医科2019.02.07 講演
臨床医学講座より
臨床推論(下)腹痛患者・めまい患者への問診と診察実演(2019年2月7日)
諏訪中央病院 総合内科 山中 克郎先生講演
(前号からのつづき)腹痛患者
年齢によって急性腹症は頻度が異なります。50歳以下なら虫垂炎、50歳以上ならば腸閉塞、胆嚢炎、虫垂炎を第一に考えます。【急性虫垂炎】
1)急性虫垂炎の典型的な症状経過を知る
(1)心窩部または臍周囲の痛み(間欠痛)、(2)嘔気/嘔吐または食欲低下、(3)右下腹部へ痛みが移動(持続痛)、(4)振動で右下腹部が響く、(5)発熱、が一般的な症状の進行です。しかし、非典型例もたくさんあります。
2)痛みの原因となっている層を明らかに
皮膚 ピリピリする、皮疹(数日後に出現することもあります)
筋骨格/前皮神経 体動時に痛みがひどくなる、Carnett's sign(+)
*Carnett's sign:両手を胸の前で組み、臍を見るように頭部を前屈させ腹直筋を緊張させる。この状態で疼痛部位を押し、痛みの軽減がなければ陽性
腹膜 筋性防御(+)tapping pain(+)
腹を緊張させるために足を伸ばして診察
*体性痛のない絞扼性イレウスを見逃さない
内臓 交感神経の緊張から嘔気、嘔吐、冷汗、徐脈を引き起こします(表1)
後腹膜臓器 背部痛を伴うことがあります
3)診察で虫垂炎の位置を明らかに
(1)McBurney点(臍と右上前腸骨棘とを結ぶ線を3等分した外側3分の1の点)の圧痛(LR3.4)
(2)Rovsing徴候(左下腹部を押すと右下腹部の痛みが増強)(LR2.3)
(3)腸腰筋兆候(LR2.0)
右大腿の伸展で右下腹部痛
→腸腰筋付近の炎症
(4)Obturator sign(閉鎖筋徴候)
→右股関節を内転して疼痛
4)MANTRELS score(Alvarado score)
症状と検査データを組み合わせたMANTRELS score(Alvarado score)という方法もある。10点満点で、4点以下では虫垂炎は否定的。7点以上の場合LRは3.1である(表2)。
5)アッペもどきではないのか?
(1)カンピロバクター(エルシニア、サルモネラ)感染症
回腸末端炎を起こします。
(2)憩室炎(表3)
(3)ACNES (anterior cutaneous nerve entrapment syndrome)前皮神経絞扼症候群
Carnett's sign(+)
疼痛部位の触覚/温痛覚低下(+)
めまい患者
【アプローチ】(1)心血管系疾患のリスクはあるか
高齢、男性、高血圧、喫煙、糖尿病、脂質異常症
「50歳以上」「脳卒中危険因子あり」「頭痛あり」
→小脳失調症状がなくても小脳梗塞を考えます
(2)全く歩けなかったのか
(3)後方循環障害の症状
めまい、失調、複視、構音障害、交叉性感覚障害、同名半盲
(4)眼振(表4)
(5)典型的な良性発作性頭位めまい(BPPV)の症状か
・体位を変えたときの誘発(臥位になる時、立ち上がり、前かがみ)
・耳鳴なし、難聴なし
・発作時間〈1分
・同じめまい頭位をとれば、めまいは弱まるか
・繰り返し起こり、発作間は無症状
(6)めまいの持続時間(表5、図1〜3)
BPPV:後半規管型(80〜90%)、外側半規管型(5〜10%)
→まずDix-Hallpike試験を行い、陰性または非典型的眼振ならSpine roll試験を試してみます。
外側半規管型BPPVでの眼振:右下頭位と左下頭位で方向が逆転する水平性(Spine roll試験、Lempert法)
(2月17日、臨床医学講座より)