医科2015.06.05 講演
日常診療に潜む救急、急変の危険を見抜く[臨床医学講座より]
藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授 岩田 充永先生講演
人口の高齢化に伴い、高齢者の救急受診が増えている。高齢者は重病でも典型的な病歴で発症するのではなく、「元気がない」「動くことができない」など、あいまいな訴えで受診することが多い。「あいまい」な訴えから手がかりをつかむためには、「病歴聴取を詳細に行うこと」と「バイタルサインの評価に強くなること」の2点が重要である。
病歴聴取
病歴聴取のポイントとしては、高齢者本人あるいは介護者から「いつもと何が違うのか、いつから変化したのか」をはっきりさせるために慎重に医療面接を行うことが重要で、基本的ADL(食事、移動、トイレ、着替え、入浴)に注目した質問を行い、「普段はどのような生活をしていたのか」を明確に理解できるような医療面接を心がける。症状の進行を把握する際も「いつから症状が出現したのですか?」という問診では明確な回答が得られず、情報収集に難渋する場合が少なくないため、表に示すような具体的で答えやすいような質問の仕方が重要である。バイタルサインの評価
バイタルサイン解釈においては以下の点に注意する必要がある1.普段の血圧が高値である患者では、一見正常範囲内の血圧でもショックを来している場合がある。
2.交感神経機能の低下によって出血などでも頻脈になりにくい。
3.基礎体温が低下し、外因性・内因性の発熱物質に対しての視床下部体温中枢の反応は低下するため、高齢者は感染症に罹患しても発熱しないことがあり、重症感染症ではむしろ低体温となることもある。重症感染症で救急外来を受診した高齢者の症状はADL低下やせん妄など漠然としたものである場合が多く、20〜30%は正常範囲内の体温であったという報告もあり、発熱だけを手がかりにしていると重症感染症を見落とす危険がある。
要介護高齢者では、平常時の体温と心拍数を把握しておくことが重要で、発熱が軽度であっても、⊿心拍数(現在の心拍数−普段の心拍数)/⊿体温(現在の体温−普段の体温)〉20の場合は細菌感染の可能性が高くなることを認識しておく必要がある。
4.収縮期血圧、心拍数、体温は加齢や内服薬剤の影響を受けやすい指標であるが、呼吸数はこれらの影響を受けにくい指標で、体に重大な異変が発生すると早期から異常を来すため重要な評価項目である。
呼吸数の観察は、観察時間が短いと正確な呼吸数を測定することができないため、30〜60秒かけて測定する必要があり、呼吸数20回/分以上(慢性呼吸器疾患患者では25回/分以上)あるいは8回/分未満を異常と判断する。ショックでは血圧低下よりも先に脳血流低下による症状(不穏・せん妄)や呼吸数増加が認められるといわれており、「高齢者の呼吸数増加+言動異常をみたらショックを疑う」という習慣をつけておくと、血圧低下を来す前の早期の状態でショックを発見できる。
表 発症時期や進行スピードを把握するための質問方法