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学術・研究

医科2011.11.25 講演

リンパ浮腫に対する治療とケア [診内研より]

学校法人後藤学園附属リンパ浮腫研究所所長 佐藤佳代子先生講演

1.リンパ浮腫とは

 リンパ浮腫は、組織間液の循環システムを担うリンパ管系の輸送障害および細胞性蛋白処理機能の低下により生じる。
 分類として、遺伝的素因等による原因が明らかでない「原発性リンパ浮腫」と、リンパ節郭清を伴う悪性腫瘍治療や照射後の皮膚線維症等に起因する「続発性リンパ浮腫」に分けられる。
 重症化すると、日常生活に支障を生じるため、早期からの取り組みが必要である。

2.リンパ浮腫の症状

 主症状として、むくみ、だるさ、疲れやすさ、皮膚の乾燥、硬化、線維化、脂肪組織の増加等があげられる。
 症状は、びまん性に進行するが、頻繁に炎症を繰り返すと象皮病にまで進む場合もある。
 発症時期については、術直後に発症する場合もあれば、5年や10年以上経過してから発症することもある。

3.リンパ浮腫の病期

 病期分類については、国際リンパ学会によるものが指標とされる(表1)。
 患肢は、部位によって病状が異なることが多いため、最も進行した部位より判断される。

4.保存治療

(1)複合的治療の概要
 複合的治療(Complex Physical Therapy:以下、CPT)は、解剖学的な循環系やリンパ管の走行、皮膚機能を考慮した四つの要素〔スキンケア〕〔医療用リンパドレナージ(Manual lymph drainage:以下、MLD〕〔圧迫療法〕〔運動療法〕を用いる。
 患者の個別の状態に応じて実施することにより、組織間隙に過剰に貯留する浮腫液を軽減し、皮膚症状を改善させる。早期より適切な治療やケア、指導を開始することで症状の深刻な重症化を防ぎ、QOL低下を招くさまざまな合併症の発症頻度の減少を期待できる。
 発症予防や症状悪化の回避を目指した日常生活における留意点やセルフケア指導(患肢挙上、リスク管理等)を併せて行うことにより、奏功的に治療効果を得られる。
(2)適応と禁忌
 CPTの「適応」は、主にリンパ輸送障害や慢性静脈疾患に起因する局所性浮腫であり、施術介入による身体的悪影響を伴わず、過剰な貯留液の軽減を期待できる疾患が対象となる。
 「禁忌」については、後述する一般禁忌と局所禁忌に区別される。悪性腫瘍がリンパ管に浸潤し発生した浮腫は相対禁忌とされる(表2)。
(3)医師による診察、治療構成の確認
 CPTを開始する際には、必ず医師の診察を受け、既往歴、現病歴、内臓性浮腫およびその他の浮腫をきたす疾患との鑑別、合併症や皮膚疾患の有無、適応禁忌を確認する。
 治療方針は、単純性のリンパ浮腫であるのか、脂肪浮腫、静脈性浮腫等を合併する混合型であるかにより異なる。
(4)治療法とケア
 1.スキンケア
 治療開始前に、左右肢の温度や皮膚状態(発赤、発疹、熱感、冷え、外傷、創傷、潰瘍、真菌感染等の有無等)、急性皮膚炎や蜂窩織炎等の有無を確認する。特に外性器のリンパ小疱、リンパ漏等は、気がつきにくいため注意する。
 皮膚保湿には医師から処方された軟膏類、市販の保湿クリームなどを用いる。
 2.医療用リンパドレナージ(MLD)
 MLDは、皮膚を直接手で触れて伸張させることにより表在リンパ管系に対して刺激を与え、リンパ浮腫を改善させるマッサージ技術である。毛細リンパ管に刺激を与えることでリンパ液の生成を促し、リンパ管の自動運搬機能を高める。
 変化の度合いには個人差があるが、患肢のまだらな硬さや、乾燥して硬くツッパリ感のある皮膚に緩やかな伸張性が出てくる。美容目的のリンパドレナージとは、異なる。
 3.圧迫療法
 圧迫療法には、弾性包帯を用いたバンデージ療法、および弾性着衣を着用する方法がある。これらの方法を用い、患肢を外部から適度に圧迫することにより、間質組織圧を高め、水分の透過性を抑えるとともに、組織間液やリンパの再貯留を防ぐ効果がある。
 原則として、患肢の末梢部にかかる圧が最も強く、中枢部に向かうに従い漸減する段階的な圧勾配を考慮する。
 4.排液効果を促す運動療法
  (圧迫下にて)
 弾性包帯や弾性ストッキングにて圧迫した状態で運動をすると、圧迫要素による皮膚の外壁と筋収縮により組織間隙が挟まれ、適度に圧迫されることでリンパ液の排液効果を高める。
 運動療法の内容は、患者の全身状態を考慮した上、日常生活のなかでも無理なく繰り返し行える、筋ポンプ作用を中心とする。

5.日常生活

 炎症を起こす要因は、日常生活のいたる場面に存在する。「皮膚を傷つけないようにすること」「過労を避ける」ことを心がけることにより、症状悪化や炎症を起こすリスクを最低限回避できる。
 生活指導の際には患者の生活行動を制限しすぎることのないよう十分に配慮いただきたい。
 症状悪化を回避するポイント(例):皮膚の潤い・清潔を保つ、深爪・虫刺され・ペットによる引っ掻き傷・締めつけの強い下着や靴下を避ける、足のサイズに合った靴を選ぶ、長時間の同じ姿勢・正座姿勢・長時間の温泉浴・サウナ浴(※長時間には個人差があるため、個人の無理のない程度を目安に)、重い荷物は分けて運ぶ、栄養バランスの良い食事をする、等

6.リンパ浮腫にかかわる診療報酬について

(1)リンパ浮腫指導管理料
 2008年度診療報酬改定により、「リンパ浮腫指導管理料」が新設された。
 これは、2008年4月以降に、特定のがん手術前後の入院中に、リンパ浮腫を発症する可能性のある患者に対して、リンパ浮腫の治療・指導の経験を有する医師、または医師の指示に基づき看護師・理学療法士が、手術前後にリンパ浮腫に対する適切な指導を個別に実施した場合に認められる(2010年度に一部改定)。
関連ホームページ:
http://www.mhlw.go.jp/topics/2008/03/dl/tp0305-1d.pdf
B-001-7 リンパ浮腫指導管理料(掲載 医学P18-19 70/311ページ)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken12/dl/index-011.pdf
B001-7 リンパ浮腫指導管理料・改定(掲載 P11)
http://www.mhlw.go.jp/topics/2008/03/dl/tp0305-1a.pdf
「診療報酬の算定方法を定める件」等について(通知)(掲載P14 17/27ページ)
(2)付記)弾性着衣の療養費支給について
 平成20年4月の診療報酬改定により、厚生労働省保険局より「四肢のリンパ浮腫治療のための弾性着衣等に係る療養費の支給における留意事項について」(保医発第0321001)が施行された。
 これは、リンパ節郭清術を伴う悪性腫瘍の術後に発生するリンパ浮腫の症状悪化を防ぐことが目的とされる。
関連ホームページ:http://www.mhlw.go.jp/topics/2008/03/dl/tp0325-1c.pdf〔保医発第0321001号(PDF:85KB)〕

おわりに

 これまでの日本の医療において、リンパ浮腫治療の重要性について語られる機会は少なかった。
 しかし、がん治療にかかわる総術件数より年間6,000人以上の新患が増加すると予測されていることからも、治療とケアの必要性は明らかである。
 また、今後、同症状を抱え、同治療法で改善する原発性リンパ浮腫患者に対しても、療養費支給の適用対象として認められる日が来ることを願っている。

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