医科2010.08.27 講演
プライマリケアのための関節のみかた 下肢編(1)―足を診る(下) [臨床医学講座より]
西伊豆病院(静岡県)院長 仲田 和正先生講演
足の表面解剖
1.前方からの観察
まず、足関節を自力で内返しにしてみよう。はっきりと前脛骨筋(Tibialis anterior m.)が浮き出す。足関節の注射は、この前脛骨筋の内側(notch of Harty:図1)で内果下端の1cm上でできる。ただ、ここには点滴でよく使う大伏在静脈があるので、これを刺さぬよう気をつける。または外果の2横指上で、第5長趾伸筋腱の外側で刺してもよい(図1)。
次に足趾を反らしてみると、長母趾伸筋腱と長趾伸筋腱が浮き出す。靴による圧迫などでこれらの腱鞘炎が起こり、ときにはギーギーと音がすることもある。
足背動脈は長母趾伸筋腱と第2長趾伸筋腱の間にあり、深腓骨神経が伴走する。深腓骨神経は、前足根管症候群といって窮屈な靴で下伸筋支帯により絞扼されることがあり、1~2指間のしびれを起こす。絞扼部でTinel徴候がある。
足背動脈の簡単な見つけ方がある。足関節の外果と内果を結ぶ線の中点から、母趾と第2趾の間に線を引く。この線上に足背動脈はある(図2)。見当違いの所を触っているナースをよく見かけるので、教えてあげよう。
ランナーで説明のつかぬ足背外側の痛みがあるとき、浅腓骨神経の絞扼(図2)のことがある。浅腓骨神経は外果から7~10cm上で深部から浅層に出てくるが、ここで絞扼され足背外側のしびれを起こす。ここのTinelを確認する。内果の少し前下方に舟状骨を触れるが、ここに過剰骨の外脛骨がある場合(15%くらいで見られる)、痛みを起こすことがある。前脛骨筋により引かれるからである。
2.内側からの観察
足関節の内側は、内果の後方とアキレス腱の間にいくつかの腱と血管、神経がある。これを「Tom, Dick and Harry」と覚える。すなわち、内果側から後方へTibialis Posterior(後脛骨筋)、Flexor Digitorum Longus(長趾屈筋)、Artery(後脛骨動脈)、Nerve(脛骨神経)、Flexor Hallucis Longus(長母趾屈筋)と並んでいる。
これらの上を屈筋支帯が覆っており、この下にガングリオンや距踵骨間癒合症などがあると脛骨神経が絞扼されて足管根症候群(Tarsal tunnel syndrome)を起こし、足底のしびれ、灼熱感を起こし、絞扼部にTinelサイン(叩くと放散痛)がみられ運動で悪化する。下腿への放散痛(Valleix phenomenon)を起こすこともある。ガングリオンは、ここにエコーを当てればわかる。後脛骨動脈と脛骨神経の位置は、内果とアキレス腱の中点である。
足のしびれを診たとき、すぐ多発神経炎や脊柱管狭窄症と断定せず、足底のみに限局していないか調べ、内果後方のTinelを確認し足根管症候群を否定しよう。もし、第1~2趾間のしびれなら下伸筋支帯の下の足背動脈(深腓骨神経が伴走)のTinel(前足根管症候群)を、足背外側のしびれなら外果7~10cm上の浅腓骨神経のTinelを確認する。第3~4趾間に限局したしびれなら、Morton's neuromaを疑う。
後脛骨筋腱の炎症で内果後方が腫れ(MRIで腱の周りに滑液が見える)、断裂すればPTTD(後脛骨筋不全)を起こして扁平足となる(前記)。扁平足は後ろから見ると小指側の指が健足より多くみえるので、too-many-toes signという。長母趾屈筋腱腱鞘炎は爪先立ちになるバレリーナで見られ、母趾の動きで痛がり内果後方に腱鞘があるために、ここで母趾のばね指を起こすことがある。
アキレス腱の前後に滑液包があり、滑液包炎を起こすことがある(図3)。アキレス腱付着部後方の滑液包炎の場合、アキレス腱付着部の外側に腫瘤ができ、pump bumpといいパンプスを履いて起こる。
踵骨大結節(図3)が大きくて滑液包炎を起こすのを、Haglund病という。
またアキレス腱は腱鞘(二重構造の滑膜組織)はなく、パラテノンという滑膜様組織に覆われているが、この炎症(アキレス腱周囲炎)が起こる。
アキレス腱断裂では触診で窪みを触れるし、脱力させてふくらはぎをつかむと足が底屈する(Thompson's testあるいはSimmond's test)。
10歳前後の小学生が運動で踵の後部を痛がるときは、アキレス腱の牽引による踵骨骨端症(Sever's disease)のことが多い(踵骨骨端核は7~17:7歳で出現し17歳で閉じると覚える)。踵の痛みでまれに、踵骨骨髄炎(運動靴の小さな穿刺傷からの緑膿菌感染が多い)や踵骨疲労骨折のこともある。
サッカーのインステップキックやバレーの爪先立ちなどの足関節過底屈で、距骨後方の過剰骨である三角骨(図4)が脛骨と踵骨で挟まれて痛みを訴えることがある(三角骨症候群)。
過底屈で起こる距骨後部骨折は、Shephard骨折という。
サッカーなどの過度の底背屈で脛骨下端、距骨前方背面に増殖性骨変化が起こりimpingement exostosis、あるいはfootballer's ankle(図4)という。
まれであるが、足根骨癒合症(tarsal coalition)といわれる病態で痛みを起こすことがある(図4)。足根骨が完全に骨で癒合していれば痛みはないが、不完全に線維性に癒合していると痛む。距骨-踵骨間の後方(図4)、または踵骨-舟状骨間(図4)で10歳くらいから症状が出るので、少年の足の痛みの時念頭に置きX線で探そう(はっきり骨があるのでなくirregularになっていることが多い)。舟状骨-第1楔状骨間癒合症(図4)は、20~30代で発症することが多い。
外側からの観察
足を外返ししてみよう。腓骨の後方に、腓骨筋腱がはっきりと現れる。時に腓骨筋腱が、外果から脱臼することがある。以前テレビで、外果後方に1円玉を置き随意的にこの腱を脱臼させて、1円玉を飛ばす芸をする男性を見たことがある。踵骨骨折後に踵骨の外側が飛び出して、この腓骨筋腱炎を起こすことがある。正座や胡座をする日本人やアラブ人は、外果からその前方にかけての滑液包の液貯留がよく見られる。欧米人には稀らしい。
冒頭のモニカ・セレシュの写真(前号掲載)の如く、内反捻挫では足関節の外側の靭帯が引き伸ばされるから、外側の靭帯の損傷を起こしやすい。この場合、損傷は大体4カ所くらいに限られるので圧痛点を確認するとよい(図5)。すなわち外果のすぐ前下方の(1)前距腓靭帯、外果の後下方の(2)踵腓靭帯、足の外側で一番飛び出している(3)第5中足骨基部(Jone's fracture:ゲタ骨折)、そして外果と第5中足骨基部との中間あたりの(4)二分靭帯の4カ所である。この4カ所を、自分の足で同定できるようにしてほしい。
前距腓靭帯断裂の際、足関節の前方引き出しを行うと同部にえくぼ(dimple signまたはsuction sign)が見られることがある。捻挫の際、足関節に内反ストレスをかけてX線を撮るが、脛骨下面と距骨上面のなす角度は正常値6度以内である。これを越える時は、ギプスを巻いたり手術したりする。
前距腓靭帯、踵腓靭帯、第5中足骨基部骨折のときは手術やギプス固定をすることがあるが、二分靭帯あたりの圧痛の時はあまり心配いらない。老人では30~40cm踏み外しただけで踵骨骨折が起こることがあるので、足関節捻挫でも踵骨の圧痛も確認しよう。
また捻りが加わったとき、脛骨は遠位で腓骨は近位で折れることがあるので、捻挫では下腿上部から触診を開始する。
外果と脛骨を結合する靭帯を前脛腓靭帯(図5)というが、この損傷の時下腿を左右から押さえて腓骨を圧迫すると、この靭帯部で痛みを起こす(squeeze test)。
まれではあるがX線で見過ごされ、ひどい捻挫と診断されやすい骨折が三つある(図4)。
すなわち、距骨外側突起骨折(スノーボードでの内反捻挫で距踵靭帯で引かれて起こる)、立方骨圧迫骨折(nutcracker fracture:くるみ割り骨折:外返し捻挫で立方骨が踵骨と第4、5中足骨でくるみのように挟まれ骨折)、踵骨前方突起骨折(二分靭帯損傷と間違う)の三つである。腫れがひどい捻挫や3週以上にわたり痛みが続く場合は、X線でこれらの骨折を探す。
前距腓靭帯付近に足根洞(図5)といわれる窪みがあり、捻挫後この中にある距踵靭帯損傷などでここの圧痛や不安定性を起こし、局所にステロイド入り局所麻酔をすると改善する。
〈参考文献〉
1.FOCUS, 1990年10月12日号, P42, 新潮社
2.増原建二他, 足の臨床, Medical View, 2001
3.Nick Harris, Advanced Examination Techniques in Orthopaedics, GMM, 2003