医科2014.07.15 講演
「患者参加型医療」を実現するiPadや革新的ICT活用(上)
〜健康情報と医療情報のシームレスな連携〜 [特別研究会より]
千葉県・習志野台整形外科内科 宮川 一郎先生講演
はじめに
わが国の国民皆保険制度は、安価で質の高い医療をいつでもどこででも受けられるすばらしい制度である。しかし、高齢者の増加や世界的にみた受診回数の多さ、重複検査、医療費の財政圧迫などのさまざまな問題で崩壊の危機にある。現役開業医師として現場レベルでの問題解決の手段の一つとして、患者さん自身が理解し選択して管理する、「患者参加型医療」の実現が重要であると考え、 iPadや新しい技術を用いて取り組んでいる仕組みを発表した。
医師と患者のコミュニケーションの一助に
iPadを診療に用いる最大の利点は患者説明であり、説明の仕方として既存の電子カルテ(PC)の画面を指し示しながら行う90度対話型から、互いの顔を見ながらの180度の対面型や横に寄り添う形での平衡型対話が可能となる。患者1万人大調査「二度とかかりたくない医療機関」のアンケート調査(2009年2月、日本医療企画)では、医師の診断能力や治療技術の不満より、医師だけでなく看護師・受付を含むスタッフの対応やコミュニケーションに対する不満が多く、特に医師ときちんとコミュニケーションができないことへの不満は、診断能力・治療技術の不満に対し倍以上の不満を感じているという結果からも、医師-患者コミュニケーションは重要だと分かる。
タブレット端末、特にiPadは現在約77万ものアプリケーション(アプリ)が公開されており、実際の医療現場で使えるアプリが多い。
具体的には、【Google Maps】で患者宅周辺の地図を表示したり、【Safari】の検索を用いての薬剤などの検索である。薬剤の画像を表示し患者さんに提示することで、使用している薬剤が分かることも多い。iPadではFlashが再生されないと言われているが、再生可能なブラウザアプリ【Puffin】などもある。
既存のパンフレットや撮影した写真、動画などを整理するには【Good Reader】や、有料ではあるが【Hand Book】なども使いやすい。
実際の診療でiPadを使うために、二つのアプリケーションを開発した。
問診票アプリ=iPad問診票【owl】
iPad問診票【owl】は、iPadだけに限らずさまざまなタブレットで使えるWeb型アプリで、講演中にも参加者が持参されたタブレットやスマートフォンで使用してもらった。(図)日本はOECD加盟国平均に比べ、1人の医師が診察する患者数が約3.5倍と多く、紙媒体の問診票から電子カルテへの転記作業は手間で、転記ミスも起こり得る。
開発した問診票アプリは、患者入力終了後に電子カルテの所見欄に自動的に転記され、患者記載の履歴を残すためにPDFでも保存される。それ以外にも、動きのあるアイコン表示・確認音・患者IDの後入力・再転送機能・入力漏れ防止などで、わずかではあるがペーパーレス化、業務効率化や患者の入力ミス・医師の転記ミスを防ぐよう設計した。当院では1日平均の新患数が19.4人で、約60分の転記作業による損失時間が改善した。また新患を診察室に呼ぶ段階で転記作業が完了しているので、最初から患者を見ながら話を聞くことができるようになった。
さらに電子カルテのメーカーによっては自動転記できない場合用にクラウド型の問診票や、紙カルテ用に患者入力終了後に紙カルテ2号用紙に自動的に印刷されるバージョンも作成した。
問診票アプリの発展型で、スタッフ間の情報共有ツールも作成した。電子カルテのように入力場所が限定されることなく、履歴からの参照入力や手書き入力にも対応している。
MacintoshでもWindowsでも対応が可能であるが、サーバーとなるパソコンが必要となる。当院ではiPadとの相性を考えMacintosh(iMac)を採用した。別の活用法として、Macintosh専用のDICOMビューワーであるオープンソースの【OsiriX】をiPadへのDICOM画像転送のために導入し、セキュアな通信環境を整え、近隣の病院で撮影したCT/MRI画像の転送や院外のiPadでも画像が見れる仕組みも構築した。
(次号につづく)