兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2019.06.08 講演

[保険診療のてびき]
日常臨床で役立つ麻痺やしびれのみかた(上) (2019年6月8日)

神戸市立医療センター中央市民病院 副院長・脳神経内科部長 幸原 伸夫先生講演

脳神経内科とは
 脳神経内科(皆に分かりやすい名称にしよう、という神経学会の方針により昨年10月から神経内科は脳神経内科に名称が変わりました)は頭のてっぺんから手足の先まで(図1)に示すように多くの病気を診ています。このような疾患だけでなく原因不明の意識障害、手足のしびれや脱力などいろいろな種類の患者さんが通常の外来、救急外来にやって来ます。意外かもしれませんが当院では救急入院の最も多い診療科が脳神経内科です。全入院の半数強は脳卒中ですが、てんかん重積、髄膜炎、脳炎脳症、神経筋疾患の増悪などによる救急入院が多いのも特徴です。
 近年はてんかん発作が止まらずに、あるいは意識障害が遷延して重積状態となって入院してくる高齢者が急増しています。てんかんは小児期から始まる病気、と考えておられる方も多いと思いますが、脳の抑制機能が落ちてくる高齢者ではその頻度が多くなってきます。脳卒中や頭部外傷の既往のある方のみならず、認知症を有する人は高齢初発てんかんのハイリスク群です。発熱が契機で痙攣を生じる、といったこともしばしば見られます。高齢者は若年者に比べ発作後に後遺症が残ることが多く、ことにADLの悪い方がてんかんを発症するとADLをますます悪化させますので、積極的な治療や予防が大切です。
簡単にできる診療方法
 神経疾患の診察は難しいことのように思われがちですが、表情や姿勢、しゃべり方、歩き方を見ているだけでも「何かおかしい」と感じることも多いと思います。表1に比較的簡単にできる診察方法をまとめました。Barré徴候は両手をまっすぐに伸ばし、手のひらが真上になるように前腕を回外させる方法です。回外するのに意志的な力がかなり必要ですので錐体路障害のあるときは軽い場合でも障害側の前腕は内転します。
 前腕の回内回外は正確にしようとすると正常の人でも結構難しく、麻痺のある人、パーキンソニスムのある人では稚拙になり、小脳障害のある人ではリズムが乱れます。頭がふらつく、という訴えの患者は多いですが、継ぎ足歩行が安定してできるなら器質的な体幹失調は考えにくいといって良いでしょう。なお高齢者のふらつきでは眠剤によるものがかなりありますのでチェックしてください。
手根管症候群
 手のしびれを患者さんが訴えた場合、最も多い原因は手根管症候群です。このしびれは正中神経が、手首のやや末梢にある手根管と呼ばれる靱帯と骨に囲まれた狭い部分で圧迫されることによって生じるものです。人さし指や中指がしびれることが多く、正中神経の支配域の関係から小指はしびれがありません(図2)。手をよく使う仕事をする人や主婦に多く、夜間や早朝にしびれがひどくなり、しばしば腕や肩にまで痛みを生じることがあります。重症になると母指球が萎縮することもあります。
 しびれは手を振ると改善する傾向があります。軽症の場合、手をなるべく使わない、といった安静だけでも症状は改善しますが、痛みの強い場合は整形外科でのステロイドの局所注入や手術の適応がある場合があります。
 診断は神経伝導検査をいう簡単な検査を行えば簡単にできます。片手のしびれは頸椎症によるC6,7の神経根障害や限局性の脳梗塞などでも生じますが、頻度としては圧倒的に手根管症候群が多いので、手のしびれの患者を診たときにはまずはこの疾患を頭に浮かべてください。
(つづく)

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