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学術・研究

医科2021.01.23 講演

プライマリの現場で役立つマイナーエマージェンシー
[診内研より520] (2021年1月23日)

福井大学医学部附属病院救急部・総合診療部  小淵 岳恒先生講演

事前に知識やコツを得ておく
 「マイナーエマージェンシー」と聞いて、皆さんは何を想像するでしょうか? 目にゴミが入った? 耳に虫? 鼻血が止まらない? 足を捻挫した? など、いろいろな状況が目に浮かぶかもしれません。しかし、ある本には、「ショック、意識障害、心筋梗塞、急性腹症」以外はすべてマイナーエマージェンシーであるとされています。
 つまりアメリカの大リーグのように、「メジャー」と「マイナー」に分かれているのとは異なり、救急の疾患には明確な線引きはなく、ちょっとしたことでも患者さんは大変困った状態で、先生方に解決してほしくて医療機関を受診するのです。
 日常の臨床の現場で、自分の専門外のことを求められる時はよくあることです。特に夜間救急の当直や休日の診療では、急に病院やクリニック、診療所に駆け込んでくるケースも少なくありません。
 そんな時、困っている患者さんを目の前にして、断るのではなく「とりあえず診てから考えよう」という気持ちになるかならないかは、過去に経験したかどうかが非常に大きなカギになります。またはちょっとした知識やコツを勉強会などで得ておくと、自信を持って診療することができ、その場で実際にうまく問題解決できると拍手喝采! 患者さんも家族も感謝・感激・大満足、さらに医療者側も「あ~、医者やってて良かった~」と思う瞬間です。
 今回は眼科救急についてまとめてみたいと思います。
結膜下出血(血種)
 急激に症状が出るために、びっくりして医療機関を受診することが多いです。幸い急ぐ必要はなく、点眼薬やアセトアミノフェンの内服で対応は可能であり、緊急での眼科コンサルトは必要ありません。結膜下出血はちょっとした外傷、咳、嘔吐、排便時に生じることが多く、一見出血が広がって見えますが、疼痛や視力障害がなく、出血の範囲の境界が明瞭であることがポイントです。
 自宅でフォローする際には、2日間は赤みが広がる可能性があることを説明し、基本10日~14日で改善することを伝えると良いです。しかし、外傷の度合いが強い時は抗凝固薬の内服、出血性疾患がある場合には出血が急激に拡大することが予測されるために後日眼科外来へ紹介する必要があります。
化学熱傷
 眼球表面に化学薬品などがかかり受傷するケースです。まずは眼球表面の観察が必要となります。眼球表面の麻酔薬(ベノキシール点眼液)を点眼し、角膜表面に薬物や異物が残っていないかどうかを確認し、その後積極的な洗眼を行います。
 洗眼には洗眼瓶を用いることが一般的ですが、すべての医療機関には洗眼瓶はないため、生理食塩水に点滴のルートをつなぎ洗眼を行う方法が有効です。重要なのは洗浄を行う量です。特に強アルカリの場合は十分に洗浄を行う必要があります。基本的には生理食塩水2000ml以上かつ30分以上洗眼を行いますが、pHが7.4~7.5程度まで安定するまでは2000mlにこだわらず洗浄すべきです。ではpHはどのように測定するのか? それは尿検査用のテステープを使用すると良く、尿検査の用のテステープのpHを測定する部分を用いて洗浄後にチェックすると容易にpHを測定できます。
 では、強アルカリはどのようなものが危険なのか? アンモニア製剤(洗剤や化学肥料)が挙げられますが、石灰、石膏やセメント(モルタル)が要注意です。石灰はいろんな用途で用いられていますが、園芸用に使われることが一般的です。春先に石灰を土に混ぜる時に目に入ってしまうことが多く、その時には上眼瞼も翻転し確実に異物を除去してから十分に洗浄することが重要です。
角膜潰瘍
 角膜潰瘍を述べる前に、まずは角結膜炎について述べる必要があります。特に流行性角結膜炎(EKC:epidemic keratoconjunctivitis)は注意が必要です。
 EKCは眼痛を伴う角結膜炎です。原因はアデノウイルスで、眼脂や結膜充血、結膜浮腫を来します。特に毛様充血を来す際は、炎症が強く広範囲であることを示します。診断は、アデノウイルス診断迅速キットを用います。アデノチェックの感度は89%、特異度は94%と良好であり、比較的簡便に診断は可能です。治療法は点眼薬を用いた対症療法であり、自宅療養が必要であることを伝え、後日眼科へ紹介します。
 しかし、EKCの患者さんが医療機関からお帰りになった後が重要です。EKCは流行性が強く、人へ感染させる恐れがある期間が約1~2週間あるため、患者さんが触れたであろう部位をアルコール消毒する必要があります。診断がついた時点で、医療スタッフ(看護師さん・受付事務さん)と情報を共有します。
 では、角膜潰瘍の際はどのようにするのか? 角膜潰瘍は、角膜表面に外傷・感染が生じ表皮細胞が欠損する状態です。症状として眼痛、流涙、羞明、異物感を認めます。診察では角膜表面に角膜潰瘍を認めるために診断は可能ですが、フルオレセイン染色を行うと、潰瘍を来した部位に染色液の蓄積を認めるため、より診断しやすくなります。
 原因菌は、表皮ブドウ球菌・黄色ブドウ球菌が多く、コンタクトレンズ装着者では緑膿菌や真菌感染も考慮しなくてはなりません。治療としては、抗菌薬の点眼液を用いますが、コンタクトレンズ装着者においては、緑膿菌をカバーするためにニューキノロン系の点眼薬を用います。眼帯は、細菌増殖に好都合な暗く温かい環境を作り点眼薬投与の妨げとなるため、可能であれば装着しないほうが良いとされています。フォローは24時間以内に眼科受診とします。
コンサルトの適応を知る
 最後に、マイナーエマージェンシーは「ちょっとした」ことではありますが、患者さんは大困りで医療機関を受診されます。その時に、ちょっとした技術で解決できると非常にカッコイイと思います。また解決のために、自分でできる手技(道具)をたくさん持つことをお勧めします。あらゆる形、性質、場所に対応できるようにしておくと安心して診療を行うことができます。解決法が一つしかないと、その方法がうまくいかなかった時、かなり焦りますので、各専門医へのコンサルトの適応を知ることが重要です。
 眼科救急におけるキーワードとして、「視力障害・視野障害」と「強い眼痛」が挙げられます。このキーワードを満たす際は眼科コンサルトが望ましいと考えています。症例によっては、電話している間にも処置が必要なものもあります。地域で活躍される先生方が、マイナーエマージェンシーを習得することで夜間の専門医を温存することになり、地域医療再生につながると考えています。
 今回のお話が先生方の日常診療にとって少しでもお役に立てれば幸いに存じます。

(1月23日、診療内容向上研究会より、小見出しは編集部)

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