医科2012.06.25 講演
第20回日常診療経験交流会演題より―保険診療のてびき・658―当院での心房細動のある患者への外来看護の取り組み
西宮市 広川内科クリニック
木村優美・広川江美子・古屋郁子・澁谷淑子・廣川秋子
【共同研究者】 杉本真知子・藤原佳世子・内藤洋子・法田美津子・広川恵一
はじめに
心房細動の治療は、血栓を予防することで脳梗塞など合併症を未然に防ぐことである。そのためのきめの細かい対応が、生命予後に大きく関与する。
2011年8月現在、当院に通院中の心房細動でワーファリン内服中の患者を対象に、疾患および服用の注意点などをまとめた「心房細動リーフレット」(表1)を作成して、聞き取りを行った。その結果をもとに、外来看護を見直した。患者の療養・治療継続を支える上で、外来看護にどのような対応が求められているのか検討を行ったので、これを報告する。
対象と方法
2011年8月に当院を受診した、心房細動でワーファリン服用中の患者(男性10人、女性7人の計17人)について、リーフレットをもとに、内容に関する聞き取りを行い、以下9項目について調査を行った。
(1)性別、(2)現病歴、(3)既往歴、(4)年齢、(5)CHADS2スコアの点数、(6)ワーファリン開始日とPT-INRが安定した日、(7)ワーファリン開始日から数値安定までの受診回数、(8)現在のワーファリン処方量と現在の受診頻度、(9)家族背景と内服管理者。
結 果
リーフレットを使った聞き取り結果を、8項目にまとめた。以下は、その主なものである。
(1)疾患・症状に関して
・動悸息切れのときは死ぬかと思った
・心臓の病気やから怖い
・特に何ともない
(2)食事制限について
・納豆は食べない、もともと嫌い
・緑黄色野菜ほとんど食べない
・納豆好きだが我慢がつらいほどでもない
(3)内服・ワーファリンに関して
・薬飲み始めたころは心臓が悪いのかと不安だった
(4)通院に関して
・通院は近いのでそれほど大変でもない
・医師の話を聞くと安心できる
(5)理解度
・何回か繰り返し聞いてるうちにわかってきた
・説明してもらったし知ってる
・採血要るのはわかるが、何を見ているかようわからんかった
(6)リーフレットに関して
・何度も見返して確認できて、復習になっていい
・お嫁さんにも見てもらいたい
(7)意欲
・先日テレビで心房細動の番組を見た
・先生や看護師に聞いたり、自分でも本を読んだりしている
(8)その他
・治療代がかかる
・忘れやすいので嫁に説明してほしい
今回対象にした患者は、75歳以上が11人で全体の半数以上を占めており、独居または高齢者夫婦世帯の数も半数以上であった(表2)。
CHADS2スコアの項目をみると、(1)心不全9人、(2)高血圧13人、(3)75歳以上11人、(4)糖尿病5人、(5)脳梗塞2人。現病歴・既往歴の中に冠動脈疾患や動脈硬化のリスクとなる疾患を有する患者が多いことも、データの上でも確認できた。
考 察
聞き取りの中で、疾患に関するテレビ番組を見たり本を読んだりしているという声も多く、自身の病気についてかなりの関心があることがわかった。長期療養中の患者からは、リーフレットの内容に関して「わかっている」という反応が多く、服用や通院の必要性を理解されていることがうかがえた。
そういった患者自身の力をサポートし、合併症のリスクを減少させることが重要と考える。
脳神経血管障害のリスクファクターの一つである心房細動のコントロールに対して、基礎疾患と併せて注意を払っている。独居世帯では、高齢であって服薬を自己管理している現状がある。
患者が管理できるだけの理解力があるか把握し、必要に応じて訪問看護師やヘルパー、ケアマネへ連絡を行い、服薬が行えるよう状況を整える必要がある。
まとめ
患者は血圧の治療を希望して来院されても、その根底には「健康でありたい」「元気で長生きしたい」という思いがある。それに応えるために、私たちは生命力の消耗を最小にし、すべてをととのえるよう患者の療養・治療継続を支える工夫を行う必要がある。
今回リーフレット作成から患者への聞き取りを行うことで、予想以上に患者が自身の疾患に関心を持っていることがわかり、患者の理解度を把握し評価することができた。
この結果から、外来看護の場で生かしていく取り組みが見えてきた。
(1)患者の治療意欲を見出すような関わり
かかりつけ医療機関として、気軽に来院できることを患者に伝えていくことで安心感を持ってもらう。そのことは、継続して通院できるなど療養意欲を支えるものとなると考える。
(2)患者の気持ちや理解にあわせた説明
今回作成のリーフレットは大変好評で、患者自身が疾患理解を深める上で役立たせることができた。家族やヘルパーへの説明にも、有用である。リーフレットを手渡すだけでなく、一緒に読み合わせをすることで患者の理解度にあわせた説明ができる。
(3)スタッフ間の情報共有
当院では毎朝始業前に、医師、看護師、事務が申し送りなどで、診療上の情報共有を綿密に図っている。また、診察前には看護師が必ず体重・血圧測定を行い、話を伺うようにしている。その際、患者についての新しい重要な情報(家族構成やキーパーソン、経済状況など)を得ることも多くある。
このように、個々への対応を行うことで、患者が自発的に治療に取り組めるような具体的な提案をしていくことができる。
「元気でいたい」という思いを患者が具体的な行動に移せるように、共に考え関わっていくことが外来看護の役割と考える。
心臓は血液を全身に送る働きをしています。いわばポンプのようなものです。
この働きを効率よく行うため心臓は4つの部屋に分かれています。
4つの部屋のうち、心房と呼ばれる上の2つの部屋が十分に働かなくなっている状態が心房細動です。不整脈と呼ばれる病気の中の1つです。
自覚症状は動悸、息切れなどです。自覚症状がない方もいます。
(2)どんなことが起こるの?
自覚症状とは関係なく、十分に働かなくなっている心房の中は血液の流れが悪くなり、血栓という血の塊ができやすくなります。血栓ができても今すぐ命に関わることはありません。しかし血栓が何かの拍子に血液と一緒に全身へ送り出されてしまった場合、血管を詰まらせて脳梗塞や心筋梗塞といった病気を引き起こす可能性があります。
(3)これからどうしたらいいの?
不整脈を止めるのではなく、血栓を作らない治療が必要となります。
そのためにワーファリンというお薬を飲むことが大切です。
(4)ワーファリンてどんな薬?
血液を固まりにくくすることによって血栓ができることを防ぐお薬です。「血をサラサラにする薬」と患者さんからよく呼ばれています。
量が少なすぎると効果がなく、多すぎると血が止まりにくくなり多量の出血を起こす恐れがあります。効き具合の個人差が大きく、適正量を決めるのに時間のかかるお薬です。
(5)適正量はどのように決めるの?
当院では安全の為に少ない量から飲み始め、血液検査(PT-INR)で効果を見ながら少しずつ量を増やしていきます。PT-INRが1.6~2.6になっていると適切な量です。
そのため、PT-INRが1.6~2.6になるまでは繰り返し採血が必要です。頻回な通院は大変ですが、通常は数週間で決まります。量が決まれば月に1~2回の通院となります。
(6)気をつけることはあるの?
・お薬をきらさないことが大切です。薬がきれると2、3日で効果がなくなってしまいます。毎日決まった時間に飲むようにして下さい。飲み忘れた場合、医院へお電話下さい。
・一般的な方より、少し血が止まりにくい状態です。
怪我をして出血した場合はしっかり圧迫止血して下さい。
採血後は約5分程度止血が必要です。
・他のお薬との飲み合わせに気をつける必要があります。
・他院での内服薬をお知らせ下さい。
・他の医療機関を受診する際には、お薬手帳を持参して下さい。
・食べ物がお薬の効き具合を弱めることがあります。ビタミンKが多く含まれる食品(納豆、青汁、クロレラなど)は避けて下さい。 緑黄色野菜は連日大量摂取しなければ問題ありません。その他気になる物はお尋ね下さい。
・採血結果は医院でチェックしています。異常があった場合医院より緊急連絡をさせて頂きますので、治療開始時に連絡先をお尋ねします。
・体の状態でお薬の効き具合が変わることがあります。こんな時は、受診しましょう。
・吐いている
・下痢をしている
・食事の量が極端に減っている
・自覚症状がある時(動悸、足のむくみ、体重の増加、息切れなど)
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