医科2014.02.09 講演
臨床医学講座より プライマリケアにおけるアレルギー・膠原病
聖路加国際病院アレルギー膠原病科(SLE、関節リウマチ、小児リウマチ)部長 岡田 正人先生講演
〈アレルギー〉
アレルギー反応の分類
アレルギーはⅠ型からⅣ型に分類されるが、代表的なものはⅠ型アレルギーが関与するものが多い。たとえば、アレルギー性鼻炎、アナフィラキシーなどは、多くが純粋なⅠ型アレルギーとして分類される。アレルギーの型は臓器には依存せず、皮膚、気道、消化管それぞれにⅠ型と非Ⅰ型の疾患が認められる。皮膚で明らかなⅠ型アレルギーであることが多いものとしては蕁麻疹があり、急性の食物アレルギーなどで、そばを摂食した数分以内に全身に膨疹が出現することなどが代表的である。しかしながら、化粧品アレルギーなどのアレルギー性接触性皮膚炎などは発症に2日間を要することが多く、遅延性のTリンパ球によるアレルギーであるので、そのための試験のパッチテストもパッチを張ってから2日後にはがすような試験になる。毛染め剤などについている試験も同じ原理である。エステで特殊な薬剤や泥などを塗った際に、2日後に症状が出た時には、記憶に鮮明に残っていないため、原因とは考えない患者も多く存在する。
アレルギーのメカニズム
作用機序としては、Ⅰ型アレルギーがIgEによる肥満細胞の脱顆粒であり、抗ヒスタミン薬などが有効である。他方Ⅱ型はIgG依存性の細胞障害、Ⅲ型が免疫複合体による補体の活性化、Ⅳ型がT細胞によるもので、アレルギーといっても抗ヒスタミン薬ではなく免疫抑制が治療の中心となる。よって、やはりアレルギー疾患を大まかにとらえるには、Ⅰ型アレルギーと非Ⅰ型に区別して考えることが有用である。Ⅰ型アレルギーを単純化して考えるとIgEを介した肥満細胞の刺激により、細胞内顆粒のヒスタミンやロイコトリエンが放出されることによる血管拡張と血管漏出が主体である。肥満細胞上のIgEに抗原が結合し、多くのIgEが架橋されることで肥満細胞が活性化される。
蕁麻疹を例に考えてみると、まず血管壁のヒスタミン受容体にヒスタミンが結合し、血管が拡張する。血管が拡張すれば赤血球が多く通るので発赤が見られる。血管壁はゴムのホースのようにはなっておらず、細胞がタイルのように壁を構成しているので、血管拡張により細胞間に間隙が生じ漏出が起こる。赤血球などの細胞が漏出するほどの間隙ではないが、液体成分が漏出するため膨疹となる。これがピンク色の膨疹、つまり蕁麻疹である。
それでは、これが鼻で起こったらどうであろうか。鼻の粘膜が発赤し皮膚と比べ、バリア機能の弱い粘膜では、漏出した液体成分は鼻水となる。肺で起これば気管支粘膜が腫脹し吸気の通る気道が狭くなるため喘鳴が起こり、痰が分泌される。食物アレルギーで半数以下の症例で認められる消化器症状も粘膜の腫脹による痛みと液体漏出による下痢である。これが全身で起こっているのがアナフィラキシーである。
アレルギーのメカニズムから考えたアプローチ
ヒスタミンと抗ヒスタミン薬はヒスタミン受容体で拮抗するため、抗ヒスタミン薬を服用しても、ヒスタミンが受容体から遊離して抗ヒスタミン薬に置き換わり、その後のヒスタミンの結合を阻害するまで時間がかかる。よって、アナフィラキシーなどの急性激症のⅠ型アレルギーの緊急処置としては、Ⅰ型アレルギーの病態として起こっている血管拡張と血管漏出を直接リバースする処置が必要となり、血管を収縮させ血圧を保ち血管漏出を防ぐアドレナリンと補液、酸素吸入がなされる。一方、抗ヒスタミン薬を症状のわずかな段階で服用し、ヒスタミン受容体をブロックしておくことや、長時間作用型の薬剤を定期的に数日以上服用し受容体を常に埋めておくことで、アレルギー症状を長期的にコントロールする効果が増す。よって、アレルギー性鼻炎に対する抗アレルギー薬(第2世代抗ヒスタミン薬)の使用法の基本となっており、半減期の長い経口薬は症状の強い時期は定期的に服用する。半減期の短い点眼、点鼻薬では花粉に暴露するときには受容体をブロックしているように、早朝の外出より30分以上前に使用することが望ましい。
ヒスタミンのH1受容体は主に血管拡張、ロイコトリエンは血管漏出に関与するとされており、粘膜腫脹に効果があるため鼻閉や喘息の長期管理に使用される。血管を収縮させる目的で冷却した濡れタオルなどを局所に使用することは、副作用を追加することなく薬剤の効果発現までの症状の緩和と効果増強に役立つ方法である。
〈膠原病〉
膠原病の概念
未熟な細胞は分化して機能を持った成熟細胞になる。成熟した細胞はやがてプログラム通りにアポトーシスを起こし消えていく。単純に考えると、腫瘍細胞は機能を持った成熟細胞になる前段階で異常増殖を起こした結果であるのに対し、膠原病ではアポトーシスを起こして消えていく過程で異常に残存した状態と、頭の中で整理することができる。リンパ球などの免疫系細胞は微生物と戦うため一時的に何千倍にも増えるが(リンパ節腫脹)、外敵が排除されると刺激がなくなりアポトーシスで元の数に戻っていく。一時的に産生された自己抗原と弱い交差反応を持つ免疫細胞もアポトーシスするため、心内膜炎やパルボウイルス感染症で急性期に認められる自己抗体も一過性となる。しかし、自己免疫疾患では自己抗原によって免疫系が刺激し続けられこの機構がうまく働かなくなっていると考えられる。
抗核抗体の臨床的意義とSLEの診断
抗核抗体というのは膠原病のスクリーニングと捉えられていることもあるようだが、抗核抗体が診断に役立つ膠原病の中で、SLE以外では特徴的な臨床症状が存在する。よって、オーダーしている医師が意識しているいないにかかわらず、ほとんどの抗核抗体はSLEの診断のために使われている。SLEの分類基準は約95%の正確さであるので、特別な症例が集まるような専門施設以外ではほとんどの場合この基準に則って初期診断を考えていくことが可能である。抗核抗体はSLEの99%で陽性であるので、偽陰性の心配はほとんどない。同様に、抗核抗体陰性では混合性結合組織疾患(MCTD)もほぼ除外され、全身性硬化症(SSc)では自己免疫以外の強皮の原因検索が必要となる。
抗核抗体と関連しない膠原病
血管炎の考え方抗核抗体が診断に影響しない膠原病を考えてみよう。まずは、血管炎である。血管炎は種類も多く一見複雑に見えることもあるが、症状の起こるメカニズムと部位を考えると単純化される。血管炎は血管壁の炎症であり、症状は全身の炎症症状(発熱、倦怠感、体重減少)、血管がつぶれる(虚血)、もしくは破れる(瘤、出血)の3種類となる。あとは、どの大きさの血管で起こっているのかを考えるだけで診断は簡略化される。