医科2018.05.26 講演
[保険診療のてびき]
呼吸器疾患の漢方治療(2018年5月26日)
山口県下関市・りゅう呼吸器科内科 院長 劉 震永先生講演
肺の生理機能
(1)宣発と粛降;呼気・発汗は宣発、吸気・水液下降は粛降、いずれが失調しても、肺気の昇降が妨げられる。「宣降失調」が肺の基本病理である。(2)肺の特徴;肺は嬌臓で、湿と燥を嫌い、潤を好む。熱と寒を嫌い、適温を好む。従って、肺の病変の治療原則は、大まかに、燥湿と寒熱の是正にある。
急性気管支炎(咳嗽)の治療方剤
麦門冬湯 ;乾性の咳・燥・滋陰滋陰降火湯;夜間の乾咳・燥・滋陰
滋陰至宝湯;乾咳神経質・燥・滋潤解欝
半夏厚朴湯;えへん虫・湿・解欝除痰
清肺湯 ;黄色粘痰・熱・滋潤清熱
麻杏甘石湯;喘鳴黄色痰・熱・清熱
五虎湯 ;胸痛黄色痰・熱・清熱
柴陥湯 ;胸痛黄色痰食不・熱・清熱和解
竹茹温胆湯;微熱夜間咳嗽・熱・清熱和解
小青竜湯 ;水様痰・寒湿・温肺除痰
苓甘姜味辛夏仁湯;陽虚水様痰・寒湿・降肺理気除痰
(1)肺陰虚の咳
燥熱の邪や内熱虚火が肺の陰津を焼灼し肺系統が濡潤されなくなった。
肺胃陰虚;麦門冬湯
肺腎陰虚;滋陰降火湯
肺肝陰虚;滋陰至宝湯
(2)麦門冬湯で咳が治らなかった場合
炎症所見に乏しい(WBC、CRPが正常)
乾燥が強い→滋陰降火湯
乾燥とストレス→滋陰至宝湯
えへん虫痰が詰まった感じ→半夏厚朴湯
細菌感染が疑われる(WBC、CRPが上昇)
黄色粘痰→清肺湯
咳嗽時胸痛 胸脇苦満あり→柴陥湯
胸脇苦満なし→五虎湯
夜間の咳嗽・微熱・胸脇苦満→竹茹温胆湯
気管支喘息の漢方治療
(1)気管支喘息の発生機序喘息の発生は、肺あるいは他の臓腑に伏している痰が、
ⅰ)外邪の侵襲(環境の変化や感染症;肺)
ⅱ)飲食不当(脾)
ⅲ)情志刺激(ストレス;肝)
ⅳ)老化(腎)
ⅴ)体虚労倦(脾・肝・腎)
などの外因・内因で触発引導され、気道を痰壅し、肺気が宣降失調を起こし、主として肺気が下降しないことによる。
(2)気管支喘息の発現様式
肺寒喘息(水分内停) 小青竜湯
ⅰ)風寒の邪
ⅱ)水分過剰体質
ⅲ)陽気不足(冷え性);脾虚、腎虚
肺熱喘息(水分熱灼) 麻杏甘石湯
ⅰ)温熱風燥の邪
ⅱ)寒邪内鬱加熱
ⅲ)五志欝結(ストレス)
(3)標治と本治
標治;急性期・発作期(現症状に対する治療)「急なれば即ち標を治す」e.g.小青竜湯・麻杏甘石湯
本治;慢性期・寛解期(病変の本質に対する治療)
「五臓六腑皆人をして咳せしむ独り肺のみに非ず」
「病を治すには必ず本を求む」
(4)肺と他臓腑との関係
肺と脾;脾が虚して気虚となれば、肺気も衰える。脾の水湿痰飲は、肺に上行して咳嗽・喀痰・呼吸困難を引き起こす。
肺と肝;肺気は粛降し、肝気は昇発し、平時は均衡している。肝気の昇発が大過すれば、肝火犯肺(木火刑金)により、肺気の粛降が妨げられ、咳嗽・喀痰・呼吸困難・喘鳴などを生じる。
肺と腎;肺は呼吸を主り、腎は納気を主り、吸気は腎気の摂納の助けを必要とする。腎虚になると、吸気性の呼吸困難が現れる。
肺と大腸;肺気の粛降は大腸の伝導を助け、大腸が通暢しておれば肺気はのびやかに粛降する。大便秘結は肺気の粛降を阻害して上逆させるので、咳嗽呼吸困難を引き起こしやすい。
(5)肺の痰飲の生成
寒痰・湿痰;風寒の侵襲・脾陽虚・腎陽虚などにより、水液が肺に凝滞する。薄い多量の痰。
小青竜湯・六君子湯・人参湯・真武湯
熱痰;風熱犯肺・肝火犯肺などにより、肺の津液が煎熬され凝聚して痰となる。黄色粘稠痰。
麻杏甘石湯・清肺湯・柴胡剤
燥痰;温燥の外邪・肺胃腎肝陰虚などにより肺の津液が枯燥して粘痰を生じる。無痰・あるいは少量粘痰。
麦門冬湯・滋陰降火湯・滋陰至宝湯
(6)ストレス喘息
ストレス→肝気鬱結→疏泄不利
ⅰ)気管支壁が緊張する。
ⅱ)少陽三焦の気機(気・津液の流れ)が滞り、肺に痰飲が及ぶ。;柴朴湯
ストレス→肝気鬱結→肝鬱化火
ⅲ)肺気の粛降を抑制する。;四逆散、竜胆潟肝湯
ストレス→脾虚→痰飲生成
ⅳ)肺気の粛降を抑制する。;六君子湯
まとめ
(1)肺は、寒熱燥湿を嫌い、肺の病変の治療は、寒熱燥湿の是正にある。寒熱燥湿は、単独に、あるいは錯雑に病状を複雑にする。(2)素問欬(亥+欠)論編の「五臓六腑皆人をして咳せしむ独り肺のみにあらざるなり」とあるがごとく、肺病変の治療に当たっては、標治と本治を常に考える必要がある。
(3)そのためには、八綱・気血水・経絡・臓腑・六経・衛気営血などのあらゆる弁証法を駆使して治療しなければならない。
(5月26日、西宮・芦屋支部研究会より)