医科2020.01.25 講演
知っているとカッコイイ
"救急外来での一発診断"(下)
[診内研より514](2020年1月25日)
トヨタ記念病院救急科医長 西川 佳友先生講演
(前号からのつづき)
Case file(4):31歳男性
トロッカーで経過を診るより呼吸器外科に手術加療を依頼する
右の肺は虚脱しており気胸の存在は早期に同定できるが、fluid貯留は単純な気胸では説明できない。時間が経過した気胸では反応性胸水が貯留することはあるが、発症後1時間での貯留はありえないため、自然血気胸を想起する必要がある。自然血気胸は気胸全体の3%程に発生し、トロッカー処置のみの経過観察ではその多くが出血性ショックに至る。止血目的に手術加療を要するためトロッカーで粘ることなく呼吸器外科にコンサルトすることを推奨したい。
なお、夜間帯にトロッカーで粘った症例の翌朝に撮像されたCTを提示する(写真1)。
先端は肺尖部に向かせるため、トロッカー挿入後の血液排出を認めなかったこともあり、経過観察で良いだろうとの方針になった。翌朝にトイレに行こうと起立した際に意識消失を起こしトロッカーから大量の血液流出が認められ院内急変コールが要請された。その直後に撮像したCTである。まだまだ胸腔内には血液が貯留しており緊急OPが施行された。
Case file(5):17歳男性
本症例は左のキンタマが痛いと最初から言ってくれたこと、明け方の典型的な時間帯に発症していたこと、あきらかな位置左右差を認めたことから早期診断に至った。好発年齢は10代であるが、10代前半は陰毛が生える時期ということもあって羞恥心が強く、キンタマが痛いといわず下腹部痛として受診することも多い。こちらから攻める問診をして判明することもある。教科書的にはパンツを降ろして診察することが推奨されているが、パンツを降ろして"見る"だけでは不十分である。精巣捻転緊急手術直前の写真を提示するが、どちらが捻転側かは"見た"だけではわからない(写真2)。
Case file(6):25歳男性
よ~く見ると脛骨外側、腓骨頭の近傍に剥離骨折を認める。剥離骨折程度であればシーネなどで簡易固定をして整形外科受診を勧めてもよいのだが、Segond骨折は慎重に加療を進めていくことが望まれる。Segond骨折の75%に半月板や前十字靭帯損傷を合併するといわれ、単なる剥離骨折対応ではいけないことがわかっていただけるであろう。バドミントンをどの程度のレベルでプレーしているかにもよるが、MRI精査や手術加療、装具やリハビリなど多岐にわたるサポートが必要となってくるため、膝を専門とした整形外科医への紹介を勧めたい。
Case file(7):56歳女性
中年女性に多いとされるAchenbach症候群は、疼痛も軽度であり受診すらされない方も多い。PIP関節付近の皮下出血であり、指壊死との大きな違いは指先部の所見を伴わないところである。指壊死では血流が行き届かず黒色調変化を呈する。治療は経過観察のみであるが再発する症例も存在するため、診断をつけることで不安を掲げる患者を安心させるメリットがある。なお、自験例ではこの診断名を患者に伝えても、病名が上手く伝わった試しはなく、指における鼻出血みたいなもんですよ、再発することもあるけどほとんど1週間程度で良くなりますよ、と説明している。
Case file(8):49歳男性
見直すつもりで本稿を見ていただいた方への講演では出していない追加症例である。
歯突起前面に石灰化を認め、これが本病態を来している。頸長筋腱に石灰沈着を来し炎症を惹起した際に発症する。40代に多く、動作で悪化する後頸部痛と嚥下時痛が合併するのが特徴であり、高齢者に多いCrowned dens syndromeとは、年齢と嚥下時痛の有無で区別することができる。治療は1週間ほどのNSAIDs使用で軽快することが予想される。
終わりに
いかがでしたでしょうか?これまでに診たことがある疾患もありましたでしょうか?救急外来での症例を提示しましたが、クリニックに受診してもおかしくない症例もあったかと思います。これらの症例に出会ったときに"面白い"と感じ、"もう一回講演を聞いてみたい!"と思っていただけたら筆者のこのうえない喜びです。
(1月25日、診療内容向上研究会より)
写真1 緊急OP時のCT画像
写真2 精巣捻転緊急手術直前