兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2018.10.20 講演

[保険診療のてびき]
みんなでできる糖尿病性腎症重症化予防 (2018年10月20日)

奈良県立医科大学 地域医療学講座教授  赤井 靖宏先生講演

糖尿病の重症化を防ぐには
 わが国の糖尿病患者数はこの50年で約50倍に増加したと推定されています。2016年の国民健康・栄養調査の結果では、「糖尿病が強く疑われる者」はとうとう1,000万人を超えたと推計されました。
 そのような中、「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」が開始されました。本プログラムは糖尿病性腎症を予防して透析患者を減少させることが大きな目的ですが、糖尿病患者さんが重症化しないようにするためには、腎症だけでなく、心筋梗塞や脳卒中などの心血管病も減少させる取り組みを進める必要があります。
 糖尿病性腎症による尿たんぱくで専門医を紹介されると、その時点ではすでに腎組織に強い障害が起こっています。早期の腎障害を発見するという意味では、重症化予防はかかりつけ医が担っていると思われます。
 糖尿病の一次予防は、糖尿病の発症予防です。適度な食事と運動は糖尿病の新規発症を約40%低下させます。肥満は、糖尿病発症の重大な危険因子であり、若いころからの肥満予防が重要です。運動習慣は、1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続していることと定義されますが、運動習慣がある成人は20~30%と報告されています。
 糖尿病の二次予防は、糖尿病を発症しても合併症を起こさないように「糖尿病でも健康長寿」を達成することです。例えば、2型糖尿病では、発症1年以内にHbA1cを6.5%未満にすると予後が改善するようです。
 糖尿病というと、血糖コントロールばかりに重点が置かれがちですが、実は糖尿病患者さんの生命予後に最も関与する生活習慣は「喫煙」です。喫煙はわずかの本数でも心血管病のリスクを上昇させますので、厳格な禁煙を指導する必要があります。
 糖尿病患者さんの生命予後を改善するために、血糖コントロールは重要ですが、それ以外に、血圧、脂質の管理が重要です。また、運動しないと糖尿病患者さんの生命予後が悪化することも報告されています。
糖尿病性腎臓病(DKD)
 糖尿病性腎症の早期には尿にごく少量のたんぱく質が漏れ出てきます。これが「微量アルブミン尿」です。微量アルブミン尿は、腎障害を表すのみならず、糖尿病が悪化して重大な局面を迎えていることを示すマーカーです。つまり、微量アルブミン尿を呈するようになった場合には、より厳格かつ包括的な治療(禁煙、血圧・脂質・血糖管理など)を始めることが重要です(図)。
 糖尿病性腎症は、糸球体過濾過(GFR高値)→微量アルブミン尿→顕性たんぱく尿→腎不全のように障害が進行すると考えられてきました。しかし、最近はアルブミン尿なしに腎機能のみ低下する症例が増加していることが報告されています。つまり、従来のような糖尿病性腎症の定義を満たさない腎障害が糖尿病患者さんに存在するようなのです。
 そこで従来の糖尿病性腎症を含み、それに合わない腎障害患者さんも包含する、「糖尿病性腎臓病(Diabetic Kidney Disease, DKD)」という概念が提唱されています。DKDが日本にどれくらいいるのか、治療はどのようにすればいいのか、など、DKDについてはまだまだ不明な点が多いのですが、糖尿病患者さんの腎障害に「DKD」という概念ができていることは知っていただきたいと思います。
糖尿病性腎症の予防法
 糖尿病から腎臓が悪くならないようにするにはどうしたら良いでしょうか。糖尿病性腎症の予防には、糖尿病発症早期の血糖コントロールが最も重要です。糖尿病発症早期にHbA1cを6.5%未満にすることが推奨されます。また、血圧コントロールも腎症発症予防に重要です。
 いったん糖尿病性腎症が発症したら、その進展を抑制することが重要です。このためには、腎糸球体で惹起されている「過濾過」を抑制することが重要です。過濾過の抑制には、肥満の是正、レニン・アンジオテンシン系阻害薬やSGLT2阻害薬が有用と考えられています。
 腎症がすでに発症したこの時期には、厳格な血糖コントロールよりも、低血糖を起こさない血糖コントロールが重要と考えられています。低血糖は軽症であってもその後の生命予後に関与すると考えられています。
合併症予防のためのプログラム
 糖尿病による重大な合併症には、糖尿病性腎症などの細小血管症と心筋梗塞や脳卒中などの大血管障害があります。糖尿病患者さんがこれらの合併症にならないように前述の「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」が策定されました。この基本プログラムを各地域の事情に応じて運用するために、都道府県や市町村は糖尿病性腎症重症化予防プランを立てることが求められています。
 重症化予防では、糖尿病なのにいまだ医療機関を受診していない、あるいは受診を中断している方を受診に繋げること、医療機関に通院しているが管理がうまくいっていない方を主治医の許可を得て保健指導することなどが行われます。
 糖尿病は食事や運動など、地域の事情が密接に関与する疾患です。地域に応じた重症化予防を達成するためには、かかりつけ医の先生を中心にリスク管理を行うとともに、専門医との連携などを適切に行うための体制構築が必要です。
 かかりつけ医と専門医の連携においては併診(二人主治医制)が勧められます。併診することによって、かかりつけ医と専門医のそれぞれが標準的な医療を意識し、患者さんにも安心感を持って診療を受けていただくことができます。
 かかりつけの先生方は、ハイリスクの糖尿病患者さんを同定し、血圧、LDLコレステロール、血糖を目標範囲内にコントロールし、禁煙と適度な運動を指導いただいて、糖尿病管理の合言葉である「糖尿病でも健康長寿」をより多くの患者さんで実現いただきたいと思います。「糖尿病重症化予防の主役はかかりつけ医!」どうかよろしくお願いいたします。
(2018年10月20日、第39回神戸支部総会より 小見出しは編集部)
図 糖尿病でコントロールすべき5つの危険因子
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