医科2016.09.10 講演
リウマチ・膠原病の診かた[診内研より491]
自治医科大学附属病院 総合診療内科 教授 松村 正巳先生講演
はじめに
診断のプロセスは、病歴・身体診察、それらを基に立てる仮説、鑑別診断を挙げることから成り立っている。この視点から、リウマチ・膠原病の診かたについて概説する。リウマチ・膠原病では病歴と同様に身体診察が大きな役割を果たす。関節の障害では関節痛と関節炎を分けて認識し、診断を進める。また、この分野は抗核抗体をはじめ血清学的検査が診断に大きく関与し、興味深い。抗核抗体陽性の疾患と陰性の疾患、ANCA陽性の血管炎と陰性の血管炎を分類しておく。その他、超高齢化社会でのリウマチ・膠原病、さらに不明熱における鑑別について考えてみたい。
診断のプロセスにおける病歴
診断は四つのステップからなる(図1)。ステップ1:情報収集(data collection:問診・身体診察)、ステップ2:問題の描写(problem representation)、ステップ3:疾患の知識(illness scripts)への照合、ステップ4:問題を説明する疾患を選ぶ(script selection)、からなる。ステップ2は鑑別疾患を挙げるときの要である。ここでは三つの要素を明らかにする。(1)患者は誰(年齢、性別、既往歴)か。(2)症候は何か(鍵となる徴候)。(3)時間経過の中で問題がどのように起こったのか、を明らかにする。例を挙げてみる。生来健康な68歳・女性が外来受診し「3週前からあちこちの関節が痛くなって、10日前からは夕方になると38℃の熱が出るようになりました。5日前からは足先がしびれています」と訴えたとする。
患者の表現と身体所見をわれわれは、以下のように翻訳しなくてはならない。
(1)患者は誰か。生来健康な68歳・女性。
(2)症候は何か。発熱、多発性関節炎、多発性単神経炎。
(3)時間経過は。亜急性発症。
問題の描写は「生来健康な68歳の女性。亜急性発症の発熱、多発性関節炎、多発性単神経炎を呈する」となる。これがステップ3へ移行するときの鍵となる。診断は顕微鏡的多発血管炎である。
われわれが鑑別疾患を考えるときに無意識のうちにアタマの中で行っている一つの方法は、患者の言葉を鑑別疾患の絞り込みに寄与する対となる概念を持つ単語に置き換えること(semantic qualifier)である1)。対となる概念で表現できれば、他方から想起できる鑑別疾患は除外できる。例として、突然と急性、亜急性と慢性など時間の概念、持続性と間欠性、単発性と多発性、発作性と非発作性などが挙げられる。このような患者の訴えを医学的概念に翻訳する過程で無意識のうちに鑑別疾患は想起され、可能性の低いものが除かれる。例えば、生来健康な39歳・男性の急性単関節炎であれば、まず痛風、まれに感染性関節炎ありと考える。優れた診断医は情報の収集に優れ、問題の描写が正確である。
身体診察
リウマチ・膠原病においては、関節痛と関節炎の違いを認識することが肝要である。関節痛は疼痛のみである。関節炎では、(1)疼痛(圧痛)、(2)腫脹、(3)熱感、(4)発赤、(5)機能の障害(関節可動域の制限、変形)を認める。関節炎と認識できれば、発症からの時間経過により急性(数日〜2週間)と慢性(4〜6週間)を分け、関節炎を起こしている関節の数から単発性と多発性(2カ所以上)に分ける。これより2×2で四つの分類ができる(表1)。それぞれの鑑別を表2と表3に示す。検 査
リウマチ・膠原病の幾つかの疾患は、抗体検査が診断に大きく寄与する。抗核抗体陽性の疾患と陰性の疾患を整理しておく(表4)。また、血管炎においては、ANCAが陽性になりうる血管炎と陰性の血管炎に分けて整理しておく(表5)。ステップ2から想起される鑑別疾患に応じて検査を実施し、診断を確定し、ときに除外に使う。
注意すべき病態
わが国は超高齢化社会を迎えた。その中で、偽痛風、リウマチ性多発筋痛症、巨細胞性動脈炎を診断する機会が増えてきている。偽痛風も関節炎の起こる部位によっては(例:環軸関節の偽痛風:crowned dens syndrome、恥骨結合部の偽痛風)、診断に苦慮する。リウマチ性多発筋痛症は初期に五十肩と診断されることがある。また、巨細胞性動脈炎は高齢者の不明熱において、常に鑑別疾患の一つとして挙げられる。不明熱
不明熱の診断では、診断に寄与する発熱以外(発熱+α)の症状・徴候を見つけることが診断確定に大きく寄与する。以下は、一対一対応するものではないが、考慮に値する。発熱に加えて以下がある:
・咳嗽、体重減少 → 結核
・頭痛 → 巨細胞性動脈炎
・腰痛 → 癌、骨髄炎
・下肢のしびれ → 血管炎
・上腕から肩の痛み、朝方寝返りがうてない → リウマチ性多発筋痛症
・頸部痛 → 髄膜炎、リウマチ性多発筋痛症、crowned dens syndrome、亜急性甲状腺炎、レミエール症候群
・難治の中耳炎の既往 → 血管炎においてotitis media with ANCA-associated vasculitis(OMAAV)という概念が提唱されている2)
・比較的徐脈 → 腸チフス、マラリア、Q熱、ブルセラ症、髄膜炎で頭蓋内圧の上昇を伴うもの、腎細胞癌、リンパ腫、中枢神経の腫瘍
・リンパ節腫脹 → リンパ腫、HIV、菊池病、Castleman病
・診断のつかない扁桃炎 → 急性HIV感染症
・白血球減少、リンパ球減少 → SLE
・血小板増多 → リウマチ性多発筋痛症、巨細胞性動脈炎、高安病
・好酸球増多 → 結核、ホジキンリンパ腫、菌状息肉腫、好酸球性白血病、結節性多発動脈炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
・異型リンパ球 → EBウイルス、サイトメガロウイルス、トキソプラズマ症、ブルセラ症、マラリア、ツツガムシ病
・単球増加 → リンパ腫、血管炎
・赤沈亢進(100㎜/時間以上) → リウマチ性多発筋痛症、巨細胞性動脈炎、高安病
・補体低下 → SLE、クリオグロブリン血症、感染性心内膜炎、IgG4関連疾患(発熱をきたすことは少ない)
・血液培養で解釈に違和感を感じる菌が生えてきた(例:血液培養から複数の口腔内常在菌が検出された) → 虚偽性障害(ミュンヒハウゼン症候群)
おわりに
診断とは患者の身体に起こっている異常(disease)を医学の概念に照らし合わせ、正しく解釈する作業である。解釈を誤らないように日々経験を重ねたい。文 献
1)Bowen JL. Educational strategies to promote clinical diagnostic reasoning. N Engl J Med. 2006;355:2217-25.2)Yoshida N, Iino Y. Pathogenesis and diagnosis of otitis media with ANCA-associated vasculitis. Allergol Int. 2014;63:523-32.
(9月10日、診療内容向上研究会より)