医科2011.10.15 講演
復職支援における医療的アプローチと職場との連携(上) [第19回日常診療経験交流会演題より]
たつの市 室井整形外科・心療内科 高森 信岳
はじめに
近年、景気悪化に伴う職場環境の変化により、職場におけるストレスは増加し、それに伴い不適応反応を示す労働者も増加している。
職場におけるストレス対策は注目されてはいるが、内科を専門とする産業医では対応に苦慮するケースもある。また、企業の立場でも一般科の産業医と精神科専門医を確保することは、困難であることが多い。
職場復帰支援の手引き
復職支援における指針として、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(以下「手引き」)がある(図1)。
「手引き」は、厚生労働省のホームページより入手できる(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei28/index.html)。
「手引き」では、精神科主治医との連携も強調されているが、最終的な復職判断を行うのは、産業医とされている(図2)。
心の健康問題を起こす疾患
近年、うつ病の概念は広がっている。理由として、アメリカ精神医学会の診断と統計の手引き(DSM-4)、および国際疾病分類(ICD-10)の操作性診断基準の導入に伴うものである。
うつ状態を示す疾患として、うつ病、気分変調症、双極性障害(躁うつ病)、適応障害、人格障害、神経症性障害、軽度発達障害、アルコール依存症、統合失調症の陰性症状などがある。各疾患により、治療法、対応方法が違う(図3)。 従来型のうつ病は、病前性格として規律や秩序を好み、他者配慮的な性格傾向がある。職場の対応としては十分な休養が必要で、十分な抗うつ薬の服薬指導、認知療法が有効とされる。
これに対して、いわゆる「新型うつ病」の中核群と考えられる気分変調症は、従来は抑うつ神経症と診断されている。未熟な性格傾向があり、職場の対応として人材育成の視点が必要で、適切な目標設定が重要である(従来、五月病といわれていたものが含まれる)。
薬物治療は、うつ病と異なり部分的にしか反応しないことが多い。対応の原則として従来のうつ病に準じることが多いが、休職期間については短めの期間の方がその後職場復帰につながる印象を持つ。
双極性障害については、躁とうつと感情変化を認めるもの、うつ状態が長時間続きその後軽躁状態が続くものなどがある。軽躁状態は患者さんにとって心地よい状態であるが、そのあとのうつ状態があるので注意を要する。治療は、気分安定薬を中心とした処方である。
適応障害はストレス関連疾患で、ストレスに対する病的反応と考えられる。ストレス因としての職場環境調整が重要で、ストレス対策としてカウンセリング等の心理療法が重要である。抗うつ薬については、対症療法と考える。
人格障害についても、職場で問題になることが多い。職場のルールに則った対応、どこまでが理論的に可能かではなく、物理的限界設定が重要である。人材育成の視点が必要で、カウンセリングでの継続的な治療が求められる。
近年、軽度発達障害についても、問題が表面化しつつある。IQ70以下が知的障害の病的な基準であるが、部分的に知的機能のごく軽度の障害(IQ80~95以上、もしくは統計的にIQ値の15%以上の差、および臨床症状)を認め、情報処理が不十分で容易に不安発作、うつ状態を誘発して問題が顕在化される。これについても、限界設定、職場のルールに則った対応、社会技能訓練(SST)等で対応する。
(次号に続く)