医科2019.05.16 講演
[保険診療のてびき]
日常診療でよく遭遇する脊椎疾患 (2019年5月16日)
県立淡路医療センター整形外科医長 寺嶋 良樹先生講演
はじめに
腰痛をはじめとする脊椎由来の疾患は多くの人が一生のうちに経験すると言われています。腰痛患者の約85%は病態が特定しきれない非特異的腰痛とされていますが、病態が特定される腰痛に関しては椎間板・椎体・椎間関節・神経・筋肉由来の痛みに大別されます。腰椎椎間板ヘルニアと腰椎分離症の治療法
若年者でよく遭遇する疾患としては腰椎椎間板ヘルニアと腰椎分離症が挙げられます。腰椎椎間板ヘルニアに関しては基本的には投薬、ブロック注射などの保存的加療で改善されますが、筋力低下、膀胱直腸障害や遷延する下肢痛を認める症例では手術加療が適応となり、最近では内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術(MED)や経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術(PED)などの低侵襲治療が普及してきています。腰椎分離症に関しては腰椎関節突起間部の疲労骨折が原因と考えられており、発症時期は中高生が約90%と多いのが特徴です。高校生以下で2週間以上続く腰痛では分離症の可能性があります。早期発見、早期治療が非常に重要なため、レントゲンだけでなく、MRIやCTによる精査も必要と考えます。早期発見できれば硬性コルセットによる骨癒合が期待できますが、残念ながら進行してしまった分離症に関しては疼痛管理が主体となります。
頸椎症性脊髄症と腰部脊柱管狭窄症の治療法
高齢者の脊椎疾患でよく遭遇する疾患としては頸椎症性脊髄症、腰部脊柱管狭窄症や脆弱性椎体骨折などが挙げられます。頸椎症性脊髄症は加齢性変化で骨棘形成、椎間板の膨隆や靭帯の肥厚によって脊髄が圧迫された病態です。典型的な症状としては手指のしびれや巧緻運動障害、歩行障害(痙性歩行)、膀胱直腸障害などが認められます。進行する症例に関しては椎弓形成術などの手術加療が必要となってきます。腰部脊柱管狭窄症も加齢性変化が原因で腰部での脊柱管や椎間孔が狭小化した病態です。馬尾性の間欠跛行や神経根性疼痛が出現し、悪化すれば膀胱直腸障害が出現します。必ずしも画像所見と臨床症状が一致するわけではありませんが、下肢の筋力低下、間欠跛行の増悪によるADLの低下や膀胱直腸障害を認める症例では手術加療が必要となります。一般的には腰椎椎弓切除による除圧術を行いますが、すべり症などの不安定性を認める症例では固定術を併用することがあります。
脆弱性椎体骨折の治療法
また近年、高齢化による脆弱性椎体骨折も増加の一途をたどっています。コルセットや鎮痛剤による痛みに対する治療と合わせて骨粗鬆症の治療が必要となります。また十分な保存加療でも疼痛改善が認められない場合には経皮的椎体形成術(BKP)も有効な治療と考えます。おわりに
脊椎疾患に対する治療は日々進歩してきており、新たな治療薬や手術方法が開発されています。診断に難渋する症例があれば整形外科(脊椎外科)へ紹介していただけたらと思います。(5月16日、淡路支部症例検討会より、小見出しは編集部)