医科2016.01.25 講演
[保険診療のてびき] 第23回日常診療経験交流会演題より
米国の薬局について
尼崎市・ドリーム調剤薬局 薬剤師 高田多美江
異国での医療事情は医療制度や生活スタイルによって違いがあります。日本とは違った医療システムの中での薬剤師の役割を知ることは、日本でのチーム医療を考える上で薬剤師の役割を再度認識できるとともに、日本独自の薬剤師の役割を確立していくため参考になることと思います。ここでは米国の医療保険、それに関係して日本とは違う米国の薬局の役割についてお話しします。
米国の医療保険
日本では医療保険により負担割合の違いはあるものの、すべての人が平等に医療を受けることができますが、米国では加入している医療保険やシステムにより、受けることのできる医療サービスが違います。米国の医療保険は大きく三つに分かれます。・メディケア...公的な保険。65歳以上の高齢者、身体障害の若年層
・メディケイド...公的な保険。貧困層
・民間保険...民間の保険。65歳未満の人。雇用主を介して契約
アメリカ疾病管理予防センターによる2012年の調べでは65歳以下で民間の保険に入っている人は約61%、保険に入っていない人は約17%です。18歳から65歳までの人だけでいうと民間の保険に入っている人は約64%、保険に入っていない人は約21%になります1)。
民間保険は日本で言う任意の生命保険のようなものであり、購入する医療保険のタイプによって受けられるサービス内容が異なります。民間保険はシステムの違いからいくつかのタイプがありますが、主なものは以下の二つです2)。
HMO(Health Maintenance Organizations)
・ネットワーク内の主治医を通さないと他の専門のドクターに行けない
・自己負担額は安い
・ネットワーク外では全額負担、もしくは拒否
PPO(Preferred Provider Organizations)
・専門のドクターも自分で選べる
・自己負担額は高い
・ネットワーク外でも割高だが保険適用あり
薬局でも保険のタイプにより利用できる薬局、薬の種類、値段が変わってきます。保険で支払うことのできる薬をformularyと言い、処方された薬がformularyでなければ、保険は適用されません。薬剤師は処方薬がformulary薬であるか確認し、また違う場合は患者の希望により、formulary薬に変更できるかどうか医師に問い合わせをすることもあります3)。
米国の薬局の概要
保険が使える薬局の分類としてはこれらの薬局があります。・Retail Pharmacies
主に大型チェーン店
・Mail Order Pharmacies
郵送での薬剤業務をしている薬局
・Specialty Pharmacies
特定疾患専門の薬局
・Home Infusion Pharmacies
在宅輸液・在宅経腸栄養剤を取り扱う薬局
・Long Term Care Pharmacies
長期介護のための薬局
・I/T/U Pharmacies
インディアンヘルスサービス管理の薬局
大手のドラッグチェーン店としてはWalgreens、CVS、Target、Rite Aidなどがあります。店内の調剤薬局はRxのサインがあり、OTC医薬品の近くにあります。ドライブスルー形式になっている薬局もあります。大手のスーパーSafewayや大型量販店Costcoでも店内の一角に調剤薬局があります。
調剤薬局では、一般的に医師から出してもらった処方箋は「drop off」サインのところで渡します。そこで住所・氏名・保険などを聞かれます。最近は医師から直接On Line処方箋を薬局に送ってくれることもあります。受け取りは「Pick Up」サインのところで署名し、薬を受け取ります。その業務にはPharmacy techniciansと呼ばれる職務の方が対応しています。
米国のOTC医薬品
米国のOTC医薬品については、日本のOTC医薬品とはその使われ方などに違いがあります。FDA(食品医薬品局)の定義ではOTC医薬品はレシピ化された使いやすい薬と位置づけされ4)、頻繁に使われています。日本と全く違う点として、病院に行って医師に診察を受けても、医師からOTC医薬品を推奨されることも多くあります。4分の3の診療医は処方薬を使う前に、OTC医薬品を推奨しています5)。例えば子どもの発熱や喉の痛みで受診しても、細菌性の症状であることが確認されるまで抗生剤は出してもらえません。症状を和らげるため、処方箋ではなく、メモに解熱鎮痛剤や抗ヒスタミン剤のOTC薬の名前と容量を書いて渡されることも多くあります。
OTC医薬品でも先発品と後発品とを並べて展示されていることが多く、価格も薬局により違います。後発品だけでなく、先発品についても店舗により大きく価格が違うことがあります6)。
米国の処方薬
米国の処方薬は、錠剤についてはシートではなくほとんどの場合ボトルで処方されます。ボトルには患者名、薬品、用法用量、リフィルの有無、処方箋ナンバーなどが記載されています。キャップは子どもが簡単に開けられないようになっています。米国の処方箋にはリフィル指示の有無が表示されています。これは患者が医師の再診を受けることなく、処方箋一枚で繰り返し薬局で薬を受け取ることのできる仕組みで、各州が、リフィル可能な医薬品・リフィル回数・1回当たりの処方日数などを定めています7)(上表)。
リフィル処方の制度では、慢性疾患の長期投薬であっても、薬剤師が定期的に薬物療法の経過を観察し、副作用の発現などをチェックすることで、医師の負担を少なくすることができるといわれています。患者にとっても、診察に行くのが遅れるなどし、薬の継続服用ができないなどのリスクを避けることができます。米国ではリフィル処方箋が浸透しており、新規処方箋との割合はほぼ同数といわれています8)。
リフィルの連絡は、電話やPC、携帯電話から、ボトルに貼られている処方箋ナンバーなどを伝えることで簡単にできます。最近では、定期的に必要な薬を必要な時に用意し、連絡をくれるオートリフィルなどもあります。オートリフィルはリフィル忘れを防ぐのに効果があるといわれています9)。旅行先でもリフィル処方箋をトランスファーすることで、違う薬局でいつもの薬を受け取ることができます。
薬局でのインフルエンザ予防注射
薬局での薬剤師の仕事の一つに予防注射があります。2009年にインフルエンザの大流行を機に、全50州で研修を受け認可を得た薬剤師が予防注射をすることができるようになりました10)。大手チェーン店Targetでは08年に試験的に予防注射を16店舗で始め、10年は650店舗すべての薬局で予防注射ができるようになりました。(他のチェーン店も入れると約1万9600店舗)同チェーン店での13年1月の接種率は12年の同時期の20倍も増加したとのことです。予防注射の接種率が少なかったアメリカでは、便利な大手チェーン薬局での予防注射は成功例として報告されています11)。
最近はインフルエンザワクチンだけでなく、水疱瘡、MMR、三種混合ワクチン、A型肝炎ワクチン、子宮頸がんワクチンなどもできるようになっています12)。州や地域で定められている予防接種については、18歳以下の子どもは薬局で予防接種をするには医師の処方箋が必要になります。子どもの予防接種率を少しでも上げるため、インディアナ州では11歳以上、またペンシルベニア州では7歳以上は薬局での予防注射に処方箋がいらなくなるよう検討されているとのことです11)。
まとめ
米国での長期滞在の中で経験したことをもとに日本との違いを紹介しました。帰国後、患者として日本の調剤薬局で受けた丁寧な服薬指導は、米国ではアポイントなしでは体験できないものでした。また、薬剤師として、出国前とは格段に違う薬剤師と患者さんとの関係性も強く感じました。医師の診断を受け処方箋を持って来られる患者さんから、薬剤師との話の中で、医院では話されなかった重要な情報が得られることが多くあります。日本では地域の医院への受診が米国に比べかなり容易になっているため、米国での例はそのまま真似できるものではありませんが、地域の調剤薬局でも各医院の先生方と密な関係を築き、日本独自の素晴らしいチーム医療ができるよう、薬剤師も積極的に活動していかなければと強く感じます。
表 規制物質の分類とリフィル規制(Controlled Substance Refills and Schedules)
(参考)
1)http://www.cdc.gov/nchs/fastats/health-insurance.htm
2)http://www.healthinsurance-forhumans.com/difference-between-hmo-and-ppo.html
3)http://www.kobayashi-naika.com/03.html
4)http://www.fda.gov/Drugs/ResourcesForYou/Consumers/QuestionsAnswers/ucm100101.htm
5)http://www.yourhealthathand.org/images/uploads/CHPA_OTC_Trust_Survey_White_Paper.pdf
6)http://www.consumerreports.org/cro/2013/01/best-drugstores/index.htm
7)http://drugs.emedtv.com/controlled-substances/controlled-substance-refills.html
8)http://www.emec-med.com/interpretive/06/p5.html
9)http://www.chaindrugreview.com/front-page/newsbreaks/cvs-rolls-out-prescription-refill-reminder-program
10)http://www.pharmacytimes.com/publications/issue/2010/January2010/FeatureFocusVaccinations-0110
11)http://healthland.time.com/2013/09/04/flu-shots-at-the-pharmacy-what-you-need-to-know/
12)http://www.cvs.com/promo/promoLandingTemplate.jsp?promoLandingId=get-vaccinated