医科2010.08.27 講演
子宮頸癌の予防ワクチン [診内研より]
神戸市立医療センター中央市民病院 産婦人科部長 北 正人先生講演
はじめに
子宮頸癌は、予防できる癌です。その理由は、1.原因が発癌性ヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)であると分かっている、2.前癌病変が異形性という病態として存在することがわかっている、3.その前癌状態を早期発見するための有効な検査法が細胞診、HPV-DNA検査として確立している、4.予防ワクチン(HPVワクチン)が実用化されている、以上です。
しかし、全ての子宮頸癌がワクチンで予防できるわけではありません。したがって、ワクチン接種後も検診は大切です。
早期発見が可能な子宮頸癌
子宮頸癌は、検診の普及に伴い早期発見が可能となり、早期に発見されれば高い治癒率(0期ならほぼ100%、1期で約90%)が得られることから、近年死亡数の減少が見られます。しかし、子宮頸癌は女性の癌の中でみると、世界中で第2番目に多く発生している癌であり、日本でも毎年約8000人が罹患し、進行期での治癒率はいまだ悪いため(3期で50%、4期で15~20%)、約2500人が子宮頸癌で亡くなっています。
特に近年、20歳代、30歳代の若年女性の発生数、死亡数の増加がみられ、それぞれの年代において最も頻度の高い癌となっています。
HPV感染が原因
子宮頸癌は、発癌性ヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)の感染が原因です。発癌性HPVは性交渉によって感染しますが、特別な人だけが感染するのではなく、ほとんどの女性が一生に一度は感染すると言われているほど一般的なウイルスです。
ウイルス感染を起こした女性のごく一部が発癌すると考えられており、感染から発癌までも通常は数年以上のゆっくりとした経過をたどります。発癌性HPVのうち、子宮頸癌から最も多く見つかるタイプは、16型と18型で、子宮頸癌のうち、約8割を占める扁平上皮癌の原因の7割がこのウイルスによるものと考えられています。また、HPVが原因であることは少ないと考えられていた腺癌も、HPVが原因である場合が多いことも明らかにされつつあります。
ワクチンは感染予防
このたび日本でも発売認可された子宮頸癌予防ワクチンは、この二つの型のHPV感染を防ぎます。ワクチンの型が一致する場合には、100%近い有効率が報告されています。また、感染性のない人工のウイルス様粒子を抗原として用いているので、安全性の高いワクチンと考えられています。
ただし、このワクチンは感染を防ぐワクチンであり、感染を起こしたウイルスを駆逐する効果はありません。したがって初感染する前に接種する方が有効であることから、100カ国以上の諸外国では9~16歳の女児に対して優先的に接種が行われています。
日本でも、日本産科婦人科学会、日本小児科学会、日本婦人科腫瘍学会が、11~14歳の女児に対して優先的に接種することを勧めています。また、HPVは、自然感染による免疫反応が弱く何度でも再感染することから、15~45歳までの女性に対してもワクチン接種をすることが勧められています。
医療経済的に検討した場合も、日本で12歳女児全員に無料でワクチン接種した場合、全体で190億円の医療費が抑制されると報告されています。そのため、世界的に全額公費負担で接種を施行している国が多いのです。日本でも、市町村レベルで公費助成の動きが広がっています。
HPVワクチンの問題点
HPVワクチンの問題点としては、以下のような項目があげられます。