医科2017.10.14 講演
心房細動の全て
−病態の基礎から最新の診断・治療をわかりやすく解説−
[診内研より500](2017年10月14日)
尼崎市・関西労災病院 循環器内科・不整脈科 不整脈治療部門長 増田 正晴先生講演
はじめに
高齢化社会の進展に伴って、心房細動の罹患者数は増加の一途をたどっています。動悸や労作時の倦怠感、息切れなどが主要な症状ですが、脳梗塞などの血栓塞栓症や心不全などの生命予後を悪くする合併症を引き起こすことがあり、注意が必要です。心房細動の治療は、背景疾患の管理に加えて、脳梗塞などの血栓塞栓症予防を行います。「心不全」、「高血圧」、「75歳以上」、「糖尿病」、「脳梗塞の既往」の一つでも該当する場合(CHADS2スコア1点以上)、非弁膜症性心房細動であれば、直接経口抗凝固薬(DOAC)の服用が推奨されています。
また近年は心房細動そのものに対するカテーテルアブレーション(心筋焼灼術)の成績が向上しており、発作性心房細動や持続期間の短い(1年未満)持続性心房細動においては、治療の第一選択となりつつあります。その背景には、治療機器の進歩に伴う、施術時間の短縮、合併症の減少、治療成績の向上が挙げられます。まさに「一生付き合っていく慢性疾患」から「根治可能な疾患」へと変わりつつあります。
以降に関西労災病院でのアブレーションの現状についてまとめさせていただきます。
関西労災病院でのアブレーションの実際
適 応
根治的治療となり得るので、原則としてほとんどの症例にアブレーションを推奨しています。ただし5年以上続く持続性心房細動や左房拡大の著明な心房細動では成功率が低いので、積極的には推奨しません。
治療適応となりにくい症例
・ADLの低下した高齢者(年齢で区切っているわけではありません)・担癌患者など生命予後の限られた患者さん
・弁膜症による心房細動など
手技の実際
・3泊4日入院・施術時間は発作性心房細動で60分(高周波、冷凍凝固アブレーションとも)、持続性心房細動で60〜120分
・鎮静あるいは全身麻酔を患者さんの希望および医学的見地から選択します。
・術後6時間はベッド上安静
手技の合併症
・穿刺部血腫、熱発(感染)、アレルギーなど軽微な合併症は10%程度の症例で見られます。・脳梗塞(0.1%)、心タンポナーデ(0.5%)、食道左房瘻(0.05%)などが深刻な合併症です。
術後について
・退院後1週間程度は穿刺部再出血の危険があるため、過激な活動は控えていただきます。・術後3カ月程度は、アブレーションによる炎症のため、20%ほどの症例で一過性に心房細動が再発しますが、このうち半分程度はその後心房細動が消失します。
・抗凝固療法は、CHADS2=1点以下は3カ月で、2点以上はかなりの確度で心房細動再発がないと判断できれば、中止します。
成功率
より強固な肺静脈隔離が可能となり、発作性心房細動を中心に、術後慢性期の洞調律維持率は向上しています。しかし長期間持続性心房細動では、まだまだ満足のいく成績でないことも事実です(表)。関西労災病院でのアブレーションの特徴
発作性心房細動は、よりシンプルに
肺静脈隔離を中心とした心房細動の引き金(トリガー)となる期外興奮を取り除くことをめざします。患者さんにとって必要性が明確でない追加アブレーションは行いません。より低侵襲に、合併症が少なく、確実な肺静脈隔離を行うことをめざしています。冷凍凝固アブレーションも積極的に行っています。持続性心房細動は、
オーダーメイドアブレーションを
確実な肺静脈隔離などトリガー期外興奮の除去をまず行います。それに加えて個々の患者さんの心房の障害心筋の分布を"低電位マッピング"という手法を用いて明らかにし、それぞれの患者さんに必要十分な追加アブレーションを行います。不幸にも再発した場合は、"なぜ再発したか"を徹底的に検討して再アブレーションに活かすようにしています。冷凍凝固アブレーション
バルーンで肺静脈を閉塞させて、冷気によって肺静脈隔離を行う手技で、現在阪神南北医療圏では関西労災病院が唯一実施可能な施設となっています。従来の高周波アブレーションと比べて良い点は、心タンポナーデなどの合併症が少ない傾向があること、術者の経験によらず肺静脈隔離が短時間で確実にできること、術中の患者さんの痛みや術後の疲れが少ないことです。悪い点は、一過性横隔神経障害が2%程度に見られること、肺静脈隔離以外の手技が行えないことです。
当院では発作性心房細動には、解剖学的条件さえクリアできれば、原則的に冷凍凝固アブレーションを行うようにしています。
先進的治療機器
超高密度3Dマッピングシステム「リズミア」の導入を日本で最初に行った施設の一つで、心房細動に対する使用実績は世界有数です。これまでの方法では治療できなかった難治性不整脈(複雑な心房頻拍や心室頻拍)の治療も可能となりました。さらに西日本では2台しか稼働していないCARTO UNIVUと呼ばれる3Dマッピングシステムを導入し、アブレーションに伴う放射線被曝を劇的に減らすことに成功しました。2016年度の実績
612症例の患者さんにカテーテルアブレーションを実施し、そのうち74%が心房細動へのアブレーションです。(10月14日、診療内容向上研究会より)
表 1年間の心房細動再発回避率