兵庫県保険医協会

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第98回評議員会あいさつ

2021.11.21

本日は、お忙しい中第98回評議員会にご出席いただき有難うございます。また、平素は評議員として、協会の活動にご理解、ご協力を賜り有難うございます。最近の情勢と協会活動について述べさせていただきます。

 新型コロナウイルス感染症は、第5波が下火になりましたが、これまで感染された方は、全国で172万5977人、亡くなられた方は1万8346人、兵庫県でもそれぞれ7万8639人、1396人です。これらの感染者数、死亡者数からみますと、コロナは阪神淡路大震災、東日本大震災に匹敵する「大きな災害」です。

 兵庫県弁護士会会長の津久井進(つくいすすむ)先生のお話では、災害時の根本原理の一つは「平時のトレンドを加速する」ことです。つまり、「その社会の課題を一気に表出させる」「普段から準備していないことはできない」という事です。今回のコロナ蔓延はまさにそのような状態であったと思います。

 コロナ拡大のなか、検査や診療を担当する医療機関、特に入院患者さんを受け持つ民間病院に対して「協力・受け入れ態勢が不十分である」といったような根拠のない非難がありました。また、かかりつけ医機能の不足やIT化の遅れが、ボトルネックであったかのような議論もあります。いずれも現場を知らない人たちの無理解、誤解あるいは曲解です。

 ワクチン接種により、感染の危険性は少なくなり、周辺の無理解も減ったものの、日々変化する感染状況、患者の病状に対し、医療情報を集め、分析し、治療に尽力されてきた病院の先生方、患者さんと長く接する看護師さん、厳しい条件の中、昼夜を問わず対応された保健所職員の方々のご努力には深く敬意を表したいと思います。第1線で努力するこれらの方々が、患者さんの命と健康を守ったのは間違いありません。

 そのような現場の努力にもかかわらず、感染者は増加し、病床が逼迫し、自宅療養が容認され、不幸な転機をとる方も少なくありませんでした。その原因を現場に押し付けるのは簡単ですが、決してそうではありません。それまで覆い隠されていた問題点、平時の準備不足が一気に噴出しただけです。

 1980年代に始まった日本の新自由主義的経済政策は、小さな政府路線のもと、財務省の「財政再建至上主義」により、社会保障費が経済成長のお荷物と標的にされ、医療費の増高が国を亡ぼすいわゆる「医療費亡国論」が幅を利かせました。社会保障の機能である「所得再分配」は、まさに「税と社会保障の一体改革」を通して行われるべきですが、新自由主義の下では、社会保障費の伸びの抑制、消費税導入とその増税に終始しました。規制緩和、公的部門の民営化、法人税減税、労働者派遣法改悪の結果、非正規雇用が増え、賃金低下を招き、配当と株価が上昇。利益と富が一部に集中し、格差が拡大、貧困層、貯蓄ゼロの世帯を増やしました。雇用が安定せず賃金が上昇しないため、結婚が遅れ、少子化に歯止めがかからず、人口は減少を続け、日本経済は停滞したままです。これらは決して個人の努力不足のせいなどではなく、つまるところ政権の選択ミスではないでしょうか。

 では、私たちが携わっている医療は、この間どう扱われてきたのでしょうか。

 医療費抑制のため、医師数、看護師数を増やさず、病床数を削減し、自助を強調し、患者窓口負担を増やし、診療報酬のマイナス改定を続けました。コロナ蔓延の際には、感染症用病床も、ICU病床も少なく、専門の医師、看護師も不足しました。平時に余力のないギリギリの医療提供体制が、有事に機能するわけがありません。

 最近では「地域医療構想の実現」「医師の働き方改革」「医師偏在対策の推進」が三位一体改革として進められています。その建前は医療資源の分散、偏在、地域間格差解消のための病院の集約化、効率化ですが、その実態は、医療体制の拡充には程遠く、限られた予算制約の中でのやりくりに過ぎません。地域医療構想では、病院の統廃合が、公立病院を中心に行われています。不採算部門の提供は公的病院の機能の一つであり、コロナ禍のなか、特に地方においてその必要性が再認識された公立病院に、過度の採算性や効率を求めるべきではありません。

 また、「医師の働き方改革」では、いわゆる過労死ラインが容認され、それ以上に長時間働く病院勤務医はおよそ8万人残されています。さらに、医師の偏在対策では、医学部優先入試枠の拡大、医師少数地域での勤務を病院管理者の要件とすることなども検討されていますが、いずれも本質的な解決策とは言えません。

 さて、岸田新首相は当初「新自由主義からの転換」を掲げ、少なからず期待しましたが、そのトーンダウンぶりには失望せざるを得ません。冷静に考えれば、1980年代より長く続く自民党の中心的政策である「新自由主義路線」を転換するのは容易ではありません。「新しい資本主義会議」の人選を見ても、これまで通り財界の意向が色濃く反映されることは間違いないでしょう。

 さらに、首相が強調する「分配」に関しては、看護、介護、保育分野の労働者の収入を増やすため、公的価格の見直しを行うとしていますが、早々と財務省は「公的部門」の医療従事者の給与の原資である診療報酬のマイナス改定を主張しています。コロナ禍における医療逼迫の状況をかえりみても、あるいはコロナ第6波を前にして、プラス改定なくして、十分な医療を提供する体制の構築は不可能です。

 来年は診療報酬改定であり、年内には改定率が決定するでしょう。2020年度の医療費は予測値から5%以上低下しています。平時の医療提供を取り戻し、国民の命と健康を守るためには、10%以上のプラス改定が必要です。

 今年は県知事選挙、総選挙と神戸市長選挙がありました。協会は政治を変える機会として「開業保険医の要求案」を作成し活動しましたが、私たちの望むような結果にはなりませんでした。

 来年の夏には参院選が予定されています。協会は不偏不党を原則とし、これまで通り民主的議論と手続きを経て作り上げた具体的な「要求案」の実現に向け、署名運動や幅広い国会各政党・議員への働きかけを強めていきたいと思います。ご理解、ご協力のほどお願いいたします。

 私ども執行部は、開業医の生活と権利を守り、「患者・住民とともに地域医療の充実・向上をめざして、さらに運動を強化していきたいと思います。

 評議員の皆様のご理解とご協力、ご指導・ご鞭撻、時には叱咤激励を頂きながら、さらに協会の発展のために力を尽くしたいと思います。ともに頑張りましょう。

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