医科2018.02.04 講演
日常診療で使える整形知識(8)
整形外科的外傷学総論(上)
[臨床医学講座より](2018年2月4日)
静岡県・西伊豆健育会病院 院長 仲田 和正先生講演
(6月5日号からのつづき)1.救命処置が当然優先。
筋骨の外傷はめったに致命傷にならない。2.外傷があったら骨折があるものとして対処せよ。
鎖骨より上の外傷がある場合、および多発外傷のある場合は頸椎損傷があるものとして対処せよ。直ちに頸椎固定装具を着ける。3.大原則:現場で骨折を見たらそのまま副子を当てて固定せよ
(軟部損傷を避けるため、また閉鎖骨折を開放骨折にしないため)。4.Splinting(副子固定)の方法
(1)Cramer wire splints(梯状副子、ソフラットシーネ)ワイヤでできた小さなハシゴのような副子で表面にスポンジをつけてある。四肢の形にあわせて曲げられる。NATO軍で使用されている。あまりレントゲンの邪魔にもならない。
(2)Inflatable splints
ビニールでできた二重の風船のような構造。前腕、手関節、足関節などの固定には良いが、大腿骨骨折は固定できないことが多い。服の上からつけると服のしわの部分が高圧になり水疱ができたりする。またふくらまし過ぎると循環障害を起こす。
(3)SAM(structural aluminum malleable)splints(アルフェンスシーネ)
米軍で使われている。アルミをビニールでカバーしたもの。携帯に便利でレントゲンの邪魔にもならない。
(4)ギプスシーネ
プラスチックギプスをフェルトに包んだものがあり、これを適当な長さに切って水に濡らし、タオルで水を吸い取り、四肢に当て包帯で巻く。簡単で四肢によくフィットする。
(5)Vacuum splints(マジックギプス)
密封した袋の中に無数のビーズと空気が入っており、四肢の下に置いて吸引ポンプで真空にすると四肢の形に従って固くなり固定される。ポンプを持ち運ぶのが面倒。
(6)Thomas splints(図1)
下肢の骨折に有用。第一次大戦から使用され大腿骨骨折による死亡を80%から20%に激減させたすぐれもの。第二次大戦でも英軍により使用され、現在も米国で使われている。
5.血管(脈を触れるか、皮膚の色は良いか)と神経(指は動くか、感覚はあるか)の損傷の有無を確認せよ。
→PMS(pulse、motor、sensory:脈、運動、知覚)!6.明らかな骨折以外に他の外傷はないか確認せよ。
特に手足の骨折を見逃しやすい。下肢の大きな骨折がある時は骨盤外傷の存在も疑え。踵骨骨折がある時は必ず脊椎圧迫骨折の有無を確認せよ。歩行者が車にはねられるとまずバンパーにより下肢の骨折(下腿骨または大腿骨)が起こり次にボンネットで胸部外傷、最後に道路に転んで頭部外傷を起こす(Waddleの三徴)(図2)。だから二つあったらもう一つあると思え。
7.四肢を動かしてコツッという骨折部の音を感じた場合、決して執念深くその音を再現しようとしてはならない。
(骨折はレントゲンをとれば簡単に分かるのだから)とりあえず骨折があるものと考え固定せよ。また受傷部を不必要にいじらない。8.骨折の症状は変形、短縮、腫脹であるが、患者は使おうとしない。
触診すると必ず骨折部に一致して圧痛がある。変形、短縮を見つけるのに一番良い方法は左右を比較することである。また骨折があっても必ず変形や機能障害があるとは限らない。骨折があってもある程度手足は使えることも多い。9.グラグラした不安定な長管骨の骨折で副子に乗せる場合、重要なのは必ず両手で骨折部の上下に牽引をかけつつ行うことである(これは整復という意味ではない)。
骨折は原則として牽引することは怖くない。牽引せずに不用意に四肢を動かすと血管、神経損傷を起こし危険である。皮下でひどく骨が曲がっている時はゆっくりと長軸方向に引っ張りまっすぐにしてから固定する。1人が両手で骨折の上下を牽引しつつもう1人が副子に固定する。また1人でやらないこと(図3)。10.ただし、これには例外がある。
肘周囲および膝周囲の骨折の場合、不用意に牽引すると血管損傷を起こすことがある。また開放性骨折で牽引すると体外に出た骨片が体内に入り感染の原因となる。開放性骨折では創をガーゼで覆った後、副子を当てる。すなわち、肘、膝周囲の骨折と開放性骨折ではそのままの形で固定するがその他の長管骨骨折は必ず上下に牽引をかけつつ副子を当てる。また骨折に副子を当てる場合、原則として上下の関節も含める(二関節固定!)。短すぎる副子は意味がない。
(次号につづく)
図1 Thomas splints
図2 Waddleの三徴
図3 牽引しながら副子に固定する
図2 Waddleの三徴
図3 牽引しながら副子に固定する