医科2019.06.08 講演
[保険診療のてびき]
日常臨床で役立つ麻痺やしびれのみかた(下) (2019年6月8日)
神戸市立医療センター中央市民病院 副院長・脳神経内科部長 幸原 伸夫先生講演
(前号からのつづき)
パーキンソン病
日常遭遇することの最も多い神経難病はパーキンソン病だと思います。現在の有病率は10万人あたり150人ですが、高齢になるとずっと頻度が増えます。中脳のドーパミンニューロンの変性で線条体におけるドーパミン不足が原因で運動制御や姿勢の障害を生じます。図3は明治時代にドイツから招かれた医師であるベルツが撮影したとされるおそらくは日本最古のパーキンソン病患者の写真です。こわばって体が動かない気配(無動)が伝わってくると思います。前屈みの姿勢の異常、手の姿位も特徴的です。人は何もしていないときでもある程度体を揺らしたり表情を変えたりしている自然の動きがあるのは普通ですが、パーキンソン病の患者さんではこういった無駄な動きがありません。おそらく自然な動きは車のアイドリングのようなもので、次の動作を素早く行い、外乱に対して柔軟に反応するためには必要なことなのでしょう。
パーキンソン病の患者さんを観察していると表情も変わらず(特に口から上は動きませんので仮面様顔貌といわれます)、振戦を除いて四肢も動かさず、じっとたたずんでいるという印象を受けます。初期にはさらに片足を引きずってその側の腕を振らない、細かいことがしにくいといった症状があることが多いのですが、進行すると反対側にもひろがり、歩行速度の低下、少歩、すくみなどが出現し、次第に前屈み姿勢や体軸のねじれなどを生じます。表2にこれらの運動症状と、それ以外の特徴(非運動症状)を示します。
便秘は発症前からほぼ必発でなかなか手こずることが多く、これは自律神経系の障害によるものです。パーキンソン病はレビー小体型認知症と兄弟のような病気ですので、進行すると幻視(人がいる、虫がいるなど)が出現してくることがあります。また発症よりかなり前から睡眠中に大声を上げたり、バタバタと体を動かしたりすること(レム睡眠行動異常)を生じる人が多いことも知られるようになりました。パーキンソン病は治療によりある程度症状を改善できる病気です。疑わしい時は脳神経内科にご紹介ください。
後頭神経痛
頭痛といえば片頭痛や緊張型頭痛、あるいは突発する重大な頭痛としてくも膜下出血がよく知られていますが、後頭神経痛もときおり見かける頭痛です。後頭部の数秒程度のズキンとした強い電撃的な痛みが起こり、これを繰り返すことが特徴です。間隔は数秒から数時間で一度痛み出すと数日から数週間継続します。痛みの間欠期(痛みがないとき)は同部位にじわっとした違和感、しびれ感があることがありますが吐き気や麻痺などの症状はありません。さらに以前から同じような頭痛が時々ある、といった病歴があればあまり心配はいりません。後頭神経痛に限らず、三叉神経痛や肋間神経痛も似たようなパターンを取り神経根部の炎症や圧迫が原因とされています(図4)。頭蓋内で生じる急性の頭痛はくも膜下出血や、一部の脳出血、椎骨脳底動脈解離などがありますが、これらとは異なり重大な神経障害を来すことは稀で、痛みに対する対症療法が主体になります。
「急性発症の認知症」
最後に「急性発症の認知症」についてお話しします。アルツハイマー病やレビー小体病の認知症が急に発症することはありません。ある日から突然に記銘力がおかしくなった、おかしなことを言うようになった、という時は表3に示すような急性の器質性疾患が背景にあることが多いのですぐに受診させてください。一過性全健忘はあまりなじみがないかもしれませんが、突然に自分の置かれている状況がよく分からなくなり、まわりの人に「どうしてここにいるのか?」といったことを何度も聞き返し、理由を説明してもまた聞き返すような状態が数時間から2日くらい続いて自然に良くなる病態です。原因はよく分かっていませんが発症前にストレスがかかっていることが多く、交感神経の緊張による海馬の循環障害などが想定されています。MRIを撮ると海馬に高信号がみられることがあります。
このように多彩な疾患を脳神経内科では診療しています。本日の話を通じて脳神経内科が関わる疾患に少しでも興味を持っていただき、このような患者さんをみかけたらご紹介いただければありがたいです。
(6月8日、神戸支部研究会より、小見出しは編集部)