医科2011.02.25 講演
プライマリケアのための関節のみかた 腰痛診断(中)[臨床医学講座より]
西伊豆病院(静岡県)院長 仲田 和正先生講演
(前号からの続き)
7、神経所見はL4、L5、S1の異常を確認する
下肢への放散痛がある場合は、その位置を聞く。L3/4のような高位椎間板ヘルニア(L4神経根障害)の場合は、大腿神経に沿って大腿前面から膝内側にかけて放散痛があるし(膝疾患と間違われる)、L4/L5やL5/S1のような下位椎間板ヘルニアなら、坐骨神経に沿って大腿後面から下腿外側、後面、さらに足指に放散することもある。足背または第1指への放散痛ならL5、足底または第5指への放散痛ならS1の神経根症状である。
図1から分かるようにL4/L5のヘルニアの場合、L5とS1の神経根が障害される。L5/S1ヘルニアでは、S1神経根が障害される。
脊椎椎間で硬膜内の最外側(一番狭い場所)に位置する神経は、そのレベルで分岐して硬膜外へ出ていく神経である。例えばL4/L5椎間であれば、硬膜内で最外側にあるのはL5神経で、その内側にS1がある。この位置で、ヘルニアが硬膜内で一番狭いところにあるL5神経を障害せずに、それより広いところにあるS1神経を障害することは考えにくい。
つまり、L4/5のヘルニアではL5とS1の二つが障害されることはあっても、S1単独障害は起こりえない。1
腰椎椎間板ヘルニアの9割は、L4/5とL5/S1の二つの椎間板で起こるから、ヘルニアを疑ったときはL4、L5、S1の神経症状を反射、知覚、筋力の3点から確認すればよい。
調べるべき反射は二つ、膝蓋腱反射(PTR)とアキレス腱反射(ATR)である。
膝蓋腱反射は、L4をみている(膝蓋腱は大腿四頭筋だからL4と覚える)。
アキレス腱反射は、S1をみている(Achillesの1番のウィークポイントと覚える)。知覚は、脛骨稜の内側がL4、外側がL5である。
特に母趾と第2趾の間は、L5の固有領域である。足底はS1である。
特に外果の下方は、S1の固有領域である。筋力は足関節の内反がL4、足関節背屈、足趾背屈がL5(足趾5本反ってL5と覚える)。足関節外反と底屈、足趾底屈がS1である。大雑把には、つま先立ち(S1)と踵立ち(L4、L5)ができるか見ればよい。
以上から、椎間板ヘルニアがL4/5かL5/S1か同定できる。
大腿周囲長(膝蓋骨の10㎝上で計測)、下腿周囲長(一番太い位置で計測)も筋萎縮を見るのに重要である(特に2㎝以上の差)。
SLR(straight leg raising)はヘルニアに特徴的なサインであるが、70度以上の挙上では健常人でも膝窩部のつっぱりを訴える。SLRはギランバレーのような神経根を含む急性多発神経根炎でも、陽性に出ることがある。
SLRと筋線維束攣縮(筋肉のピクピクした自発収縮)は、末梢神経近位部の神経根に病変があることを示す。脊髄前角細胞の障害でも筋繊維束攣縮が起こるが、SLRが出ることはない。
Crossed SLR(健側下肢挙上で患肢の痛みを訴える)は陰性のことも多いが、あればヘルニアのさらに有力な証拠である。L3/4の高位椎間板ヘルニアでは、FNS(femoral nerve stretching:伏臥位にして下肢を天井に向かって持ち上げると大腿前面に放散痛を訴える)テストが陽性に出る。
8、画像診断はMRIが優れる
赤旗兆候がない時の腰痛は、画像診断は1カ月は不要である。癌に対し感度の高いのはMRIとシンチ、特異度の高いのはMRIとX線である。
感染には、MRIが感度、特異度とも優れる。2
ヘルニアに対しては、CTよりMRIがやや優れる。脊柱管狭窄症はCT、MRIは同程度である。2
癌、感染の否定には血沈、CBC、検尿を行う。
9、腰椎X線読影のエッセンス
腰椎X線読影は、実際にX線をスケッチして解剖書あるいは脊椎標本と見比べ、解剖名を書きこんでいくのが一番力がつく(図2)。
腰椎正面は、必ず股関節を含め撮るとよい。骨だけでなく、軟部組織も見る。後腹膜腔は脂肪が豊富で、筋肉、肝、腎、脾と濃度差が生ずるため、X線でその輪郭が追える。膵はその後方には脂肪があるが、覆われていないためX線で見えない。子宮や卵巣も、周囲に脂肪がないから見えない。
正常でガスのあるのは、胃、十二指腸、大腸である。小腸にはない。ただし、老人では小腸ガスの見られることがある。
腸腰筋(iliopsoas m.)は、腰椎横突起から出て大腿骨小転子に付く。腸腰筋膿瘍で腸腰筋の左右の輪郭が違って見えることがある。腰方形筋(quadratus lumborum m.)は腸骨に付着するから、そこで終わる。大臀筋(gluteus maximus m.)は、腸骨の少し下方に見える。側腹部では側腹線(flank stripe)があり、腹水があると、側腹線と上行結腸の間が2㎜以上のwater densityになる(flank stripe sign)。
よく見ると、側腹線の外側にさらに腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋があるのが分かる(図3)。側腹線を形成する脂肪層は、これらの一番内側の層であるので、間違えないように。
側腹線は、下方で内閉鎖筋の上の脂肪層に連続し、さらにこれは膀胱頂部へ移行する。
股関節の関節液貯留を見るには(図4)、周囲の中臀筋が外へ押されるgluteus medius sign、腸腰筋が押されるiliopsoas sign、内閉鎖筋が押されるobturator internus signがある。涙骨-骨頭間距離の左右差も液貯留を疑う。しかし、股関節の関節液の検出には、エコーの方が鋭敏である。
脊椎正面像では腰椎横突起はL3が一番大きく、L4から横突起は上向きになる。
上関節突起(superior articular process)、下関節突起(inferior articular process)の位置をよく観察しよう(図5)。目玉のように見える椎弓根は、癌転移で破壊されて一方の椎弓根しか見えない場合、one-eyed vertebra signという(ただし好発部というわけではない)。
側面像(図6)では、椎体はL1から下に行くにつれ徐々に椎体は大きくなるが、L5は少し小さいこともある。椎間板もL1/L2から下に行くにつれ厚くなるが、L5/S1は個人差がありやや狭くなることが多い。第12胸椎は、肋骨が起始していることでわかる。
胸椎側面X線では、第12胸椎が分からない限り胸椎の番号は同定できない。側面で上関節突起、下関節突起、棘突起の位置に注意(図6)。側面で横突起の位置が即座に指摘できれば、たいしたものである。筆者が学生を教育する際、側面で横突起の位置を言えれば、腰椎X線読影は卒業としていた。
斜位X線で腰椎をスケッチして、解剖名を同定できるようにしよう。
腰椎分離症では、図7のように斜位X線で分離部分が、スコッチテリアの首輪のように見える。(次号につづく)
〈参考文献〉
1.腰仙椎部神経症状 菊地臣一・蓮江光男p20-21、金原出版1996
2.Jeffrey G.Jarvik et al.Diagnostic evaluation of low back pain with emphasis on imaging.Ann.Intern Med.2002;137:586-597.