医科2017.06.17 講演
[保険診療のてびき]
第2世代抗精神病薬の使い方 〜使用経験から考える〜
東灘区・まつい心療クリニック 院長 松井 律子先生講演
第2世代抗精神病薬の種類
最近、統合失調症、うつ病・うつ状態、双極性障害、自閉性スペクトラム障害など多くの疾患に使われる薬物として第2世代抗精神病薬が注目されています。今回は、第2世代抗精神病薬使用のポイントを書いてみました。日本で発売されている第2世代抗精神病薬にはリスペリドン(リスパダール)、オランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン(セロクエル)、アリピプラゾール(エビリファイ)、ペロスピロン(ルーラン)、ブロナンセリン(ロナセン)、クロザピン(クロザリル)、パリペリドン(インヴェガ)、アセナピン(シクレスト)などがあります。
これらの全部に統合失調症の適応がありますが、双極性障害に適応があるものはオランザピンとアリピプラゾール。他の薬物で十分な効果の得られないうつ病・うつ状態に適応があるのはアリピプラゾールのみ。さらに最近急に注目度が上がってきた小児の自閉性スペクトラム障害にはリスペリドンとアリピプラゾールが用いられます。
中でもアリピプラゾールの先発品であるエビリファイは上記にあげた四つの適応をすべて持つ唯一の薬物です。1カ月に1回注射することで維持療法が可能な注射薬もあり大変有用なツールですが、患者さんを拝見されたときにどの疾患に対して処方されているのかわからないこともあります。
副作用や禁忌に注意
このように広汎な疾患に有効である一方、第2世代抗精神病薬には注意しなければいけない副作用や投薬禁忌もあります。第2世代のお薬はドパミン神経系に選択的に作用するため効果も上がりやすく、自律神経系やホルモン系、錐体外路系の副作用は従来の第1世代のお薬に比べ格段に少なくなっています。例えば便秘、目のかすみ、口渇、ふらつき、無月経、性機能障害、手足の震戦などは第2世代のお薬が主流になって本当に少なくなりました。
以前から抗精神病薬を長期投与した患者さんでは、過食、肥満、高脂血症、糖尿病などになりやすいことが知られていました。こうした副作用のために特に女性患者さんが服薬を嫌がったり、自己中断したりすることも少なくありません。コンプライアンスが低下するために再発・再燃につながることもあり、精神科医の悩みの種でした。
第2世代のお薬では過食や肥満などは第1世代に比べて少なく、手足の震戦も少ないため家事をするのに支障がないので女性患者さんのコンプライアンスは向上しています。またコンプライアンス不良のケースはアリピプラゾール、リスペリドンには持続性注射薬を用いることで維持療法をしやすくなっています。病識がない患者以外に、就労していて忙しさに紛れ、服薬を忘れがちな患者さんにも有用な手段となりました。
しかし第2世代のお薬では血糖値上昇とそれに先立つHbA1C上昇の副作用に注意が必要です。糖尿病治療中および糖尿病の既往のある患者さんには投与できません。定期的に血糖値やHbA1Cを血液検査によって測定しながら投与するようにして下さい。
患者の正確な病名を把握
広汎な疾患に適応がある第2世代の薬物の場合、処方だけ見て病名を推測するのは難しくなっています。ごく大まかに言えば、統合失調症や双極性障害の躁状態のときには常用量のうちでも多めの薬物が処方されることが多く、うつ病やうつ状態、双極性障害のうつ状態のときには少なめの薬物が処方されます。小児の自閉性スペクトラム障害の場合、普段はごく少量の薬物が処方されますが、興奮が強い時期には小児の常用量の上限近くの量が処方されることもあります。そうはいっても処方を見ただけでは患者さんの病名を正確に判断できません。他科を受診された場合には、精神科の主治医に連絡を取り、正確な病名と現在の状態、処方目的などを把握するようにしてください。薬剤師の先生方は調剤や薬剤指導にあたって正確な病名を把握するようにしてください。
副作用などの観察にも正確に病名を知ることが必要ですが、後発品への変更に際しても注意が必要です。アリピプラゾール(先発品はエビリファイ)の場合、後発品には統合失調症の適応しかありません。もしうつ病や双極性障害、自閉性スペクトラム障害で処方されている患者さんに後発品を処方した場合、主治医がレセプトを減点されることはもちろん、副作用が出た場合に適正使用ではないと認定され、患者さんが医薬品副作用救済機構の救済を受けられない可能性も高いのです。同様のことがリスペリドンについても言えます。リスペリドンの後発品では自閉性スペクトラム障害の適応はありません。
連携でより良い治療成果
第2世代抗精神病薬はとても役に立つお薬ですが、安全に活用するためには各科の医師同士、医師と薬剤師の連携が必要です。連携することでより良い治療成果が生み出されることを期待します。私たち精神科医の担当患者さんが受診されたり調剤を依頼されたりした際には、どうかよろしくお願いいたします。(6月17日、薬科部研究会より、小見出しは編集部)