医科2011.06.15 講演
低血糖症状についてのアンケートのまとめ
[第19回日常診療経験交流会演題より]
尼崎市・薬局リベルファーマシー 滝本 桂子(薬剤師)
はじめに
2009年に尼崎市のある基幹病院から連絡があり、それまで院内で手渡していた糖尿病患者へのブドウ糖を、院外で薬の受け取り時に渡すよう指示があった。
早速、教育入院から退院したばかりの患者家族に手持ちのブドウ糖について質問したところ、まったく話がかみ合わなくて、低血糖について患者やその家族の認識に対して疑問を感じ、実態調査を行うことにした。
方 法
☆アンケート調査対象について
糖尿病の薬物治療を受けている患者に対する服薬指導の時の聞き取りを、各調剤薬局に依頼。
☆調査期間
2010年9月から約1カ月間。
11の医療機関の協力を得て、89人の患者から回答を得た。
結 果
別掲の図1~11の通り。
まとめ
(1)低血糖症状について、70%が説明を受けたと答えている。
(2)説明を受けたのは、医師から53%、薬剤師から24%、看護師から22%で、半数以上が医師からであった。
(3)低血糖症状について、72%が理解できている。
(4)実際に低血糖を経験しているのは、45%であった。
(5)低血糖症状を起こしたことがある患者では、85%が低血糖についての説明を受けていた。低血糖について理解できていた患者は、93%であった。
低血糖症状を経験していないと答えた患者で、説明を受けたのは57%。理解できているのは、55%にとどまっていた。
(6)低血糖症状は冷や汗や脱力感、めまい、ふるえ、空腹感等、添付文書上の症状に一致するが、「地獄へ落ちる感じ」等の表現もあり、恐怖を伴う感覚であることがわかる。意識喪失や、それに近い症状も見られる。
(7)αグルコシダーゼ阻害薬服用の患者はブドウ糖で対処しており、教育が行き届いていることがわかった。
(8)低血糖症状を起こした原因について、食事量、運動量、薬の量と特定できているのが55%。残り45%は、不明であった。
(9)家族が低血糖症状について認識しているのは、43%にとどまっていた。不明の25%はほとんどが独居とみられ、知らない32%にも独居が含まれる。高齢者だけでなく、壮年層にも単身生活者が見られる。
(10)多剤併用者が、47%を占めている。
(11)内服薬1剤のみでは、低血糖症状を経験した患者が30%以内であったが、2剤以上の併用者では40%を超え、インスリンの使用者では80%近くにのぼった。
さいごに
糖尿病で入院すれば、ほとんどの患者は糖尿病教室に参加したり、退院時指導を受けたり、何らかの教育を受けているものと考えられる。インスリン注射の導入時には、血糖値の測定や注射の手技等を習得しなければならない。低血糖症状についても、繰り返し説明を受けているだろう。
しかし、3割の患者で低血糖症状について、誰からも教えられなかったと答えている。もちろん、それは患者自身の認識であり、実際にブドウ糖を手渡し薬歴に記載している患者でも「聞いたことがない」と答える方もあることから、説明者とそれを受ける者との間には温度差があると考えられる。
薬局では、同じ薬を繰り返し渡していると、何も説明することがないと考えがちであるが、日常的な会話の中で低血糖症状についてのチェックができる立場にいると思う。あまり大げさに言われると、コンプライアンスが悪くなると心配する声も聞くが、さりげない会話の中で、「あれは熱中症だったのかな? 低血糖だったのかな?」といったことが聞き出せる関係性を持つことが大切だと考える。
実際に低血糖症状を起こしたことがあると答えた患者の割合は、添付文書上の割合をはるかに超えている。高所で現場仕事をしている方や、車や機器の操作をしている方など、直接生命を脅かすような事故につながりかねないことを忘れてはならないと思う。