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学術・研究

医科2010.11.25 講演

プライマリケアのための関節のみかた 頸椎の診察(上)[臨床医学講座より]

西伊豆病院(静岡県)院長 仲田 和正先生講演

はじめに

 鎖骨より上の外傷を見たら頸椎損傷の可能性を考え、直ちに装具により頸椎を固定する。
 正面衝突事故でも追突事故でも、頸椎伸展損傷、屈曲損傷いずれも起こりうる。レントゲンで頸椎損傷のないことを確認してから、装具を外す。
 髄膜炎の際の項部強直は前屈のみの運動制限であり、回旋などは制限されない。

1、神経分布の覚えかた(図1~2)

 上肢の神経所見を知覚、反射、筋力の三点から確認する。
 横隔膜はC3(C3-5)で、漢字の三(上と下を分ける横隔膜はC三)で覚える。
 肘屈曲は、C5(5本の指で思い切り自分の頬を叩く:肘を曲げるのはC5と覚えよ)、肘伸展はC7(肘をシチッ(7)と伸ばす)、図のように手関節の背屈はC6、掌屈はC7、手指屈曲はC8と覚えよう。
 知覚は、図の指でOKを作った範囲がC6である1。ただし、中指の知覚はC7である。小指の知覚はC8である。この母指のC6、中指のC7、小指のC8は一定しており、診断の指標として重要である。
 反射は上腕二頭筋反射(肘屈曲)がC5、腕橈骨筋反射がC6、上腕三頭筋反射(肘伸展)がC7である。
 腕橈骨筋反射逆転と言って、腕橈骨筋をハンマーで叩いたとき手指が屈曲する場合があり、C6病変の特徴と言われる。

2、症状は頸椎由来か、末梢神経か(図3)

 正中神経障害や尺骨神経障害は、手首より遠位の知覚神経障害であるのに対し、根障害では前腕にも感覚障害がある。
 しびれ患者1520例のうち、手根管症候群(低位正中神経障害)が20.3%、肘管症候群(尺骨神経障害)が19%という報告がある。両者とも手術で治せる疾患であるので、手のしびれではまずこの2疾患を否定するのが重要である。
 また、感覚消失の境界が明瞭な場合には、低位の末梢神経障害の可能性が大きい。
 例えば、正中神経障害や尺骨神経障害では、環指の真ん中で感覚消失の境界が分かれるが、これは頸椎由来の神経障害ではありえない。
 突然の錐体路障害で、一過性に弛緩性麻痺と腱反射減弱を呈することがあるが、病的反射(Babinski反射)は存在する。重要なのは、腱反射の亢進がなくても病的反射が陽性なら錐体路が障害されていると考えることである2
 上肢の腱反射の反射弓は、C5からT1にある。両上肢で腱反射がすべて亢進していれば、第4頸髄よりも高位で錐体路が障害されており、かつ下顎反射が正常なら皮質橋路は障害されておらず、病変は橋より下位になる。下顎反射は、両側の皮質橋路が障害されると亢進する。
 下顎反射は亢進(++)だけが病的状態で(-)、(+)は正常である2

3、神経根障害のみかた

 なお、頸椎は7個、頸椎神経根は8本あるため、頸椎では神経根は同一椎体の上から出るが胸椎、腰椎では同一椎体の下から出る。これを「上は上、下は下」と覚える。
 例えば、第5頸椎神経根は第5頸椎の上から、第5腰椎神経根は第5腰椎の下から出る。
 頸椎椎間板ヘルニアで椎間孔が狭窄していると、頸椎を伸展かつ患側へ側屈すると患側上肢への放散痛が見られる(Spurling's test)。
 放散痛のひどい患者では、肩を外転して神経根をリラックスさせると楽になることがあり、shoulder abduction relief signという。
 神経根症の痛みは、僧帽筋上縁付近の痛みはC5かC6、肩甲骨部あるいは肩甲骨間部の痛みはC7かC8と言われる3
 上腕から前腕にかけての外側(母指側)の痛みはC6、内側(小指側)の痛みはC8、後ろ側の痛みはC7と言われる。
 神経根症のほとんどは、片側頸部痛で発症し、頸部痛が前駆せず、上肢痛やシビレで発症することはまずない。一方、脊髄症の多くは指のしびれで発症し、頸部痛はない。
 だから指のシビレが主訴で頸部痛先行がなければ、脊髄症か絞扼性末梢神経障害を疑い、神経根症は除外してよい3
 筋肉のピクピクした痙攣(筋線維束攣縮)は、神経根あるいは脊髄前角細胞に病変があることを示す(前角細胞が障害されるALSでも見られる)。

4、脊髄症の特徴(図4)

 脊髄症(myelopathy)で指を閉じると、小指が離れて付かない現象の見られることがあり、これをfinger escape sign(小指離れ徴候)と言う。ひどくなると環指、中指も離れる。
 10秒間に手掌を下にしてできるだけ速く、グー、パーを繰り返すのを、10秒テスト(grip and release test)と言い、正常者では25~30回である(やってみるとよい)。
 これが20回に達していない場合、脊髄症を疑う。定量的に簡単に評価でき便利である4
 脊髄症での手のしびれの範囲は、神経根の圧迫の場合とは異なる。
 C5神経根はC5椎体の上、すなわちC4/5から出る(上は上)が、脊髄レベルでは、さらに一髄節上にある。すなわち図4の如く、C5神経は脊髄ではC3/4レベルにある。
 これを「見栄で上の上(特上)」、つまり「myelopathyでは上の上にある」と覚える。
 C3/4間で脊髄が圧迫されると3分の2の症例で全指尖がしびれ、C4/5では半分の症例で1~3指がしびれ、C5/6では半分の症例で3~5指がしびれる。C6/7では指のしびれは起こらない5
 また、機序がはっきりしないが、脊髄症で多発性神経炎と似た両手と両足のしびれを起こすことがあり、Babinskiの有無に注意しよう。

5、脊髄の知覚、運動路(図5)

 脊髄での知覚ルートを見てみよう。
 まず、温覚、痛覚、触覚神経が後角から入ると2次ニューロンに替わり、すぐ反対側へ交叉して脊髄視床路(spinothalamic tract)となる。エレベーターに人が乗る時のように最初に入る臀部、下肢からの知覚神経は外側に押しやられ、後から入る上肢の神経は内側に分布する。だから脊髄中心部にできる髄内腫瘍では臀部、下肢の温痛覚、運動が侵されぬ(lumbo)sacral sparingを起こす。
 また、老人が転倒して頸椎後屈すると、椎体後方骨棘と椎弓との間で頸髄が挟まれると(pincer mechanism)脊髄中心部が損傷され、両上肢麻痺が起こるが両下肢は免れる(中心性脊髄障害)。極端な例では、両手が使えないのにサッカーができたりする。
 振動覚、関節位置覚は後角に入ると、ニューロンを乗り換えずにそのまま後策を上行する。後策の内側が薄束(下肢の知覚路)、外側が楔状束(Th6以上の知覚路)である。なお位置覚は第2~4指を横から挟み上・下へ動かして答えさせる。第1,5指は対応する大脳野が広いので、それ以外の指がよい。
 エレベーターに人が乗るのと同じで、下方の臀部、下肢の神経は最初に入るから内側(薄束)へ押しやられ、後から乗り込む胸部(Th6以上)、上肢の神経は外側(楔状束)にある。頸髄から胸髄に発症する脊髄空洞症は脊髄の中心に起こるから、中心部で対側へ交叉する温痛覚のみが両上肢で障害され振動・位置覚は保たれる。
 Brown-Sequard症候群は、脊髄の一側全体の障害なので対側の温痛覚低下と同側の運動麻痺、位置覚障害である。知人の内科医師が脊髄炎によるBrown-Sequardを起こしたが、左手で内視鏡を支えられなくなり(運動麻痺)、右手で缶ビールの冷たさや風呂の温度が分からなくなった(温痛覚低下)のが初発であった。(次号へ続く)

〈参考文献〉
1、Hoppenfeld S.Physical examination of the spine and extremities,Appleton-Century-Crofts,Conneticut,1976
2、黒田康夫:神経内科ケーススタディー 新興医学出版 2002
3、田中康久:中下位頸椎の症候、脊椎脊髄 18(5):408-415,2005
4、和田英路:Myelopathy hand、脊椎脊髄 18(5):573-577,2005
5、平林洌、里見和彦ほか:単一椎間固定例からみた頸部脊椎症の神経症状-とくに頸髄症の高位診断について。臨整外 19:409-415,1984

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