兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

学術・研究

医科2019.11.09 講演

知っておきたい抗認知症薬の真実
[診内研より512](2019年11月9日)

兵庫県立ひょうごこころの医療センター精神科医長 認知症疾患医療センター長 小田 陽彦先生講演

抗認知症薬の基本

 抗認知症薬は使わないのが基本である。抗認知症薬はアルツハイマー病(AD)の病態生理を前提に開発されておりAD以外の認知症性疾患には理論的に効かない。例えば血管性認知症(VD)を対象に抗認知症薬の有効性を検証したプラセボ対照無作為化比較試験(RCT)に関する系統的レビューにおいて、日常生活動作、行動・心理症状、全般臨床症状のいずれもプラセボ群と実薬群の間に差はなかったことが確認されている(Neural Regen Res. 2019 May;14(5):805-816)。レビー小体型認知症(DLB)に抗認知症薬が著効したという報告はあるがあくまで症例報告レベルにとどまり、プラセボ対照RCTの報告ではリバスチグミンはDLBに無効であり(Lancet. 2000 Dec 16;356(9247):2031-6)、ドネペジルは認知症を伴うパーキンソン病に無効である(Mov Disord. 2012 Sep 1;27(10):1230-8)とそれぞれ確認されており、抗認知症薬の有効性は否定されている。要するに、抗認知症薬は診断が合っていないと効かない。

施設ごとに病型診断に差

 ところが認知症専門医でさえ正確な診断はできていない。2012年、厚生労働省は地域住民を対象に認知症有病率等調査を行い、日本における認知症高齢者数を推計約462万人と推計したが、同調査に参加した施設による認知症の病型診断のばらつきは著明だった(表1)。
 たとえばVDは調査全体では認知症患者のうち18.9%を占めるが、ある施設は137人中0人と報告している。施設によって診断能力に大差があると考えざるを得ない。調査に参加した認知症専門医であっても診断は一致しなかったことから、一般医が認知症の早期正確診断を目指す必要はどこにもないのは明らかである。

有効性の乏しい薬剤

 また、仮にADの診断が合っていても抗認知症薬は効かないか、あまり効かない。現にメマンチン、リバスチグミン、ガランタミンの3剤は国内治験で有効性がプラセボを上回らなかった(表2)。
 プラセボと変わらなかった薬剤は発売されるべきでないのに発売された理由は、当局(PMDA)が「海外においては標準治療薬だから」「本邦の臨床現場においてアルツハイマー病治療薬の選択肢が限られているから」等と後付けの理屈で発売を承認したからである。この理屈が成り立つならそもそも国内治験は存在する必要がない。目の前の認知症患者に抗認知症薬を使うべきか迷った際は、このような非科学的かつ非論理的な理由で承認されたという経緯を思い出すべきである。
 以上のように、抗認知症薬は診断が合っていないと効かないし、合っていてもあまり効かない。診断は専門医でさえばらつきがある上、抗認知症薬には副作用の危険がある。よって、抗認知症薬は使わないのが基本というのが自然な結論となる。

薬剤発売後に急増するAD患者数

 厚生労働省の患者調査によると、1999年10月の抗認知症薬発売開始を契機に、ADと診断される患者数が感染症か公害に影響されたかのように激増していることが明らかとなっている(図)。
 1999年までは認知症患者の5人に1人がADと診断されていたのに対し、2017年ではそれが5人に4人となった。無論、感染症や公害によってADを発症するというエビデンスは存在しないので、AD診断の激増は処方する医師が製薬会社のマーケティングに良いように踊らされている結果である可能性が極めて高い。認知症医療の荒廃ぶりが懸念される。

ガイドライン作成者と製薬会社のつながり

 厚生労働省老健局の「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」は、行動・心理症状(BPSD)に対する抗認知症薬の使用を推奨している。ところが抗認知症薬がBPSDを改善させるというエビデンスは乏しく、諸外国のガイドラインはBPSDに対して抗認知症薬を使うことを推奨していない。製薬会社は医師個人にさまざまな形で金銭を支払っておりその金額等を公開しているが、その公開情報に基づいた一部報道によって、BPSDガイドライン作成者は製薬会社から給与等を得ていることが明らかとされている(表3)。

ガイドライン妄信は危険

 抗認知症薬の添付文書にはかえってBPSDを悪化させる危険がある旨が記載されているが、実際に抗認知症薬で興奮する、暴れているといった事例はよく経験する。厚生労働省老健局のガイドラインだからといって妄信するのは危険である。ガイドラインの作成過程を含めて批判的に吟味する必要がある。

(2019年11月9日、診療内容向上研究会より、小見出しは編集部)

1942_01.gif

※学術・研究内検索です。
歯科のページへ
2018年・研究会一覧PDF(医科)
2017年・研究会一覧PDF(医科)
2016年・研究会一覧PDF(医科)
2015年・研究会一覧PDF(医科)
2014年・研究会一覧PDF(医科)
2013年・研究会一覧PDF(医科)
2012年・研究会一覧PDF(医科)
2011年・研究会一覧PDF(医科)
2010年・研究会一覧PDF(医科)
2009年・研究会一覧PDF(医科)