医科2017.08.26 講演
[保険診療のてびき]
日常臨床におけるCOPD診断と治療
西宮渡辺病院 呼吸器内科部長 松浦 邦臣先生講演
疫学
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は肺気腫・慢性気管支炎により惹起される末梢気道の閉塞性換気障害を有し、主にタバコなど有害物質を長期に吸入暴露することで生じる肺の進行性かつ不可逆的な炎症性疾患と定義されます。世界におけるCOPD有病率は10%前後といわれ全世界の死因第3位1)、障害調整生存年数逸失(Disability-adjusted life-years:DALY)原因の第2位2)になっています。一方日本での有病率は8.6%3)で40歳以上の推定患者数は510万人にのぼり死因の第9位、2020年には潜在患者数は800万人を超え日本人の死因の第3位になるであろうと予測されています。GOLD分類
これまでCOPDは他の気流障害を来しうる他疾患(喘息・心不全など)を除外し、気管支拡張薬投与後のスパイロメトリーから得られる結果をもって診断および気流閉塞に応じた病期分類が行われてきました。しかし気流閉塞だけでは実際の重症度を正確に評価できず増悪・予後の予測がなされていないとの指摘があり、WHOとアメリカ国立衛生研究所などが中心となって設立された国際機関GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)が、2011年に気流閉塞の程度・自覚症状・増悪回数の項目を加味したCOPDの新たな総合的指標を発表しました。これが「GOLD分類」(図1)といわれるもので、気流閉塞のグレード、シンプルな質問票(CAT:COPD assessment testもしくはmMRC:modified British, Medical Research Coundil)から得られる自覚症状スコア、さらに1年以内の増悪回数4)をもってA〜Dの4グループに病期分類し、程度に応じた薬剤の選択・治療を推奨するという画期的な提案でありました。
ところが作成時の予測でAが一番予後良好で次いでB→C→Dとなるはずが、実際の検討ではA→C→B→Dで予後良好という結果5)が出てしまいました。この結果を受ける形で2017年に改定が行われ、「新GOLD分類」(図2)ではより強い予後予測因子を増悪頻度であると解析し、より強く結果に反映させるべく増悪回数と自覚症状のみでA〜Dに分類、気流閉塞の程度は独立した因子として区別しています。
安定期の治療
GOLDでは上述の病期分類に応じた治療法を推奨しています(図3)。薬物治療として主に使用されるLAMA(long acting muscarinic antagonist:長時間作用型抗コリン剤)、LABA(long acting be-ta 2 agonist:長時間作用型β2刺激薬)、ICS(inhaled corticosteroid:吸入ステロイド)それぞれのエビデンスを示していきます。UPLIFT試験6)でLAMA(チオトロピウム:スピリーバ®)の優れた気管支拡張効果と増悪回数減少・死亡率低下が示され、さらにPOET-COPD試験でLAMA(チオトロピウム)がLABA(サルメテロール:セレベント®)よりも増悪回数を17%低減させることを示し優位性を示したかに見えました。しかしultra-LABAといわれるインデカテロール(オンブレス®が登場すると、INVIGORATE試験7)において気管支拡張効果でチオトロピウムと同等の成績を残し、LABAがLAMAとならんで治療の第一選択薬として併記されるようになります。ただ増悪抑制効果ではLAMAに対する非劣性を示せず、COPD増悪予防にはLAMAに分があるという結果となっています。
最近ではLAMAとLABAの合剤グリコピロニウム/インダカテロール(ウルティブロ®)、チオトロピウム/オルダテロール(スピオルト®、ウメクリジニウム/ビランテロール(アノーロ®)も発売されLAMA単剤よりも高い効果を示すことが確認されています。一方ICSは単剤での効果は乏しく、GOLDでは「重症で増悪を繰り返す患者にLABAとの併用で使用すること8)」を推奨しています。
増悪予防・増悪時の治療
COPDを長期管理していく上で、予後予測因子となる増悪回数を減らすことはとても重要です。近年マクロライド系抗菌薬は抗菌活性以外の効果に注目が集まっています。増悪契機となるRSやインフルエンザウィルスによる上気道感染において、症状緩和だけでなくウィルス量の減少や炎症性サイトカインの生成抑制効果、繊毛輸送機能亢進作用、気道クリーニング効果、黄色ブドウ球菌や緑膿菌のバイオフィルム合成抑制などが報告され、これらの作用によるCOPD増悪抑制効果が期待されています。マクロライドのほかにも禁煙、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン(インフルエンザワクチンと併用)の効果があることが報告されており薬物療法とともに実施されることが望まれます。
これらの対策をもっても急性増悪を起こした症例にはABCアプローチ(Antibiotics:抗菌剤、Broncho-dilators:気管支拡張剤、Corticosteroids :ステロイド薬)で速やかに対処します。COPD急性増悪は病態進行に深く関与するため、増悪予防ならびに治療において適切に対応する必要があります。
参考文献
1)Lozano R, et al.:Global and regional mortality from 235 causes of death for 20 age groups in 1990 and 2010:a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2010.2)Murray CJ, et al.: Measuring the global burden of disease, N Engl J Med 2013;369: 448-457.
3)Fukuchi Y et. al. Respirology. 2004 9(4):458-65
4)Hurst JR et al:N Engl J Med 2010;363(12), 1128-1138
5)Lange P, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2012 15;186(10):975-81.
6)Celli, B. et al.:Am J Respir Crit Care Med 180:948-955, 2009
7)Decramer ML, et al:Lancet Aug 21, 2013
8)Crim C, Calverley PM, et al:Pneumonia risk in COPD patients receiving inhaled corticosteroids alone or in combination:TORCH study results. Eur Respir J 2009; 34(3);641-7
(8月26日、西宮・芦屋支部研究会より)