医科2014.02.08 講演
使いこなしたい呼吸器科薬剤とそのエビデンス [診内研より]
国立病院機構 近畿中央胸部疾患センター 内科 倉原 優先生講演
兵庫県保険医協会において、呼吸器内科で遭遇する一般的な症状である喀痰、咳嗽をやわらげる薬剤である去痰薬、鎮咳薬、および最近合剤が台頭してきた吸入剤について、話をさせていただきました。去痰薬
喀痰の量が増えることで、この咳嗽反射も増え、患者さんのQOLを著しく低下させることになります。ジェネリック医薬品が登場してから、やむを得ない事情もあるのですが、現場ではどの薬剤がどのタイプの去痰薬なのか、なかなか理解しにくい現状があります。おおざっぱに考えてみると、去痰薬は「分泌物の量を何とかする方法」と、「分泌物の性質を何とかする方法」の2種類に大別できます(図)。
ブロムヘキシン(ビソルボン®など)は、気道分泌促進薬に分類されます。酸性糖蛋白の線維網を溶解して、低分子化する作用があることもわかっています。線毛運動を亢進させる働きもあり、作用機序は複雑です。
このタイプの薬剤は、キレの悪い喀痰に非常に有効とされています。その一方で、気道分泌物が増加することがあるため、bronchorrheaを呈する浸潤性粘液腺癌(いわゆるmucinous BAC)の患者さんには、注意が必要です。
また、アスピリン喘息の患者さんでは、ビソルボン吸入液中のパラベンによって発作が悪化することがあるので、注意が必要です。
アンブロキソール(ムコソルバン®など)は、気道粘膜潤滑薬に分類されます。主に、肺サーファクタントの分泌を促すことで、排痰しやすくする効果があります。
アンブロキソールには徐放剤があり、寝起きの喀痰症状が強い患者さんに対して、ムコソルバンL®などを夕食後か眠前に服用することで、効果を発揮するとされています。また、外科手術後の喀痰症状に強いエビデンスを有するのも、この薬剤です。
カルボシステイン(ムコダイン®など)は、分泌細胞正常化薬・気道粘液修復薬に分類されます。分泌細胞正常化薬は、杯細胞の過形成を抑制、粘液が過剰産生されるのを抑えることで、気道粘液修復薬はシアル酸とフコースの構成比を正常化することで、去痰作用を発揮します。
2008年のPEACE試験によって、COPD急性増悪の頻度を減少させたという報告が有名です。
アセチルシステイン(ムコフィリン®)は、気道粘液溶解薬に分類されます。これは喀痰の化学結合を分解して、喀痰粘度を低下させる薬剤です。硬い喀痰をサラサラにする一つの手段として、気道粘液溶解薬はよい選択肢の一つと言われています。
プラセボと比較して、特発性肺線維症(IPF)やCOPDにおいて呼吸機能上の有効性が示されていますが、PANTHER-IPF試験のようにリスクを上昇させるという報告もあるため、現時点ではカルボシステインとともに、COPDに対するエビデンスが多い去痰薬と言えましょう。
鎮咳薬
中枢性鎮咳薬は、咳嗽の特異的治療にはなりえないため、合併症を伴い患者のQOLを著しく低下させる咳嗽の場合に限って、使用するのが原則です。コデインリン酸(リンコデ)は、中枢性麻薬性鎮咳薬です。これは、オピオイドμ受容体アゴニストであり、延髄の弧束核にある咳中枢に作用して咳を抑えると考えられています。デキストロメトルファン(メジコン®)は、リンコデとともにAmerican College of Chest Physiciansのガイドラインで短期的な症状緩和のための使用が推奨されています。
実臨床では、メジコン3錠分3程度では咳が止まらないという患者さんは、少なくありません。1回あたりのデキストロメトルファンを2錠(30㎎)といった多めの用量に設定することで、臨床的に妥当な鎮咳効果をもたらすことができるかもしれません。
吸入剤
ここ数カ月の間に、フルチカゾンプロピオン酸エステル/ホルモテロールフマル酸塩(フルティフォーム®)、フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ビランテロールトリフェニル酢酸塩(レルベア®)といった新しい吸入合剤が登場しました(いずれも現時点では気管支喘息のみに保険適応あり)(表)。エリプタは、1アクションで吸入できる優れたドライパウダー吸入器です。操作性は驚くほど簡便で、1日1回の吸入回数と合わせると、コンプライアンスの飛躍的向上が期待できるデバイスです。
気管支喘息で受診した患者さんに、いきなりこれらの吸入ステロイド薬とLABAを合剤にして処方することは、すすめられません。よほど早期にコントロールをつけないといけないケースを除いて、吸入ステロイド薬単独でコントロールできるなら、その方が望ましいと考えます。