医科2018.02.04 講演
日常診療で使える整形知識(15)
整形外科的外傷学各論(6)
[臨床医学講座より](2018年2月4日)
静岡県・西伊豆健育会病院 院長 仲田 和正先生講演
(前号からのつづき)急性腰痛、腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアの90%はL4/5、L5/S1の二つの椎間板で起こる。図1から分かるように、L4/L5のヘルニアの場合、L5またはS1の神経根が障害される。L5/S1のヘルニアではS1神経根が障害される。ヘルニアを疑った時はL4、L5、S1の神経症状を反射、知覚、筋力の3点から確認すれば良い(図2)。調べるべき反射は二つ、膝蓋腱反射(PTR)とアキレス腱反射(ATR)である。膝蓋腱反射はL4を見ている(大腿四頭筋だからL4と覚える)。
アキレス腱反射はS1を見ている(Achillesの1番のウィークポイントと覚える)。L5を見る反射はない。知覚は脛骨稜の内側がL4、外側がL5である。特に、母趾と第2趾の間はL5の固有領域である。足底はS1である。特に外果の下方はS1の固有領域である。
筋力は足関節の内反がL4、足趾背屈がL5、足関節外反、底屈および足趾底屈がS1である。SLR(straight leg raising)はヘルニアに特徴的なサインであるが70度以上の挙上では健常人でも膝窩部のつっぱりを訴える。
急性腰痛の治療
普通、急性腰痛は1週間で50%が軽快し、2週間で90%が軽快する。坐骨神経痛のある場合は1カ月で50%が軽快すると言われる。2日ほどのベット安静でほとんどの急性腰痛は軽快する。痛みが軽快したらできるだけ早期に離床を勧める。4日以上のベッド安静はやめた方が良い。消炎鎮痛剤も有効である。
姿勢指導(図3)
腰椎には生理的な前弯(lordosis)があり、これは仰向けに寝たとき腰に手が入ることからも分かる。このlordosisを増強するような姿勢は良くない。
例えば、マットレスに寝ると臀部が沈みlordosisが増強し腰痛の原因になる。急性腰痛の場合、仰向けに寝るときは膝を曲げるか下腿を挙上するとlordosisが減少して良い。猫のように丸くなって寝るのも同様の理由でよい。長時間立位で作業をする人は片足を台の上に置くとlordosisが減少するのでよい。長時間立位でいると腹を前へ突き出して背中を強くそらせるように立っていることが多いが腹を前へ出さぬようにする。肥満者は腹が出てlordosisが増強し腰痛の原因となるので肥満者には減量を勧める。
座位の姿勢は膝が股関節より高くなるようにする。低いとlordosisが増強する。ただしこれは作業姿勢としては適さない。また、膝を組むのも良い。重量物を挙上する時は膝を伸ばし前屈した姿勢で行うと椎間板に大きな負担がかかるので必ずしゃがんで膝を曲げ、体を物に近づけてから持ち上げる。仕事中腰がだるく痛くなった時は丸くしゃがみ込み力を抜いて背筋をストレッチすると良い。
腰痛体操(図3)
急性腰痛の場合、体操でかえって悪化することがあり腰痛体操は禁忌である。急性期を過ぎて数日してから始める。腰痛体操はいろいろあるが煎じ詰めると四つの動作である。
最近米国ではこのような体操よりジョギングや水泳のような全身運動が勧められている。ただし水泳では平泳ぎやバタフライはlordosisを増強するので避けた方が良い。
鎖骨骨折
肩を強く打撲して起こることが多い。骨折部には必ず圧痛(押さえると痛む)がある。鎖骨の中3分の1で折れることが多い。折れると近位側は上に転位し(胸鎖乳突筋で引かれる)遠位は下に転位する(上肢の重みで下に下がる)(図4)。
治療:胸を張った格好で鎖骨は良い位置に整復されるため、たすきをかけると良い。クラビクラバンドは鎖骨骨折専用に作られた装具。急性期はクラビクラバンド(たすき)をした上、患側は三角巾をすると痛みが楽である。
肩関節脱臼
肩を内旋したまま外転(手の甲を前に向けたまま肩を外側に挙げていく)すると90度以上挙げることはできない。これは上腕骨の大結節が肩甲骨の肩峰に衝突するためである。ここで肩を外旋すると(手の平を上に向けると)180度まで外転できる。肩を内旋したまま外転を強制されると肩の前方脱臼が起こる。一回脱臼が起こると肩を外転外旋(バレーボールのサーブの動作)するだけで習慣性に脱臼することがある。肩の前方脱臼が起こると肩の丸みがなくなり肩峰が飛び出す(肩章サイン)(図5)。特に若人は脱臼したら整復後3週間は固定しておかないと習慣性になってしまう。習慣性脱臼は手術することもある。
整復法
Stimson法:高いベッドにうつ伏せに寝かせベッド端から上腕を下へ垂らす。手に数キロの錘をくくりつけ(手に握らせると筋肉に力が入るのでだめ)雑談をして本人がリラックスするのを5〜10分間待つ。それで整復されなければ脇の下に両手を入れ外側へゆっくり引っ張る。
Rockwood法:ベッドに仰向けにし腋の下にバスタオルを通し反対側へ助手が牽引をする。術者は手首をつかみ下方へ引っぱる。
Hippocrates法:足を腋の下に入れ母趾で骨頭を押しつつ手を遠位へ引っ張る。
肩鎖関節脱臼
鎖骨の外側と肩峰の間にある肩鎖関節が脱臼するもの。完全脱臼するとピアノキーサインと言って鎖骨外側を指で下へ押すとピアノキーのように下がる(図6)。完全脱臼では手術が行われる。とりあえず病院まで三角巾をさせる。(つづく)