医科2013.01.26 講演
見逃してはいけない血算(下) [診内研より]
聖路加国際病院 血液内科 岡田 定先生講演
(前号よりつづき)〈症例6〉61歳男性 高度疼痛と紫斑
3週間前より腰部、胸部、腹部に鋭い疼痛が出現。全身性に多発性の数㎝大の紫斑もあり。
受診時の血算。
WBC | 14,600 |
赤芽球 | 16 |
骨髄球 | 9.5 |
後骨髄球 | 6.0 |
桿状核球 | 6.5 |
分葉核球 | 69.0 |
好酸球 | 1.5 |
好塩基球 | 0 |
リンパ球 | 3.5 |
単球 | 4.0 |
Hb | 4.7 |
MCV | 95.3 |
PLT | 1.1万 |
Ret | 13.4% |
Ret | 19.97万 |
白血球分画異常の鑑別のポイント
癌の全身骨転移を考える全身性の疼痛、DICを疑う血小板減少と出血傾向があり、幼若な好中球と赤芽球の出現(白赤芽球症)から、癌の骨髄転移を疑う。
診断と経過
癌の骨髄転移、DIC。
骨髄検査で集塊した癌細胞あり、骨シンチで全身の骨に転移巣を認めた。
明らかな原発巣は不明であり、原発不明癌として化学療法を施行。2カ月後に退院。
見逃してはいけない
白赤芽球症を見たら、癌の骨髄転移や造血器腫瘍を見逃さない。
〈症例7〉30歳男性 下痢と発熱
1週間前から、水様便と38℃台の発熱が続く。近医で、シプロキサンとカロナールを処方。解熱したが、脱水状態となり入院。
入院時の血算と生化学。
WBC | 1,700 |
好中球 | 51.0 |
好酸球 | 0.5 |
好塩基球 | 0.5 |
リンパ球 | 43.0 |
単球 | 3.0 |
異型リンパ球 | 2.0 |
Hb | 14.8 |
PLT | 5.7万 |
CRP 0.36mg/dl、AST 176IU/L、 |
ALT 104IU/L、LDH 592IU/L |
異型リンパ球を見たら、まずウイルス感染症を疑う。通常の感冒にしては、白血球減少や血小板減少が高度で、肝障害もある。
よく面接すると、MSM(男性と性交渉をもつ男性)であることが判明。急性HIV感染症を疑った。
診断と経過
急性HIV感染症。
HIV抗体陰性、HIV-RNA1.0×106コピー以上/ml、CMV IgM抗体陽性。
急性CMV感染症の共感染が判明。入院6日目には白血球3,800/μl、血小板10.5万/μlまで回復。肝機能も正常化。
見逃してはいけない
異型リンパ球+ウイルス感染症状+HIVリスクを見たら、急性HIV感染症を見逃さない。
〈症例8〉66歳女性 腰痛、血小板減少
3カ月前から腰痛あり、他院のCTで多発性骨転移疑い。口腔内に粘膜下出血、全身性に多発性の紫斑あり。
入院時の血算。
WBC | 7,200 |
骨髄球 | 1.5 |
後骨髄球 | 1.5 |
桿状核球 | 2.5 |
分葉核球 | 61.5 |
好酸球 | 0 |
好塩基球 | 1.5 |
リンパ球 | 21.0 |
単球 | 10.5 |
Hb | 11.4 |
MCV | 83.4 |
PLT | 7.7万 |
血小板7.7万/μlの減少だけで、これほど高度の出血傾向は生じない。病歴から基礎疾患に進行癌が考えられ、DICの病態を最も疑う。
診断と経過
癌の骨髄転移、DIC。
FDP 168μg/ml↑。消化管内視鏡検査で胃癌と診断され、胸腰椎MRIで椎体の広範囲にびまん性骨硬化性骨転移巣を認めた。
見逃してはいけない
基礎疾患+血小板減少+FDP増加を見たら、DICを考えよう。
〈症例9〉74歳女性 高度の血小板増加
2カ月前の健診で血小板数が約100万/μlを指摘。
紹介受診時の血算。
WBC | 8,900 |
好中球 | 70.5 |
好酸球 | 4.5 |
好塩基球 | 3.5 |
リンパ球 | 16.5 |
単球 | 5.0 |
Hb | 13.6 |
PLT | 90.5万 |
基礎疾患がなさそうで、軽度の白血球増加と慢性的な著明な血小板増加あり。まず、本態性血小板血症を疑う。慢性骨髄性白血病の可能性もある。
診断と経過
本態性血小板血症。
BCR/ABL融合遺伝子は陰性、JAK2遺伝子に変異を認めた。
見逃してはいけない
慢性的な高度の血小板増加症を見たら、まず本態性血小板血症と慢性骨髄性白血病を見逃さない。
〈症例10〉38歳男性 関節痛、発熱、出血
10日前から右肩関節痛が続き、8日前から紫斑、口腔内出血が徐々に悪化。前日から38.5℃の発熱が出現。
ER受診時の血算。
WBC | 600 |
Hb | 6.8 |
MCV | 94.6 |
PLT | 1.1万 |
高熱と高度の汎血球減少症からは、重症感染症、造血器疾患、血球貪食症候群を最も疑う。高度の出血傾向からはDICを考える。汎血球減少症+DICからは、急性前骨髄球性白血病を最も疑う。
診断と経過
急性前骨髄球性白血病(APL)、DIC、敗血症。
すぐに抗菌薬を開始したが、数時間後に敗血症性ショックとなり集中管理を要した。APLと診断後、レチノイン酸+化学療法を施行。約10年間寛解持続。
見逃してはいけない
好中球数が500/μl未満時の発熱は、短時間で重症敗血症に陥る可能性が高い。
高度の汎血球減少症と高熱を見たら、重症感染症、急性白血病、血球貪食症候群を疑う。
おわりに
以上、10症例をご紹介しましたが、血算のもつ情報にお気づきいただけたでしょうか。
血算には、意外なほど重要な情報が隠れています。どうかお見逃しなく。
文献
岡田 定『誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方』医学書院、2011
(おわり)
『誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方』
著:岡田 定
判型・B5、200頁、2011年4月発行
定価4,200円(本体4,000円+税5%)