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学術・研究

医科2013.11.09 講演

消化管をエコーで診る [診内研より]

川崎医科大学 検査診断学(内視鏡・超音波)教授  畠 二郎先生講演

はじめに
 近年著しい機器の改良と知見の蓄積に伴い、超音波診断学の領域では消化管もその対象臓器として認められるようになりましたが、消化器病学の中で超音波と言えば肝胆膵が中心で、胃や腸は内視鏡による診断がその全てと言っても過言ではありません。
 冷静に考えてみると、粘膜下腫瘍などは内腔を観察するより断層診断の方が優れていることは明らかですし、急性虫垂炎や腸閉塞など、消化管の疾患でありながら内視鏡診断が困難な疾患も数多く存在します。それに対し、超音波は前処置も不要で侵襲もなく、消化管疾患のスクリーニングから診断まで、高い有用性を備えた機器と言えます。
 今回は、消化管の超音波診断に関し、症例を提示しながらご紹介します。
消化管はエコーで見えるのか?
1740_12.jpg  当然見えます。CTやMRIが進歩しているのと同様に、超音波も著しい改良がなされました。通常お使いのプローブ(3.75MHzコンベックス)でも、拡大することでずいぶん見え方は変わります。
 普通は、12-15㎝程度の表示範囲を用いておられると思いますが、消化管は薄い壁ですので、おかしいなと思われたら、2倍から場合によっては6倍程度に拡大してみてください。病変の存在が明らかになると同時に、層構造(内腔より高低高低高の順に5層)も描出されてきます。
 次いで、7MHzリニアプローブに持ち替えていただくと、さらに病変は明瞭に描出され、診断に耐えうる画像が得られます。こうして、病変の部位や分布、層構造などを評価して、診断を決定しています。
 図は、小さな進行大腸癌の7MHzリニアプローブによる画像ですが、層構造の消失した限局性の壁肥厚が、明瞭に描出されています。
 逆に言えば、壁の肥厚が軽微な疾患では、体外式超音波による検出は困難となりますので、早期癌を否定する検査ではないと言えるでしょう。
消化管の走査法
 見落としを最小限にするためには、食道裂孔から腹腔内に走行する腹部食道、後腹膜に存在する十二指腸や直腸、背側を後腹膜に固定されている上行結腸と下行結腸を確実に同定し、その間に存在する管腔を追跡するという系統的走査がお勧めです。
 とは言え、多少の慣れと時間(慣れれば消化管のスクリーニングは1分程度で終了します)が必要ですので、とりあえずは腹部全体を走査しながら、「黒いもの」を探してみてはいかがでしょうか? 消化管の病変は腸間膜に囲まれており、多くは相対的な低エコー病変として描出されるからです。
 多くの先生が関心を持たれている虫垂炎ですが、上行結腸を同定、次いで回盲弁を描出し、その尾側に存在する虫垂開口部から先端まで順行性に追跡するというスキルを身につければ、ほぼ100%診断が可能となります。
消化管エコーの診断能
 系統的走査と理論的画像解析(病変の部位、分布、層構造や周囲脂肪組織変化などを総合的に判断します)を用いたわれわれの検討では、消化管病変の約90%はエコーで正診されるという結果が得られ、大半の進行癌や急性炎症は、ほぼエコーでも診断できることが分かりました。
 ということで、われわれの施設では腹痛に限らず、貧血や便秘などいかなる病態においても、エコーが消化管診療のファーストチョイスとなっています。
どのような疾患に有用か?
 講演では、進行胃癌や大腸癌をはじめ、虫垂炎や憩室炎などの炎症性疾患についてもご紹介しました。また小腸も本来、含気の少ない臓器であることから超音波の良い対象臓器であり、クローン病(回腸の縦走潰瘍が限局性の層構造消失として描出されました)や、貧血を主訴とした空腸GIST(gastrointestinal stromal tumor)の症例などをご紹介しました。
 また、内視鏡やX線造影の困難な病態である消化管穿孔や腸閉塞などは、超音波によりたちどころに診断が可能で、かつ腸管虚血の有無なども、造影超音波で早期から評価できることから、治療方針の決定にも非常に有用であることを動画でご紹介しました。
 このように、何らかの腹部症状の原因となっている疾患であれば、ほぼすべてがエコーの良い適応と考えていただいても、間違いではありません。
おわりに
 今回の講演では、その手技については詳しくお話できませんでしたが、まずは消化管もエコーで見えるという事実を信じていただき、腹部エコーをされる際には、ついでにちょっと消化管も観察していただくことで、思ったより多くの疾患が発見できると確信しています。
 今回のお話が、参加された先生方の診療に少しでもお役に立てれば、望外の喜びです。
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