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学術・研究

医科2011.11.15 講演

日常診療における認知症薬物療法の新たな選択肢~メマンチンへの期待~[保険診療のてびき]

香川大学医学部精神神経医学講座 中村  祐先生講演

はじめに

 認知症は誰でもかかりうる疾患であり、その発症に最も深く関連しているのは「加齢」である。わが国の高齢化は急速に進行しており、それに伴い、認知症患者は急増している。
 一般の高齢者でアンケートをとったところ、「癌」よりも「認知症」の方がかかりたくないと答えた方が多く、高齢者の間では、最も恐れられている疾患となっているようである。その原因として、治療法がほとんどないことがあげられると考えられる。
 今春、複数の抗認知症薬が上市され、その中でもメマンチン(メマリー(R))はドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害剤とは異なるメカニズムを持つ薬剤であり、認知症の治療の枠組みを大きく変えることが期待されている。

アルツハイマー型認知症の診断 

 認知症患者の多くを占めるのは、アルツハイマー型認知症であり、その発症には「加齢」の寄与が最も大きい。
 香川大学医学部附属病院物忘れ外来での調査では、「物忘れ」を主訴とした場合、その8~9割がアルツハイマー型認知症であることが分かった。
 一般の外来で、「物忘れ」を主訴として相談があった場合、アルツハイマー型認知症である可能性が高く、X線CT検査や身体的な検査などで他の血管性の疾患や全身性の疾患などを除外すれば、比較的簡易にアルツハイマー型認知症と診断できるのではないかと考えられる。

メマンチンの開発経緯

 メマンチンは、ドイツのMerz社で開発された、グルタミン酸受容体サブタイプの一つであるN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗を作用機序とするアルツハイマー型認知症の治療剤である。
 メマンチンは、選択的なNMDA受容体拮抗作用を有し、受容体に対して低親和性で、結合および解離速度が速い特徴があり、生理的なグルタミン酸神経活動には影響せず、過剰なグルタミン酸による神経細胞毒性に対し抑制作用を有する。
 メマンチンは、2002年に欧州医薬品庁(EMA)、2003年に米国食品医薬品局(FDA)よりアルツハイマー型認知症を適応として承認され、世界70カ国以上で主に中等度から高度アルツハイマー型認知症を適応として上市されている。
 本邦においても、用量設定試験や二重盲検比較試験等の臨床試験を実施し、本剤の有効性と安全性が確認されたため、「中等度および高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」の効能・効果で国内製造販売承認申請を行い本年1月に承認を取得し、本年6月8日に上市された。

臨床効果

国内第Ⅲ相試験(IE3501試験)
 中等度から高度アルツハイマー型認知症患者(MMSEスコア:5点以上14点以下、FASTステージ:6a以上7a以下)432例を対象に、本剤20㎎(5㎎/日、10㎎/日および15㎎/日をそれぞれ順に1週間投与後、20㎎/日を21週間投与:計24週間投与)、もしくはプラセボを24週間投与する二重盲検比較試験を実施した。
(1)認知機能評価スコア変化量の推移
 投与4週後以降、メマンチン群はプラセボ群に対して有意に進行を抑制した。
 すなわち、投与24週後評価のプラセボ群とメマンチン群のスコア変化量の差は4.53点であり、両群間に有意差が認められた(図1)。
(2)行動・心理症状評価スコア変化量の推移
 最終時のBehave-AD(BPSD、周辺症状の評価尺度)スコア変化量は、メマンチン群-0.25点、プラセボ群0.91点で、メマンチン塩酸塩群はプラセボ群に対し有意差が認められ、悪化を防いだと考えられる(図2)。
ドネペジル塩酸塩との併用試験(外国人データ:米国)(MEM-MD-02)
 米国において、ドネペジル塩酸塩の治療を6カ月以上受けている中等度から高度アルツハイマー型認知症患者(MMSEスコア:5点以上14点以下)403例を対象に、メマンチン20㎎もしくはプラセボを24週間投与する二重盲検比較試験を実施した。
(1)SIBスコア変化量の推移
 投与8週後以降のSIBスコア変化量において、メマンチン+ドネペジル併用群は、ドネペジル単独群に対し有意に進行を抑制した(図3)。
(2)日常生活動作スコア変化量の推移
 投与4週後以降のADCS-ADL19スコア変化量において、メマンチン塩酸塩+ドネペジル塩酸塩併用群は、ドネペジル塩酸塩単独群に対し有意に進行を抑制した(図4)。

メマンチンの副作用

(1)薬物代謝酵素P450(CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4)による代謝の影響を受けにくい薬剤である。
(2)国内における承認前の臨床試験において、1,115例中408例(36.6%)に副作用が認められた。主な副作用は、めまい52例(4.7%)、便秘35例(3.1%)、体重減少24例(2.2%)、頭痛23例(2.1%)等であり、副作用の少ない安全性の高い薬剤である。

用法・用量と使い方

(1)漸増法
 通常、成人にはメマンチン塩酸塩として1日1回5㎎から開始し、1週間に5㎎ずつ増量し、維持量として1日1回20㎎を経口投与する。これは、頭痛やめまいなどの副作用の発現を抑えるために重要である。
(2)維持量について
 後期第Ⅱ相試験の結果、有効性の面から用量反応性が認められ、長期投与での効果を期待するためには、メマンチンの推奨用量(維持量)は20㎎/日とされている。
(3)高度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス値:30mL/min未満)のある患者には、患者の状態を観察しながら慎重に投与し、維持量は1日1回10㎎とすることが推奨されている。

重症度を評価する

 重症度は、低く見積もられやすい傾向がある。重症度は臨床症状を基に判断を行うことが基本であり、認知機能テストの点数は参考程度とする。
 なお、抗AD薬の適応における重症度は、BPSD(認知症に伴う心理行動症状、興奮、焦燥、暴言、暴力、徘徊など)の有無や程度によらないことに注意が必要である。
 軽度:主に記憶障害(物忘れ)による生活や社会活動の障害
 例:頻回の置き忘れ、約束忘れ、大切なもののしまい忘れ、仕事上の失敗、複雑な料理ができない、複雑な道具・電化製品(リモコン)が使えない、などで、感情面では、不安や軽度のうつが前景に出やすい。
 中等度:認知機能障害による基本的な生活や社会活動の障害
 例:天候や状況に合わせた服装やあいさつができないことがある、簡単な料理で失敗、簡単な道具を使う際に失敗あり、最近の大きな出来事(災害など)の忘却、身の周りで起こっていることへの関心の低さ(テレビ、新聞、雑誌を見る頻度が低下する)などで、感情面では、イライラ(焦燥感)や易怒性が前景に出やすい。
 高度:認知機能障害による基本的な生活活動の著しい障害
 例:ブラウスやシャツのボタンが留められない、風呂に入るのを嫌がる、待合などでじっとしていられない、家事や日課をほとんどしなくなる、などで、感情面では、自閉が前景に出やすい。

まとめ

 メマンチンは、コリンエステラーゼ阻害剤とは作用機序が異なることから、コリンエステラーゼ阻害で効果が認められない、または不十分な患者や副作用(消化器症状や易怒性など)で投与継続困難な患者にも効果が期待される。そのため、海外ではメマンチンは単独投与で使用されることに加え、コリンエステラーゼ阻害に併用をおこなったり、切り替えて使用されている(図5)。
 このように、メマンチンはAD治療における新たな選択肢になり、AD治療の幅を広げる有用な薬剤になり得ると考えられる。
(10月15日・神戸支部第32回総会記念講演より)

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