医科2017.02.18 講演
[保険診療のてびき]
在宅における褥瘡の予防と治療連携
尼崎市・皮膚科 美川医院 増田 理恵先生講演
Ⅰ.褥瘡とは
「身体に加わった外力が、骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下あるいは停止させ、この状況が一定時間持続して生じる不可逆的な阻血性障害」が褥瘡と定義されている。発生の要因として全身的(基礎疾患、低栄養など)、局所的(加齢による皮膚のぜい弱化、摩擦・ずれ、失禁など)および社会的(介護力不足、経済力不足など)要因が考えられるが、在宅で最も重要視されるのが「介護力不足」である。
介護力に関しては、介護協力者の人数や体位変換、オムツ交換、食事介助、局所ケアの可・不可などをきっちりと評価し、必要なサービスを早急に手配することではじめて褥瘡の予防や治療が有効なものになる。ここではケアマネジャーの果たす役割が大きい。
Ⅱ.危険因子の把握
一人ひとりについて褥瘡になりやすいか否か、すなわち褥瘡危険因子(表1)を早期に確認することが予防の第一歩である。これらの対策として、「栄養状態低下」についてはかかりつけの主治医の診断はもとより、管理栄養士による食事指導、歯科医のアドバイスによる口腔ケアなど各専門職の介入も必要となる。「基本動作能力なし」への対策は体圧分散マットレスやクッションなどの福祉用具の導入や在宅医療関係者による除圧の指導を積極的に行うことである。
Ⅲ.褥瘡の評価
褥瘡の深さの分類では、ステージⅠ(持続する発赤)、ステージⅡ(真皮に及ぶ損傷)、ステージⅢ(皮下組織に至る損傷)、ステージⅣ(筋肉、骨支持組織に及ぶ損傷)の4段階の他にDTI(深部組織損傷)を忘れてはならない。DTIは最初、紫または栗色の皮膚色変化あるいは血疱形成の形で現れるがこれを浅いと評価すると見通しを誤ることになる。多職種間で褥瘡を評価する共通言語としてDESIGN−R分類がある。週1回は判定し、9点以下なら1カ月以内の治癒が見込めるが、10〜18点で3カ月以内、19点以上なら3カ月以上かかる可能性が高い。この認識を共有することが円滑な治療に結びつくと思われる。
筆者も、訪問看護師、ケアマネジャー、入浴サービス担当者、管理栄養士間でこの評価を共有し、相互の連携により、難治と思われた深い褥瘡が短期間で著明に改善した例を経験している。
Ⅳ.摩擦・ずれ対策
摩擦は皮膚表面に起こるため、浅い褥瘡を形成するが、ずれは骨の上で筋肉と軟部組織が外力によって引き延ばされるため深い褥瘡となり、ポケット形成や不良肉芽、壊死組織の増加につながる。体位変換時にずれが生じていないか常にチェックし、クッションや枕を上手に使って苦痛のない姿勢を維持してもらう(ポジショニング)工夫が要求される。かかとは完全に浮かせる必要があり、下肢にクッションを入れる際には膝の下からふくらはぎ全体の広い範囲を除圧する。またエアマットの上にカバーをかける時も、ぴんと張らずにエアマットの凹凸に沿わせるようにのせる(ハンモック現象を避ける)。Ⅴ.治療
原則はひたすら創を洗浄して観察し、肉芽、滲出液、壊死組織の状態で対処法を考える。創は常に細菌感染の危険にさらされるが、感染の一歩手前であるクリティカルコロナイゼーション(臨界保菌状態)を確認することが重要である。適切な治療により改善が期待できるからであり、外用薬としてはヨウ素製剤(カデックス軟膏、ヨードコート軟膏、ユーパスタ軟膏など)またはスルファジアジン銀(ゲーベンクリーム)が有効であり、被覆材としては銀含有のもの(アクアセルAg、アルジサイト銀など)も選択肢に挙げられる。潰瘍治療薬は使う時期を把握すれば大変有用であるが、注意点を念頭に置く必要がある(表2)。滲出液の量に応じた使い方に習熟すると、創の状態を早く改善に持ち込める(表3)。またドレッシング材も特性を生かして使用すると、交換の手間が省けて滲出液のコントロールにも有効性が発揮できる。
Ⅵ.糖尿病性潰瘍
糖尿病患者の増加に伴い下肢の潰瘍を診療する機会が多くなり、下肢切断を回避するための病診連携が重要になっている。明らかな虚血がなくても糖尿病患者では、血管内皮細胞の障害などにより下肢の潰瘍、壊死、感染が生じることがある。くつずれや低温熱傷に気づかずに放置した結果、慢性潰瘍から重症化する例が多く、いったん治癒しても再発が多い。虚血が見られるときはデブリドマンは禁忌である。循環器科に紹介し、血行再建術を速やかに行ってもらう必要がある。
再建術の適応がないか切断を拒否する例では乾燥ミイラ化療法(イソジンゲルなどで創を乾燥させる)がある。 潰瘍を診断する際、糖尿病患者であるか否か、虚血性なのか否か、常に感覚を鋭く保っていくことが治療者に要求されている。
Ⅶ.まとめ
皮膚の小さな変化に最初に気づけるのは介護者であるので、それを速やかに医療者に伝える体制を整えるべきである。各専門職が情報を共有し、適切な対策を提案し合える密な連携がますます重要になってきている。(2月18日、在宅医療研究会より)