医科2018.02.04 講演
日常診療で使える整形知識(9)
整形外科的外傷学総論(下)
[臨床医学講座より](2018年2月4日)
静岡県・西伊豆健育会病院 院長 仲田 和正先生講演
(前号からのつづき)11.上肢の骨折の固定には副子の上、三角巾(sling)をすれば良い。
三角巾の上から体幹を含めてバストバンドなどで固定するのも固定性が良い(sling&swathe)(図1)。
12.ギプスを病院で巻かれたあと腫脹しひどく痛がる場合、循環障害を起こしている。必ずただちに病院を再診させギプスに割を入れよ。この場合、必ずギプスの下巻きも切れ。
13.レントゲンは最低2方向撮れ。1方向では骨折を見逃すことも多い。
14.骨折の整復はできるだけ早期に行え。腫脹が治まるまで待つな。
15.直達牽引(骨に鋼線を通し直接骨を牽引する)を行う場合は頻回に観察せよ。
16.入院し骨折の治療が始まったら直ちにその他の四肢の運動を始めよ。
17.上肢の骨折の治療目標は手の機能の温存である。多少の変形や短縮は構わない。
下肢の骨折の治療目標は無痛で安定した荷重ができることである。変形を避け長さを保て。
18.可能なら最初にレントゲン室に行くとき必要なレントゲンはすべて撮れ。さもないと病室とレントゲン室の往復を繰り返すことになる。
19.激痛の持続は血管障害があることが多いので要注意である。
20.開放創を縫合できるのは受傷後6〜8時間(golden time)以内である。
これを過ぎると細菌の増殖が始まり直ちに縫合できない。湿性ガーゼなどを置き経過を見て数日後に縫合する。従って開放創は翌日まで待たず6〜8時間以内に病院を受診させよ。
同じ理由で常温で6〜8時間以上置いた刺し身も食ってはいけない。
21.切断指の運搬はまず指をハンカチなどで包みビニール袋に密閉し、次にもう一つビニール袋を用意してこの中には水と氷をいれる。前者の袋を後者の袋に入れて運搬する。指を直接氷水に漬けないこと。指を凍らせてはいけない(細胞が破壊される)。
22.老人に多い四つの骨折
(1)橈骨遠位端骨折 (2)上腕骨外科頸骨折 (3)脊椎圧迫骨折 (4)大腿骨頸部骨折
23.12歳以下に脱臼なし
先天性股関節脱臼を除き小児では外傷性の脱臼は起こらない。例えば肩に強い力が働いても小児では脱臼は起こらず上腕骨や鎖骨の骨折が起こる。幼児で「肩が抜けた」と外来に来る場合、実は肘内障のことが多い。
24.四肢外傷、骨折の見つけ方
意識があればどこが痛いか聞く。骨折があればその部位は痛いものだ。次に上肢、下肢を自分で動かせるか確認(脊髄損傷の確認)。四肢の変形、痛みがあったら副子で固定。変形は左右を比較すると良い。はっきりした四肢の変形や痛みがなければ、手早く、頭、胸、腹、上肢、下肢を触診し関節を動かしてみる。これで痛みがなければ大した骨折などはない。胸を前後、左右から両手で軽く挟むようにして圧迫してみる。肋骨骨折などあれば必ず痛い。次に患者を横にして後頭部、脊椎を触診していく(ただし脊髄損傷を疑ったときはやめよ)。軽く脊椎を叩いてみる。脊椎の圧迫骨折などがあれば必ず痛い。
25.聴取して以下の場合、軽症に見えても重症外傷のあるものとして対処せよ。
1.車外に放り出された
2.車からの救出に20分以上かかった
3.ハンドルが変形している
4.同乗者が死亡した
5.車の横転
6.時速60㎞以上の事故
7.30㎞以上の速度変化
8.50㎝以上の車の変形
9.25㎝以上の横のドアの変形
10.時速8㎞以上の車にはねられた
11.時速30㎞以上のバイクから人が離れた
12.6m以上の墜落
26.骨折の科学(図2)
(1)骨に横から物体が衝突した場合、横骨折が起こる。力が強ければ粉砕骨折になる。
(2)骨を折るような力がかかった時、骨に引っ張り力がかかる側は横骨折が起こり、圧迫力がかかる側は斜めに折れる(斜骨折)か、粉砕し骨の破片(第3骨片)ができることもある。
(3)ひねりがかかった時、らせん骨折になる。
(4)骨に長軸方向の圧迫力がかかった時、45度斜めに折れやすい(斜骨折)。
(つづく)
図1 上肢の骨折の固定
図2 骨折の種類
図2 骨折の種類