医科2018.02.04 講演
日常診療で使える整形知識(17)
整形外科的外傷学各論(8)
[臨床医学講座より](2018年2月4日)
静岡県・西伊豆健育会病院 院長 仲田 和正先生講演
(前号からのつづき)銃創
弾丸の速度拳銃とライフルでは同じ銃創といっても威力は全く違う(図1)。弾丸のエネルギーは1/2・m・v2。m:質量、v:速度なので速度に大きく依存する。秒速300m以下の弾丸を low velosity(速度) missileと言い、これには一般の拳銃(hand gun)が相当する(25口径オートマチック:240m/s、32コルト:200m/s、357マグナム:450m/s、45オートマチック:250m/s)。オートマチックとはリボルバー式でなく引き金を引くと弾倉から自動的に弾が装填されるもの。米国では拳銃による四肢の外傷は外来治療が主である。
秒速300m以上の弾丸をhigh velocity missileと言いライフルや軍事用の武器が相当し秒速600mから1000mになる(222レミントン:960m/s、270ウィンチェスター:1050m/s、軍用U.S.M-16:960m/s)。ライフルは銃身の中に銃弾を回転させるための溝(旋条)が刻まれている。銃弾の速度が15m/s以上あれば皮膚を容易に破る。120m/s以上あれば体内どこでも入る。
米国で一番多いのは32から38口径の中口径による銃創で、それについで45口径の大口径、ついで小口径の順でありhigh velosity missileによるものは少ない。
ショットガン(散弾銃)は至近距離で用いるlow velosity missileであるが銃弾の質量が大きいため威力が大きくhigh velosity missileと同様の銃創と考えられる。射入口、射出口ともに非常に大きくなり創内には銃弾、着衣片、皮膚、毛などが押し込まれ大変な汚染創になる。
弾道学 ballistics
銃による外傷は三つの因子が重要である。すなわち、crush(破砕)、 shock wave(衝撃波)、cavitation(空洞形成)の三つである。
つまり弾が体に当たるとまずそこで皮膚が裂け(crush)、体内に入ると特にhigh velosity missileの場合、衝撃波により遠隔の軟部組織の破壊を起こし、また弾道に沿って空洞(cavitation)ができる。この空洞は弾丸の直径と同じ径の永続的空洞(permanent cavity)の他に一時的な空洞(temporary cavity)が形成される(図2)。これは弾丸の通過途中に、周囲の組織が圧迫により破壊され、元に戻るためである。弾丸の速度が速いほどこの一時的空洞(temporary cavity)は大きくなる。弾丸は速くなるほど(特に900m/s以上)飛行中不安定になり振動(yaw)したり前後に回転(tumble)したりする。このため余計に永続的空洞は大きくなる(図3)。
また空洞は陰圧になるので体外の細菌が入り込む。また銃弾による熱だけでは細菌は死滅しない。弾道は汚染されたものと考える。
弾丸の性質
弾丸は鉛合金でできているが、威力を増すために表面にさまざまな加工がされており、non jacketed、jacketed、semijacketed、hollow point、fluid-filledなどがある。国松警視庁長官の狙撃に使われたのはhollow point であった。hollow pointとsemijacketedは人体に当たると弾の先端が割れて直径が増し威力を増すようになっている。soft point bulletは当たった瞬間に先端の直径が増し永続的空洞が200%から250%になり、また射出口は非常に大きくなる。soft tipは体内でバラバラになり破片それぞれが射出口を持つ。
銃創の種類
貫通銃創:弾丸が体内を貫いて体外に出たもの
盲管銃創:弾丸が体内にとどまっているもの
擦過銃創:弾丸がかすって体表にできた表皮剥脱、または溝状の銃創
反跳銃創:速度の衰えた弾丸が皮膚に当たっただけで体内に入らず跳ね返ったもの。皮膚に損傷がなくても深部に損傷を起こすことがある
回旋銃創:頭部に入った弾丸が頭蓋骨の中で一周し射入部近くで射出するもの
跳弾銃創:弾丸が地面や壁に当たり跳ね返ってから身体に当たるもの
遠射では射入口の大きさは弾丸の大きさより少し小さい。弾丸が体表に垂直に当たれば円形、斜めに当たると楕円形の射入口となる。近射では星状になる。射出口は一般に射入口より大きい。ただし接射の場合、射出口は射入口より小さいことが多い。
銃創を見た時の質問、確認事項
質問事項:1.火器の種類 2.弾丸の種類 3.発射距離
確認事項:1.射入口に火薬が付着してないか(至近距離(拳銃で1m以内)で撃たれると火薬が付着する)。2.射入口と射出口の確認
爆創
爆発(ガス、爆弾)は爆発物が高速で気化し球状の衝撃波として広がる。爆創には4種類のメカニズムがある。1.primary blast injury(一次爆傷):衝撃波によるもの
2.secondary blast injury(二次爆傷):飛んできたガラスや木片、石によるもの
3.tertiary blast injury(三次爆傷):壁などに叩きつけられて起こる
4.その他:熱傷、ガス中毒
Primary Blast Injury:一次爆傷
爆発物の周囲に壁などがあると衝撃波が反射し圧は何倍にもなり重傷となる(図4)。また水中爆発だと圧は高速で伝わり重傷となる。一次爆傷は気体を含む臓器(耳、肺、大腸)にほとんど限られる。爆発で鼓膜はもっとも破れやすい。鼓膜が破れているかどうかは、(患者は耳鳴り、耳の痛み、聴力低下、耳出血などを訴える)爆発の有無の重要な指標である。
肺や大腸の損傷を起こす位の爆発はほとんど必ず鼓膜の穿孔を起こす。
爆発の後、耳の症状を見たら必ず肺の損傷を疑い酸素を投与せよ! 咽頭の点状出血も爆発に特徴的である。
肺は衝撃波で胸壁が押されて損傷される。肋骨骨折や胸壁の外傷がなくても肺挫傷、気胸、肺水腫などを起こす。気胸があるとき酸素を加圧すると気胸は悪化するので加圧しないこと。また急速な輸液で肺水腫は悪化するので注意。肺胞が破れ空気が血中に入り動脈塞栓を起こし、心筋梗塞や脳梗塞を起こすこともある。眼底鏡で血管内の塞栓がわかることもある。
動脈塞栓の場合、高圧タンク室のある病院が必要になる。primary blast injuryは体表の外傷が全くないことも多く容易に見逃される。疑わなければ見つからない。まず耳を見よ!(つづく)
図1 弾丸にもいろいろな種類がある
図2 弾道に沿って空洞ができる
図3 弾丸の振動や回転により空洞が大きくなる
図4 爆発時に周囲に壁などがあると重症になる
図2 弾道に沿って空洞ができる
図3 弾丸の振動や回転により空洞が大きくなる
図4 爆発時に周囲に壁などがあると重症になる