医科2010.12.05 講演
プライマリケアのための関節のみかた 頸椎の診察(下)[臨床医学講座より]
西伊豆病院(静岡県)院長 仲田 和正先生講演
(前号の続き)
6、口手症候群、Pancoast腫瘍
視床の小病変で、手のしびれに口周囲のしびれを伴う口手症候群のことがあるので、手のしびれの場合は口(舌も)のしびれがないか聞いておく。
Pancoast腫瘍は、肺尖から上方へ進展するから小指のしびれから始まる。小指のしびれを見たら、Pancoastも念頭に置け。X線で肺尖のapical capの増大、上位肋骨の浸食像がないか注意。Horner症候群(Th1)や母指球、小指球(C8、Th1)の委縮が見られることもある。
7、強い頸部痛の鑑別
突然発症する強い頸部痛では、髄膜炎(前屈のみ障害、回旋はOK)、石灰化性頸長筋腱炎(椎体前の軟部組織が腫脹)、crowned dens syndrome(C1/2のtransverse ligamentの石灰化、CTで診断)、小児では椎間板石灰化などを考える。その他、咽頭後壁膿瘍(口腔所見、X線で椎体前の軟部組織腫脹)、椎骨動脈解離(MRIで椎骨動脈の腫脹、flow void消失、延髄外側症候群を起こす)、脊髄硬膜外血腫(MRIで診断)、縦隔気腫(頸椎側面X線で椎体前にエアーが見られることあり)などがある。PMRもよく見られる。
8、頸椎X線のチェックポイント
頸椎X線は、外傷では3方向(正面、側面、開口位正面)撮るのが基本である。
頸椎側面写真が重要であるが、頸椎損傷で側面X線を撮る場合、両手を尾方へ引っ張り極力第7頸椎まで写るようにする。椎間板変性などでは、必要に応じ斜位X線をとり椎間孔を調べる。
正面X線では必ず肺尖も確認し、Pancoast腫瘍を否定する。すなわち、apical cap増大の有無、上位肋骨破壊の有無を確認する。
頸椎棘突起はC2からC5までは9割が二股に分かれているが、C6は5割が二股、C7は1割しか二股に分かれない。椎間関節の片側脱臼があると、それより上の棘突起は脱臼側に転位するので、一直線上に棘突起があることを確認する。
正面像で、頸椎か胸椎かの鑑別は横突起でわかる。頸椎の横突起は下向きであるが、胸椎横突起は上向きになる。頸肋は、頸椎から出る肋骨であるが、その起始の横突起が下向きであれば頸肋と判断できる。
頸椎X線のチェックポイントを示す。
(1)四つのラインのアラインメントが、滑らかであるのを確認する(図)。
四つのラインは、皆前方に凸である。
四つのアラインメントの内、棘突起を結ぶ線ではC1は含めない。
頸椎が前方亜脱臼している時、それが生理的なものか病的なものか見分け方のコツは、病的な時はアラインメントの変化が急でかつ損傷のある場所に限られるのに比し、生理的な時は頸椎全長にわたり予測可能な範囲でずれが存在することである5。
(2)ひとつずつ、骨の輪郭(前から後ろまで)と椎間板の厚さを追う。
椎間板の厚さは、頸椎ではどれも大体等しい。
(3)計測
1)Atlanto-axial distance(AAD:環椎歯突起間距離)
成人≦3㎜以下
小児≦5㎜以下
これ以上に開大している時は、環軸椎亜脱臼である。
2)棘突起間の距離
第2-3棘突起間は他よりも幅が広いが、第3棘突起以下は棘突起間は大体等しい5。
椎体骨折などで棘突起間が広がる(fanning)。
3)椎体前縁の軟部組織の距離
C2-4レベルで成人/小児≦7㎜
石灰化性頸長筋腱炎や咽頭後壁膿瘍で、この幅が拡大する。
C4レベルで椎体前の軟部組織距離はC4椎体前後径の10分の4を超えない6。
C6レベルで:成人≦22㎜(C2-4レベルの約3倍)
小児≦14㎜(C2-4レベルの約2倍)
縦隔気腫で、椎体前の軟部組織にエアーが見られることがある。
〈参考文献〉
1.Hoppenfeld S.Physical examination of the spine and extremities, Appleton-Century-Crofts, Conneticut, 1976
2.黒田康夫:神経内科ケーススタディー 新興医学出版 2002
3.平林洌、里見和彦ほか:単一椎間固定例からみた頸部脊椎症の神経症状-とくに頸髄症の高位診断について。臨整外 19:409-415, 1984
4.寺沢秀一、島田耕文、林寛之:研修医当直御法度 三輪書店 1996
5.John H.Harris, The radiology of acute cervical spine trauma, the Williams&Wilkins, 1978
6.Amil j.Gerlock, The advanced exercises in diagnostic radiology, The cervical spine in trauma, W.B.Saunders, 1978
7.神津仁:しびれの診方. JIM 16: 706-711, 2006
8.田中康久:中下位頸椎の症候、脊椎脊髄 18(5):408-415,2005
9.和田英路:Myelopathy hand、脊椎脊髄 18(5):573-577,2005