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学術・研究

医科2014.11.05 講演

得意になるめまい診療 [診内研より]

横浜市立脳血管医療センター神経内科  城倉  健先生講演

 めまいは極めて多様で非特異的な症状なので、訴えから原疾患を特定することは難しい。吐気や嘔吐がつらいので、自分の病歴を冷静に述べられることも少ない。このため、問診だけを頼りにめまいの診断を進めようとしても、なかなかうまくいかない。一方、めまいには、他覚的に捉えることが可能な身体所見が伴っていることが多い。例えば、内耳に由来する末梢性めまいには眼振が伴うし、脳が原因の中枢性めまいにはめまい以外の神経症候が伴う。従って、めまいの診断は、問診もさることながら、こうした身体所見を捉えることが鍵になる。
 めまい診療で最も重要なのは、脳の疾患で生じる中枢性めまいをいち早く鑑別することである。そして中枢性めまいの特徴は、(1)めまい以外の神経症候を伴う、および、(2)視覚や深部感覚による補正が効きづらい、という2点に要約される。ちなみに末梢性めまいには、当然めまい以外の神経症候は伴わない。また、末梢性めまいは、脳が視覚や深部感覚で前庭感覚を代償するので、何とか平衡を維持できることが多い。
 中枢性めまいの病変部位は、ほとんどの場合脳幹か小脳である。脳幹は範囲が狭いので、平衡維持のための神経機構と四肢の運動や感覚を司る神経機構が特に近接している。従って、脳幹の障害でめまいを来した場合には、ほぼ例外なく、めまい以外の神経症候も出現している。脳幹障害によるめまい以外の神経症候はわかりやすいので、簡単な診察で、十分スクリーニングできる(表1)。
 小脳の障害では、脳幹障害と異なり、わかりやすい麻痺や感覚障害は来たさない。そのかわり小脳は、上部が障害された場合には、構音障害や上下肢の小脳性運動失調を来す。このため、小脳上部の障害によるめまいは、脳幹障害の場合と同様に簡単な診察で容易に診断がつく。一方、小脳の下部が障害された場合には、構音障害や上下肢の小脳性運動失調はみられない。従って、患者をベッドに寝かせたままの診察だと、めまい以外の神経症候が分かりにくい。ただし、小脳下部の障害では体幹失調がみられることが多いため、起立や歩行の障害を調べれば診断が可能である(表1)。
 めまいの原因は、末梢前庭障害が圧倒的に多い。従って、末梢性めまいを診断できなければ、めまい診療を行うことはできない。末梢性めまいで念頭に置くべき疾患は、良性発作性頭位めまい症と、前庭神経炎をはじめとする急性末梢前庭障害である。
 良性発作性頭位めまい症の特徴は、座位から右下または左下懸垂頭位にした際の回旋性眼振(後半規管型)か、右下頭位と左下頭位で方向が逆転する方向交代性眼振(外側半規管型)である。一方、前庭神経炎のような一側の急性末梢前庭障害では、頭位によらない方向固定性水平性眼振(水平回旋混合性眼振)が特徴である。ほとんどの末梢性めまいは、この、(1)懸垂頭位での回旋性眼振、(2)右下および左下頭位での方向交代性眼振、(3)頭位によらない方向固定性水平性眼振、という3種類の眼振に注目すれば、診断がついてしまう(表2)。
 実際のめまい患者の診察手順を図1に示す。患者がめまいを主訴に来院した場合、明らかな麻痺や感覚障害、構音障害、眼球運動障害、四肢の小脳性運動失調のいずれかがあれば、直ちに脳卒中などの中枢性めまいを疑う。この段階で脳幹と小脳上部の障害はほとんどスクリーニングできてしまう。
 強いめまいを訴えているにもかかわらず、めまい以外の神経症候がないか、あるいは診察し得た範囲ではよくわからない場合には、他のまれな中枢性疾患の鑑別にいたずらに時間を費やすのではなく、先に頻度の圧倒的に多い末梢性めまいを鑑別する。末梢性のめまいの特徴である3種類の眼振、つまり懸垂頭位での回旋性眼振、右下および左下頭位での方向交代性眼振、および頭位によらない方向固定性水平性眼振は、Frenzel眼鏡を用いて頭位眼振検査、頭位変換眼振検査を行えば容易に確認できる。
 めまいが強いにもかかわらず、頭位眼振検査、頭位変換眼振検査で特徴的な眼振がみられない場合には、最後に小脳下部障害由来のめまいの可能性を考え、起立や歩行の障害の程度を確認する。極めてまれに小脳下部障害で方向固定性水平性眼振や方向交代性上向性眼振が出現することがあるため、脳血管障害の危険因子を複数持つような患者の場合には、たとえ末梢性めまいを示唆する眼振を認めても、起立や歩行まで調べておくほうが無難である。
 中枢性めまいが疑われる場合には、直ちに画像検査が必要になる。一方、良性発作性頭位めまい症と診断した場合には、その場で耳石置換療法(Epley法やLempert法)を施行する。こうした耳石置換法は、極めて容易に施行できる上に有効性も高い。

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