医科2021.04.17 講演
患者のやる気を引き出す
コミュニケーションで治療効果UP!(上)
[診内研より524] (2021年4月17日)
済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科 十河 剛先生講演
神経言語プログラミング(Neuro-Linguistic-Programing:NLP)は、当時、最も効果を上げていた3人の天才セラピストである、ゲシュタルト療法のフリッツ・パールズ、家族療法のバージニア・サティア、催眠療法のミルトン・エリクソンが、どのようにして効果的なセラピーを行っているのかを、リチャード・バンドラーとジョングリンダーの2人が研究したことに端を発する心理学である。NLPは脳の取り扱い説明書とも呼ばれ、人間が五感を通して受け取った情報をどのように処理して、言葉、思考や行動に影響を与えるかを研究した学問とも言える。当初は、ベトナム帰還兵の心的外傷後ストレス障害の治療で発展してきたが、現在ではビジネス、医療、スポーツなどにも応用され、アメリカ合衆国大統領の演説にもNLPは用いられている。今回はNLPを用いたコミュニケーションを医療現場に適用することで患者のやる気を引き出し、治療効果を上げる方法をお伝えする。
今日からできる効果的なコミュニケーションに必要なたった二つのこと
人間は五感を通して1100万ビット/秒の情報を得ていると言われている。しかし、1100万ビット/秒の情報をそのまま受け取っていては、脳がパンクしてしまうので、情報の一部を削除したり(削除)、自分なりの解釈をしたり(歪曲)、一部のことをあたかも全体で起こっているかのように認識したり(一般化)することで、情報を64ビット/秒に絞り込んでいる。この64ビット/秒の情報を元に、われわれはコミュニケーションをしている。たとえば、海に臨む岬の感想を聞かれても、ある人は「空と海の境がないくらいきれいな海と空の青さだった」と答えるが、別の人は「波の音とカモメの鳴き声、そして風の音の調和がとても印象的だった」と答える、また、別の人は「太陽の暖かさと頬に当たる風の冷たさが対照的で気持ちよかった」と答える。
これは同じ場所で同じ1100万ビット/秒の情報を受け取ったにも関わらず、それぞれが別々の削除、歪曲、一般化を行い、違う64ビット/秒の情報に絞り込まれた結果である。海を臨む岬の感想であれば、64ビット/秒に違いがあっても、問題になることはまずない。
しかし、医療の現場で医師と看護師、患者と医療従事者の間に、64ビット/秒の違いがあると、問題が生じることがある。とくに自分の64ビット/秒と相手の64ビット/秒が同じものだと勘違いしながらコミュニケーションを進めると、大きなトラブルに発展してしまう。
お互いの64ビット/秒の溝を埋めるためには、何が削除されていて、何が歪曲されていて、何が一般化されているのかを知る必要がある。そこでNLPでは質問をしながら溝を埋めていくが、お互いに理解し合えるような居心地の良い雰囲気の状態、信頼関係(ラポール)が築かれていないと、質問は尋問になり、相手は責められているような印象となり、本当のことを言わなくなる。したがって、すべてのコミュニケーションの基礎になるのがラポールである。
患者とのラポールの築き方
具体的に私の外来で、患者とラポールをどのように築いているかの具体例を示す。(1)ハイタッチ
われわれ小児科医をはじめ、白衣を着ている人や病院の人は、子どもたちにとっては「怖い人」となりがちである。そこでハイタッチをして、子どもたちと触れ合うことで安心・安全の感覚が生まれる。
(2)同じ言葉を使う
(3)目の高さを合わせる
この二つはマッチングと呼ばれる。人間も元は群れで生きてきた動物である。群れで生きてきたゆえに、異種を排除する本能がある。したがって、同じ言葉を使って、目の高さを合わせることで同種であると認識してもらうのである。卒後3年目で離島勤務をした際に、自治医大出身で島唯一の診療所の先生が、島の人と同じ言葉を使って診療して、信頼関係を築いていたのはとても印象的であった。小児科であれば、子どもたちの年齢にあった言葉を使うのである。
(4)ペースを合わせる
これは話すスピードやトーンもであるが、話の内容も相手の話に合わせていくのである。とは言っても、相手のペースに合わせていたら仕事にならないのでは?と思われるであろう。そのために、相手のペースに合わせて、相手のペースに合わせて、こちらのペースにリードする、ペース⇨ペース⇨リードを繰り返しながら、こちらのペースにもってくるのである。
【実践例】
患者:先生がこの間、休診だった時に対応したあの若い先生何? ちょっとイラついちゃったんだけど。
医師:■■先生が○○さんをイラつかせてしまったのですね。○○さんが、そう感じてしまったことは申し訳ないです。
患者:いや、先生が謝ることじゃないんだけどさ。何訊いても、杓子定規な返事しか返ってこないから。ちょっと大丈夫かなって心配になっちゃって。
医師:杓子定規な返事しか返って来ないって感じてしまったのですね。そんな風に感じちゃったら、大丈夫かなって心配になっちゃいますよね。
患者:そうなんだよ。先生が一番俺の体のことを知っているからさ、先生を一番信頼しているんだよ。だから、俺が来る日は休診にしないでよ。
医師:ありがとうござます。そんな風に思ってくれてうれしいな。じゃあ、○○さんの期待に応えられるように学会に行って最新知識を勉強してくるから、その時は休診にさせてください。その時は、また、■■先生に代診を頼むけど、彼も私より10個くらい若いからまだまだ勉強しなくちゃいけないから、○○さんも応援してあげてよ。
患者:そうだよな。お医者さんも勉強が必要で大変だよな。わかったよ。
また、ラポールを築くための方法として、「褒める、認める、ねぎらう」という方法もある。人間は欠けているところに注目しがちだが、足りている部分に注目し、できなかったより、できたことに注目するのである。例えば、不登校の子が、「学校に1日しか行けませんでした」と言ってきたときに、「たった1日しか行けなかったんだ」ではなく、「1日行けるようになったんだ」、「週1回の登校が続けられてるんだ」というような声掛けに変えていくのである。(つづく)