医科2020.01.25 講演
知っているとカッコイイ
"救急外来での一発診断"(上)
[診内研より514](2020年1月25日)
トヨタ記念病院救急科医長 西川 佳友先生講演
はじめに
われわれ医者が喜びを感じるときはいつだろう? 初期研修医の時は、難しい血管確保を一発で仕留めたときに感じていたが、数カ月で業務の一環と化していた記憶がある。医者18年目を迎えた現在、日々の診療において"喜び"や"楽しさ"を感じる時、私にとってそれは、患者さんが「先生に診てもらえてよかった」と喜んでくれる時に訪れる。めったにいただけない感謝の言葉だからこそ、そう言っていただけるよう日々の診療に励んでいる。
最近気づいてしまった、もう一つの"楽しさ"が、今回紹介する一発診断である。どの科やどの分野にも存在する瞬殺症例の引き出しを多く持つことによって、忙しい外来では猛烈な威力を発揮し、患者さんからも喜ばれ、何より瞬殺診断した当の本人がとても誇らしいひとときを過ごせるメリットがある。
本稿では、さまざまな症例が飛び込んでくる救急外来から、選りすぐりの瞬殺症例を提示する。明日からの診療にお役立てできることを期待する。
Case file(1):63歳男性
咳嗽後の左上腹部痛、診断はなんでしょう?
咳嗽後の左上腹部の腫脹という突発的な主訴でERを訪れた63歳男性である。視診にて左上腹部の腫脹が一瞥され、皮下出血斑を伴っている。特徴的なのは腫脹が正中線を超えていない点である。解答:特発性腹直筋血腫
確定診断にはCTが有用であり、活動性出血を評価するために造影CTを施行する施設も多い。本症例でも腹直筋内部に造影剤漏出(extravasation)を認めた(写真1)。入院での安静経過観察中に右側にも生じてしまったが、保存的加療で軽快した。腹腔内穿破、血腫が増大傾向を示す場合、膿瘍形成に至る場合などは手術適応となるが、非常に稀とされている。
Case file(2):2歳男児
何かコインを飲んだ...、ドコにナニが隠れているのでしょうか?
小児の消化管異物は第一狭窄部である食道入口部に引っ掛かることが多い。多くの異物はX線非透過性を持つため、X線写真にてすぐさま同定されることが多いが、プラスチックや純アルミニウムはX線では同定しにくい特徴を持つ。咽頭側面像やCTを撮像すれば誰でもわかる画像となるが、特に小児に対しては放射線被ばくを極力控えたいため、X線正面像での特徴を共有しておきたい。解答:上部食道に一円玉が嵌入している
なお、気管内異物の場合は緊急度を増すわけであるが、突発的な咳嗽といった症状を呈し、声帯を通るためコインの向きが声帯に対して平行となるためこれらの点から除外可能といえる(写真2)。
Case file(3):1歳男児
LEGO?を飲んだ...、ホントに?緊急性はどれくらい?
先の症例と同様に食道入口部に異物を認めるが、あきらかにLEGOではない! 異物の病歴は過信してはいけないことが教訓となる症例である。さて、これはどういった異物であろうか? コインであれば数時間の経過観察は許容され、深夜とかであれば朝まで経過観察後にそれでも同部位に嵌入していれば除去に取り掛かる方針で良いだろう。解答:ボタン電池誤飲 可能であれば2時間以内の摘出が望ましい
しかし、ボタン電池といった腐食異物であれば緊急で除去しないといけない。欧米のガイドラインでは2時間以内の除去が推奨されている。これらを区別するにはレントゲン条件を変えてボタン電池特有の二重輪郭(Double rim sign)を同定しに行く必要がある(写真3)。
(つづく)
写真1 腹直筋血腫のCT画像
写真2 1円玉は分かりにくい
写真3 Double rim signを確認しよう