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学術・研究

医科2018.02.04 講演

日常診療で使える整形知識(6)
JPTEC(外傷初期診療ガイドライン)要点(上)
[臨床医学講座より](2018年2月4日)

静岡県・西伊豆健育会病院 院長  仲田 和正先生講演

(前号からのつづき)
1.救急隊からTEL
 必ず医師が直接対応。
 MIST(Mechanism、Injury site、Sign、Treatment)の聴取。
2.スタッフ召集
 「救急車が来ます」スタッフに救急隊からのMISTを伝達。
 「感染対策。キャップ、ゴーグル、マスク、手袋、ガウン装着してください」
 「ポータブルX線、エコー、蘇生用具一式、39度に加温した乳酸リンゲル用意してください」室温は29度。
3.救急車到着
 医師は必ず救急車まで出迎え。
4.「第一印象」
 15秒でABCDEのどこに異常があるか見つける(図1)。
 患者の脈(C)を取り皮膚の冷汗(C)温度(E)を見ながら「お名前は(D)?」。
 前胸部を開き胸の動きを確認(B)。のどがゴロゴロしてないか(A)。
 「A、B、Cに異常があります」など。
A:Airway、B:Breathing、C:Circulation、D:Dysfunction of CNS、E:Exposure and Environmental control。
 ACLSの時と違いDは除細動や鑑別診断のことではないので注意。

 橈骨動脈触れればBP≧80
 大腿動脈触れればBP≧70
 頸動脈触れればBP≧60
5.Primary Survey
 「酸素10Lリザーバー付きつけて」(COPDであっても酸素10L!)
 「モニター(血圧、EKG、飽和度)つけて」
 「IVライン確保して。同時に採血してね」
 「全脊柱固定を頭からunpackagingします」(カラーははずさない)
・体幹部からベルトをはずすと不穏時、体を動かすと頸椎に大きな力が働くので、unpackagingは必ず頭から行う。
・以下、A、B、Cで異常があれば各時点でその処置を行い先に進まない。途中でバイタルに変化があったら必ずAに戻れ。
A)Airway:吸引、挿管、輪状甲状靱帯穿刺・切開
・口の中がゴロゴロしてないか→吸引!
・気道閉塞気味→気管挿管(男8〜8.5、女7〜7.5㎜)→だめなら14Gで輪状甲状靱帯穿刺してジェット換気で酸素チューブ1秒接続、4秒開放(14Gで1:4!)ただしこの方法はCO2が貯まるので45分間くらいまで→飽和度改善なければ輪状甲状靱帯切開して6㎜気管チューブ挿入(12歳以下は禁)
気管挿管時、Nsに尾方から用手的に頸椎中間位固定させ、もう1名にSellick(輪状軟骨圧迫)をさせて食道からの逆流防ぐ(甲状軟骨は逆U字なので押しても食道を塞げない)。可能ならLast meal(最後の食事時間)を聞く。
B)Breathing:頸部・胸部観察、第2肋間穿刺、chest tube
Nsに頭側から用手的に頸椎中間位固定させカラー前面開いて頸部観察、同時に鎖骨も確認しておく(カラー付けると鎖骨見えなくなる)。頸部観察は閉塞性ショック(心タンポナーデ、緊張性気胸)見つけるに重要。
 「頸静脈怒張なし、補助呼吸筋使用なし、皮下気腫なし、気管偏位なし
・◆頸静脈怒張は心タンポナーデ、緊張性気胸を疑う。気管偏位は緊張性気胸疑う。◆
・頸部見終わったらカラー装着。
 「見て(胸部外表異常なし、胸郭の動き左右差なし)、聞いて(聴診)、感じて(胸壁に皮下気腫なし、肋骨骨折音なし)」
呼吸数は重要(特に30以上)、必ず確認。
緊張性気胸(気管偏位、頸静脈怒張、皮下気腫、片側胸郭挙上)の場合は、X線撮るより前に鎖骨中線(男は乳頭線上)第2肋間でエラスター穿刺して緊急排気の後、第5肋間から28Fr以上のchest tube挿入。胸部外傷の85%は開胸不要。
動揺性胸郭(flail chest)の場合は、挿管の上、陽圧呼吸。
処置を行った場合は、その前後で必ずバイタルを確認。
C)Circulation:「三つの確認、三つの行動」または「SHOCK and FIX-C」と覚える。
  SHOCKすなわちSkin、Heart rate、Outer bleeding、Capillary refilling time、Consciousness、 Ketsuatsuからショックと判断したらFIX C即ちFAST、IV、X-p、Compression(圧迫止血)を行え。

三つの確認:「すき歯から血が出る:スキン、パルス、外出血確認止血」
 スキン(皮膚)の冷汗・湿潤、脈の強弱・速さ、ズボンも脱がして外出血確認、出血あれば圧迫止血。ショックは血圧低下より皮膚冷汗湿潤が先行するので血圧に頼るな。またβブロッカー使用者や高齢者では頻脈にならぬことも。
三つの行動:「ハリーポッターは速い:針(輸液)、ポータブルX線、FAST」
 IVラインとってなければこの時点で両肘に太い針で2本確保小児でラインとれなければ下腿に骨髄輸液。大人は39度の乳酸リンゲル1〜2Lどんと行き輸液に対する反応を見る。Responderかnon-responderか。小児は乳酸リンゲル20mL/㎏→だめなら再度20mL/㎏→だめならMAP10mL/㎏。
 Non-responder(40%以上の出血があることを意味する)は気管挿管する。
 乳酸リンゲルが3LになるまでにMAPを開始する。
 外傷性ショックの90%は出血であり残りに閉塞性ショック(タンポナーデ、緊張性気胸)がある。
 「ポータブルX線で胸部と骨盤とってください。現像できるまでFAST行います」
 FAST(Focused Assessment of Sonography for Trauma)は4箇所確認
 すなわち、上腹部で心嚢水、右側腹部でモリソン窩と右胸水、左側腹部で脾周囲と左胸水、下腹部でダグラス窩の4箇所。異常所見(出血)見たらその都度バイタルを確認すること。
胸部X線で見るのは大量血胸と多発肋骨骨折のみ。骨盤X線で見るのは明らかな骨盤骨折のみ。詳細に見ず一瞬で読影。詳細読影はsecondary surveyで行う。
・心タンポナーデは剣状突起左から針を刺し左烏口突起に向け35度〜40度下方に。できればエコー下に。
・骨盤骨折で恥骨結合の開いたopen book型は、シーツを骨盤周囲に回して左右から2名で締め上げシーツをコッヘルで留める。だめなら創外固定、TAE。
・乳酸リンゲル1〜2Lで回復しない場合をnon-responderと言い気管挿管を行い、腹腔内出血のnon-responderはTAEか緊急開腹(1時間以内!)。
開胸適応は(1)chest tube挿入時出血≧1L、(2)1hで1.5L出血、(3)2〜4hで200mL/h出血、(4)輸血必要な時
D)Dysfunction of CNS:GCS評価、「切迫するDは三つの行動」
 「GCS、E2V4M4、瞳孔4ミリ、4ミリありありです。四肢運動OKです」
・GCS、瞳孔径・対光反射、四肢運動のチェック。GCSは丸暗記のこと。
〈GCS〉
Eye 開眼「眼を開けてください」→「痛み刺激」
 E4:自発的に開眼
 E3:word(言葉)により開眼(3とwと似てる)
 E2:痛みにより開眼(2=痛)
 E1:開眼しない
Vocal 音声言語反応「わかりますか?」→「今日はいつ? ここはどこ? 私は何?」
 V5:見当識あり(time、 place、person)
 V4:混乱(time、 place、 personが)
 V3:不適当な単語(word)のみ(ハイ、ハーイ)(3とwと似てる)
 V2:無意味な声(うー、うーのような唸り声)
 V1:声なし
Motor 最良運動反応「手を握ってください」→痛み刺激
 M6:指示に従う(OKと指で6を作る)
 M5:痛み刺激部位に手を持ってくる(5本指を持ってくる)
 M4:爪を押すと脇をあけて手を引っ込める(形が4に似ている)
 M3:痛み刺激で除皮質肢位(両手背を胸の前で併せ3を作る)除皮質肢位は脇は開かない
 M2:除脳硬直肢位(横からみると腕の形が2に似ている)
 M1:全く動かない(全身の形が1である)
「切迫するD」とは三つの場合:(1)GCS≦8、(2)急速に意識低下(GCS2点以上)(3)ヘルニア徴候(左右瞳孔差、片側麻痺、高血圧と徐脈)
「切迫するD」では三つの行動:(1)挿管、(2)脳外科コール、(3)CT
「切迫するD」がある時はSecondary surveyの最初に脳CTを撮る。Primary surveyの中で撮ってはならない。バイタルを安定させてからCTは死の棺桶である。
E)Exposure and Environ-mental Control:脱衣と体温管理
 完全脱衣し体温測定。体温確認したら毛布で覆い保温に努める。
6.Primary survey(PS)の総括
 「Aに異常があり挿管を行い、緊張性気胸に対しchest tube挿入しました。エコーで腹腔内出血を確認し輸液1Lで反応しました」など。
PSで確認すべき疾患はTAF3XMAPDでほとんどX線とエコーで発見できる。TAF3XMAPDとはTamponade、Airway obstruction、Flail chest、open pneumothoraX、tension pneumothoraX、massive hemothoraX、Massive hemothorax(重複)、Abdominal hemorrhage、Pelvic fracture、切迫するDの9損傷である。このうち出血性ショックはMAPの三つ。
・重要なのは、頭部CTはPSでは行わず安定してからSecondary surveyの最初に行うことである。またバイタルが変化したら必ずAに戻ること。また処置を行う前後に必ずバイタルを確認すること
(次号につづく)

図1 ABCDEのどこに異常があるか見つける
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