相殺されています。労働分配率は低下し、大企業が内部留保を積み増し、景気回復は実感されず、社会保障の充実、特に医療の充実には程遠い30年間でした。特に昨年より、GDP世界第3位の日本を挟んで、第1位と2位の米中が経済冷戦を激化させる中、景気は後退局面に入り、10月の消費税増税は、個人消費を落ち込ませ、日本経済の致命傷となる危険性を孕んでいます。
政府は、現在の財政状況に陥った要因として「受益と負担の乖離」を挙げ「これを正す」、あるいは「給付と負担のバランスを回復する」としています。しかし公的社会保険には、民間保険にみられるような「受益と負担の関係」いわゆる「給付・反対給付均等の原則」はありません。これは、公的保険の目的の一つが所得の再分配にあるからです。
さらに政府は、「負担の公平化」と称して、「後期⾼齢者の窓⼝負担の引上げ」や「介護の利⽤者負担増」も必要としています。そもそも患者窓口負担の増加は、経済的弱者、健康弱者を公的医療から遠ざけ、受診抑制や重症化の危険性があり、公的医療保険制度としては本末転倒です。社会保障や公的医療保険の原則は「能力に応じた負担」ですが、今負担能力があるのは誰なのか。負担能力とは決して患者の懐具合ではありません。
また同時に、保険給付範囲の縮小として「⾼度・⾼額な医療技術や医薬品の保険収載の見送り」、 「小さなリスクは自助」で対応すべきとし「OTC類似薬や有⽤性の低い医薬品の⾃⼰負担率の引上げ」「少額の外来受診への定額負担の導⼊」などの方向も打ち出されています。さらに、「保険給付の効率的な提供」と称し、急性期病床の削減を主とする「地域医療構想の実現に向けた都道府県によるコントロール機能の強化」「外来受診時の定額負担の上乗せ」、 「医療費・介護費の地域差半減」、つまり低きに合わせるインセンティブ策の強化もおこなわれ、「公定価格の適正化」として診療報酬の抑制も方針の一つとされています。
さて、医療費の増加原因は、⾼齢化などが半分程度、残り半分は、「その他の伸び」とされています。「その他」の伸びとは、医療の高度化による増加分とされ、その内訳として診療報酬改定、新規の医薬品や医療技術の保険収載、医師や医療機関の増加などが指摘されています。政府は、社会保障費の実質的な増加を「高齢化による増加分に相当する伸びにおさめる」方針を持続しています。つまり、診療報酬や医師や医療機関に対する国家のコントロールを一層強めることで、医療費増加を抑制するということです。これは、医学の進歩や新技術、あるいは医師や医療従事者の仕事の評価を蔑ろにする、言い換えれば、少ない施設と人員で、安あがりの医療を提供させる ということに他なりません。
医療において、その有効性と安全性の向上、不正の撲滅と営利主義の排除、機能分化と連携、無駄の検証、国民からの信頼向上は必須ですが、国民の命と健康を守る医療団体としては、財源論に必要以上に拘泥することなく、最適な医療に必要な医療費を、臆することなく要求していくべきではないでしょうか。欧州諸国のように、成熟した国家において、社会保障の充実と経済成長の両立は可能です。
最後になりましたが、組織現勢についてご報告します。現在会員数は7497人となっております。ひとえに皆様方のご協力のおかげと感謝しております。会員のご同行あるいは紹介状が最も効果を発揮するのは、組織拡大に奔走する事務局員の実感するところであります。今後とも重ねてご協力をお願い申し上げます。
それでは、このあと、第51回総会に向けての2018年度会務報告、2019年度活動方針案並びに予算案、次期役員選出に関しまして、ご報告とご提案をさせていただきます。
忌憚ないご意見、活発なご討議のうえ、ご承認いただきますようお願いいたしまして、ご挨拶とさせていただきます。ご清聴有難うございました。