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学術・研究

医科2016.07.23 講演

特別研究会より
蚊が媒介する感染症〜特にジカ熱について

国立国際医療研究センター 国際感染症センター/国際診療部 忽那 賢志先生講演

ジカウイルス感染症とは
 2014年にデング熱の国内流行、チクングニア熱の中南米でのアウトブレイクを経て、蚊媒介性感染症が社会的な問題となっている。2015年から現在に至るジカウイルス感染症は、まさに世界の脅威と言える。
 ジカウイルス感染症とは、フラビウイルス科フラビウイルス属のジカウイルスによって起こる蚊媒介性感染症である。ジカウイルス感染症を媒介する蚊は主にネッタイシマカ(Aedes aegypti)とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)である1)。日本にはネッタイシマカは生息していないが、ヒトスジシマカは青森県〜北海道を除いた日本全土に分布している。このため、日本国内でも輸入例を発端とした流行が起こりうる。また性交渉によって男性から女性、男性から男性に感染したと思われる症例も報告されている。当初、性交渉による感染例は全体のごく一部であると考えられていたが、決してまれではないようである。回復から2カ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告もあり、現時点ではいつまでジカウイルスが精液中に残存するのか不明である。
 ジカウイルス感染症は近年、急速に流行地域を拡大しており、2015年から現在にかけて中南米で400万人規模と言われる大流行を起こしている。中南米以外にもオセアニアやベトナム、タイ、シンガポールなどの東南アジアでも症例が報告されている。日本では2016年8月時点で10例の輸入例が報告されている。
ジカウイルス感染症の症状
 ジカウイルスに感染した場合、約80%が不顕性感染であると考えられている。ジカウイルスに感染した者のうち、約20%の患者が2〜7日の潜伏期間を経て症状を呈する。ジカウイルス感染症の臨床症状として頻度が高いのは、微熱を含む発熱、関節痛、皮疹(紅斑・紅丘疹)(図1)、眼球結膜充血(図2)である。これ以外にも頭痛、筋肉痛、後眼窩痛などの症状がみられることもある。ジカウイルス感染症の臨床症状を表1に示す2)
 まれにジカウイルス感染症罹患後にギラン・バレー症候群(GBS)を発症することがある3)ことが知られている。フランス領ポリネシアでは、2013年から2014年のアウトブレイクで3万人以上がジカウイルス感染症に感染したと推計されるが、42人のジカウイルス感染症感染後のGBS症例が報告されている。
確定診断の方法
 ジカウイルス感染症の確定診断はPCR法によるジカウイルス遺伝子の検出、またはペア血清によるIgM抗体あるいは中和抗体の陽転化または抗体価の有意の上昇を確認することによる。
 発症早期であれば血清からのPCR法による遺伝子の検出が可能であるが、ジカウイルス感染症の発熱期間はデング熱に比べて短く、血清から遺伝子が検出される期間も短いと考えられている。血清から遺伝子が消失した後も尿や精液からはより長期間遺伝子が検出されるため、急性期を過ぎた症例では血液検体と同時に尿検体も採取することが望ましい4)。抗体検査は急性期と回復期のペア血清で4倍以上の上昇を確認する。2〜3週間隔での採取が望ましい。
 妊婦がジカウイルス感染症に感染すると胎児の小頭症発症のリスクが高くなることが関連付けられており、フランス領ポリネシアでの流行における解析では、非流行時には1万人の新生児出生当たりの小頭症新生児の出生は2人であるのに対し、ジカウイルス感染症に感染した妊婦が小頭症の新生児を出生する頻度は1万人当たり95人と算出された5)
流行地域では防蚊対策の徹底を
 現在のところ、ジカウイルス感染症に対する特異的な治療はない。それぞれの症状に対し対症療法を行う。デング熱との鑑別ができていない時点ではNSAIDsの使用は避けた方が良い。また、ジカウイルス感染症に対するワクチンもないため、ジカウイルス感染症の流行地域では防蚊対策を徹底することが重要である。
(7月23日特別研究会より、小見出しは編集部)
参考文献
1)Ioos S, Mallet HP, Leparc Goffart I, Gauthier V, Cardoso T, Herida M. Current Zika virus epidemiology and recent epidemics. Med Mal Infect. 2014;44(7):302-7.
2)Cerbino-Neto J, Mesquita EC, Souza TM, Parreira V, Wittlin BB, Durovni B, et al. Clinical Manifestations of Zika Virus Infection, Rio de Janeiro, Brazil, 2015. Emerg Infect Dis. 2016;22(7):1318-20.
3)Brasil P, Sequeira PC, Freitas ADA, Zogbi HE, Calvet GA, de Souza RV, et al. Guillain-Barré syndrome associated with Zika virus infection. The Lancet. 2016;387(10026):1482.
4)Kutsuna S, Kato Y, Takasaki T, Moi M, Kotaki A, Uemura H, et al. Two cases of Zika fever imported from French Polynesia to Japan, December 2013 to January 2014 [corrected]. Euro Surveill. 2014;19(4).
5)Cauchemez S, Besnard M, Bompard P, Dub T, Guillemette-Artur P, Eyrolle-Guignot D, et al. Association between Zika virus and microcephaly in French Polynesia, 2013-15: a retrospective study. The Lancet. 2016;387(10033):2125-32.

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