医科2010.10.04 講演
プライマリケアのための関節のみかた 下肢編(2)―膝(上)[臨床医学講座より]
西伊豆病院(静岡県)院長 仲田 和正先生講演
膝関節の診察
膝関節の診察には、その解剖学を知らなければならない。膝は、伸展位と屈曲位では位置関係が全く変化する。当然だが、腓骨は外側にある。以下、自分の膝を触診しながら確認していただきたい。
屈曲位で、膝蓋腱の両側の皮膚のくぼみに指を置いてみる(図1)。ここが、関節裂隙であり、触診の開始位置である。このくぼみには膝蓋下脂肪体があり、太った人やステロイド使用者では脂肪が肥厚し盛り上がる。この脂肪を、腫瘍と考えて来院する患者さんもいる。
この脂肪にごまかされず、自分の指を眼にして骨を触診する。
ここから膝関節裂隙を内側にたどると、前から順に半月板前角、内側側副靱帯、半月板後角がある。ここは半月板付着部であり、半月板損傷時にはここに沿って圧痛があり、その感度は高い(図2)。内側側副靱帯自体は、はっきりと触診はできない。
内側側副靱帯損傷では、関節裂隙でなく靱帯の骨付着部に圧痛があることが多い(図3)。
膝蓋腱に戻りここから下へたどると、脛骨粗面(tibial
tuberosity)がある。Osgood-Schlatter's
diseaseは、ここに圧痛があり隆起していることが多い。
ジャンパー膝は、膝蓋骨の下縁または上縁に圧痛がある(図4)。
膝蓋骨上から膝蓋腱上は滑液包があり、滑液包炎を起こせばここに液貯留や、圧痛、発熱がある(図5)。膝蓋骨の触診は、伸展位のほうが分かりやすい。力を抜かせれば、膝蓋骨をずらして裏の関節面を触れることができる(図6)。膝蓋骨を外側へずらした時、患者が非常に怖がることをapprehension signと言い、膝蓋骨脱臼の既往のあるとき見られる。
膝蓋骨を左右に動かし、crepitus(ゴリゴリした音)があればOA変化である。
膝蓋骨脱臼は、必ず外側へ脱臼し内側には脱臼しない。下肢は、大腿骨長軸と膝蓋靱帯長軸のなす角度(Q-angle)が男性で15度以内、女性で20度以内あるため、大腿四頭筋が収縮すると膝蓋骨には外側へのベクトルが生ずる。だから、外側へ脱臼するのである。
膝蓋骨が二つに分かれる二分膝蓋骨が、有痛性のことがある。真っ二つに分かれているのでなく、外上方に遺残するapophysisである。
膝蓋骨内側に圧痛があるときは、「たな障害」と言い内側滑膜ひだの障害のことがある(図7)。「たな」とは、関節鏡で見た時、滑膜ひだが、ちょうど棚のように見えることからこの名がある。この滑膜が、膝蓋骨と大腿骨の間でひっかかるのが「たな障害」である。
次に、脛骨内側顆の裾野を触ってみる(図8)。ここには鵞足(pes
anserinus)があり、鵞足腱炎はここに圧痛がある。鵞足とは、内側ハムストリング(膝屈筋)の脛骨付着部である。
なお、ハムストリングのハムとは、もともと豚のお尻から太股の肉のことを言う。
ここから後方を触れると、内側ハムストリング筋群がある。最も後方に硬くこりこり触れるのが半健様筋である。内側ハムストリングを、後から前に向かって筆者は「てんぐす」(TMGS:semitendinosus→semimembranosus→Gracilis→Sartorius
muscle)と記憶している(何の役にも立たない知識である)。
関節裂隙から外側へたどれば、外側半月板がある。外側側副靱帯は、膝を組むとその上を覆う腸脛靱帯がゆるむため、よく触れる(図9)。硬く策状に触れるのが外側側副靱帯であり、腓骨頭に付着する。大腿二頭筋も腓骨頭に付着し、筋群の最も後方に触れる(図10)。この少し前方に触れるのが腸脛靱帯であり、脛骨のGerdy結節といわれる位置に付着する。
マラソン走者で時折見られる腸脛靱帯炎は、大腿骨外側上顆の2~3㎝近位で腸脛靱帯を圧迫しながら屈曲位から伸展させていくと、疼痛のためにできないのが特徴である。
膝後方で両側ハムストリング筋群の間で腫瘍をふれる時は、Baker嚢胞(図11)でありエコーを当てれば確定できる。エコーでlow
densityに写るが、粘調性の場合はややhigh
echogenicである。Baker嚢胞は、正確にはgastrocnemio-semimembranosus
bursaという。
関節水腫のみかた
関節液が貯まるのは、図12の範囲である。
関節水腫の有無は、手指を膝蓋骨の両側後方に当て、もう一方の手でsuprapatellar
bursaの水を押し出してくると波動を手に感じる(図13)。この方法なら、数mlの貯留でも検出できる。
膝蓋跳動(Patellartanzen)はsuprapatellar
bursaの水を遠位に押し出し、膝蓋骨を押すと大腿骨に衝突してコツコツと音がすることを言うが、かなりの水が貯まらないと陽性に出ない。
関節水腫の穿刺
穿刺は、膝蓋骨上縁レベルで外側から行う(図14)。水腫がない時に関節注入を行う場合は、膝蓋骨を外側にずらして膝蓋骨中間レベルで膝蓋骨の後方にできるスペースに注入すれば良い。または、関節裂隙の膝蓋腱外側で頭側へ45度、内方へ45度で針を刺入しても良い(図15)。
数十mlの関節血腫を見た場合は、まず前十字靱帯断裂を疑ってかかる。また、血腫に脂肪滴が見られる場合は骨折を考える。骨髄腔からの脂肪が出てくるからである。
膿盆に穿刺血液を入れ20~30秒待つと、脂肪滴が表面に浮いてくる。
血腫の原因として、時に血友病や色素性絨毛結節性滑膜炎(PVS:pigmented
villonodular
synovitis)のこともある。
変形性関節症の場合の水腫は、たいてい黄色透明であるが、偽痛風や関節リウマチでは白血球のために混濁し、とくにリウマチではrice bodyといわれる滑膜片を認めることもある。
側副靱帯損傷のみかた
膝伸展位で内反と外反をかけて不安定性を見て、次に膝30度屈曲位で同様に内外反をかける。側副靱帯損傷のみでは伸展位で関節裂隙は開かず、30度屈曲位なら開く。これは伸展位では十字靱帯が緊張し、側副靱帯の役割をしてしまうからである。30度屈曲すると、十字靱帯が緩むため、側副靱帯のみの緊張を調べることができる。伸展位で開くのは、側副靱帯損傷にACLまたはPCL損傷を伴うときである。(つづく)