医科2013.05.25 講演
[保険診療のてびき] 診療所のIT化をどうするか
メディキャスト株式会社・マネージャー 石原 正規氏講演
1.医療ITの歴史
電子カルテは、1995年頃誕生したと言われています。1999年には、法律で電子カルテが認められ、そして2001年には医療IT化に関するグランドデザインとして、「5年後(2006年)に診療所の6割、400床以上の病院の6割に電子カルテを普及する」という目標が打ち出されました。2004年には、電子カルテの運用に関するガイドラインが整備され、電子カルテ普及の環境が整備されました。2006年には、レセプトのオンライン請求の義務化が打ち出されました。
この施策の目的は、セキュリティの高いネットワークを全国各地に巡らせること、高騰する医療費に備えて、レセプト分析を行える環境を整えることなどがありました。この施策については、2009年に医師会・保険医協会等の反対もあり、義務化が緩和されました。
一方で2008年、電子画像管理加算という点数が新設され、これまでのCR(Computed Radiography)による「画像のデジタル化」から、PACS(Picture Archiving and Communication Systems・画像保存通信システム)による「画像の管理」へ、重点がシフトしています。
2010年には、電子カルテの外部保存に関する通知が改正され、これまで医療機関や医師会などの医療機関に準ずる施設でしかカルテの外部保存が許可されていませんが、改正後、企業による管理が解禁されました。
これにより、クラウドコンピューティング(以下クラウド、※)による電子カルテが、実質上解禁されたことになります。また、同年政府は、5年間の情報化戦略をまとめた「新たな情報通信技術戦略」を公表しました。
2.クラウドとスマートパッドの普及
インターネットの活用は、「医療」の世界にも急速に広まりつつあります。厚生労働省が2010年2月に実施した、「診療録等の保存を行う場所について」の一部改正と「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第4.1版」の改定を受け、民間企業のデータセンターにおける電子カルテなどの診療情報の保有が認められました。事実上、クラウドを利用した医療機関同士の情報共有が可能になりました。医療分野におけるクラウドの解禁によって、医療機関内にサーバーを置かなくてもよくなり、企業が提供するセキュリティレベルの高いサーバーを、地域で共同利用することが可能となります。コスト面やセキュリティ面ともに効果があり、これが引き金になって地域連携が進むのではないかと考えられています。
また、2010年5月のアップル社の「iPad」の販売、さらにその後、続々と登場したタブレットパソコンやスマートフォンなどが、医師にも広く普及しています。その勢いを見ても、それらがクラウド時代の情報端末として、医療の世界でも大いに期待が寄せられていることがうかがえます。
クラウド上で、医療情報をやりとりする仕組みは、政府が掲げる医療IT化政策の一つである「どこでもMY病院構想」の中に盛り込まれています。そして、今後はこれまで以上に"誰もがどこにいても医療情報にアクセスできる仕組み"の情報が求められるのではないでしょうか。
3.電子カルテについて
現在、診療所における電子カルテの普及率は約20%、5件に1件は電子カルテが入っているといわれています。2002年頃は1%程度だった普及率は、この10年間で飛躍的に伸びました。現在は年間平均3%〜4%の推移で普及が進んでいます。この推移のままでいけば、5年後には電子カルテの普及率は、40%近くに達します。
電子カルテの選定は、以下の5点から考えることが大切です。
1)操作性
操作性は、一番重要なポイントです。1日8時間近く、電子カルテに向き合うことになり、そのため、この操作性が悪ければ非常に問題になります。
操作性が高い商品のポイントの一つは、「ボタンが1箇所でまとまっている」です。さまざまなところにボタンが散らばっていれば、操作性の記憶は薄くなりがちです。ボタンの機能を忘れないためにも、できるだけ1カ所にまとまっている電子カルテが良いといわれています。
2)機能
機能については、診療科によって必要な機能が異なることが徐々に分かってきました。例えば内科が求めている機能、皮膚科が求めている機能、眼科が求めている機能は、それぞれ全く違います。
電子カルテは、内科を中心に作られたため、最初に普及が進んだのも内科でした。近年、それ以外の診療科への普及が進んだことで、ニーズが顕在化したのです。
3)サポート
サポートについては、三つの視点から考える必要があります。
(1)システムトラブル時のサポート
(2)診療報酬改定時のサポート
(3)何もない時のサポート
の三つです。
導入したらそれっきりではなく、導入後もきめ細かなサポートをしてくれる企業を選ばれることが、電子カルテを安心して使う秘訣です。
4)価格
電子カルテの価格は、①イニシャルコスト、②ランニングコストの、大きく二つに分けることができます。
イニシャルコストは、ハード、ソフト、オプション、導入、研修の費用を総額したコストとなります。ランニングコストは、保守にかかるコストになります。保守には、ハードの保守、ソフトの保守が含まれます。
通常は、イニシャルコストが一括表示、ランニングコストは月額表示と、一見分かりにくい仕組みとなっています。そこで、イニシャルコストについては、リース料率で計算し、月額に押しなべて考えると非常に分かりやすいかと思います。
5)実績
実績については、これまで1社あたりのトータルの導入台数の実績ばかりが、注目されてきました。最近注目されているのは、診療科目別の実績です。
内科に何台、整形外科に何台といったように、診療科ごとの導入実績や対応経験が分からなければ、製品が自分に合ったものであるのかが分かりません。
その診療科で実績が多ければ多いほど、経験値が増えます。経験値が増えれば、当然良いサポート、良い導入対応ができるようになります。
(5月25日淡路支部研究会より)
※インターネットを経由して、サーバー、ソフトウェアなどを利用するサービスの総称(編集部注)