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学術・研究

医科2021.04.17 講演

患者のやる気を引き出す
コミュニケーションで治療効果UP!(下)
[診内研より524] (2021年4月17日)

済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科  十河 剛先生講演

(7月25日号からのつづき)

決めた目標が達成できない理由
1.目標は肯定形で表現されている必要がある

 「カロリーの高いものを食べてはいけない」、「お菓子は食べてはいけない」、「間食はしてはいけない」、「お酒を飲んではいけない」、「食べた後、すぐに横になってはいけない」のような、「〜してはいけない」というような否定形の指導をしていないだろうか? 人間の無意識は肯定文と否定文を区別できないため、「〜してはいけない」と言われると「〜する」と認識してしまう。だから、浦島太郎は玉手箱を開けてしまい、鶴の恩返しでは鶴が機を織っているところを覗いてしまうのである。
 また、肯定文で目標を設定したり、指示したりすると、やるべきことがピンポイントで示されるが、「〇〇しない」「○○してはいけない」だと、「○○」以外であれば、何でもよいと脳は認識する。

2.知覚的に検証、実演が可能である

 これはスポーツのイメージトレーニングと同じであり、目標を達成した状態を明確にイメージさせるのである。ダイエットであれば、痩せた自分がどのように見えるのか? 体はどんな感じか? どんなことを周りから言われるだろうか? などを明確に、感情が湧き上がってくるくらいにイメージさせるのである。

3.望ましい状態は、クライアントが行動することで始められ、維持できるものでなければならない

 自分がコントロールできることが目標として、挙げられている必要がある。例えば、「体重を20㎏落として、○○さんから好かれるようになる」というような目標の場合、体重を20㎏落とすことは、自分でコントロール可能であるが、○○さんが好きになるかどうかはコントロール外である。

4.現在の状態が生み出すプラスの副産物が保持されている

 目標が達成されることで得られるベネフィットがあるのは当然であるが、今現在の状況にも何かベネフィットがあることがある。例えば、いくら指導しても食べ過ぎてしまい体重が減らない子どもには、「太っていると、相撲好きのおじいちゃんが喜んで、相撲をして遊んでくれる」というようなベネフィットがあるかもしれない。そのような場合には、痩せてもおじいちゃんが遊んでくれるというベネフィットが維持されていなければ、痩せるための行動を無意識に止めてしまう。

5.すべてにおいてWin-Winの関係が保たれている

 NLPではエコロジカルであるという表現を使う。「ダイエットには成功したが、健康を害してしまった」、「禁煙に成功したが、イライラして他人に当たってしまい人間関係が崩れてしまった」など、このような状況はエコロジカルではないとNLPでは表現する。

相手に伝わりやすくする三つの方法
1.D言葉ではなくて、"and"を使う

 "だから"、"ですから"、"だって"、"でも"などのD言葉には、相手の言葉や意見を否定してしまう力がある。一方で、"and"(そして)は、催眠言語的には、無関係の二つを無意識レベルでつなげる効果がある。
【実践例】
患者:前にこの薬を飲んだ時に下痢したから、もらったけど飲みませんでした。
医師:だから、この前もこの薬と下痢は関係ないって言ったじゃないですか。ちゃんと飲まないと、血圧がまた上がっちゃいますよ。ちゃんと飲んでくださいね。
というようなやり取りの代わりに、
患者:前にこの薬を飲んだ時に下痢したから、もらったけど飲みませんでした。
医師:○○さんは、この薬と下痢が関係していると思っていたのですね。
 そして、前に説明したようにこの薬と下痢は関係ないので、胃腸炎か何かで下痢しただけの可能性が高いですね。○○さんは血圧が高いですよね、そして、○○さんには、この薬は必要です。○○さんは下痢を心配しているようなので、整腸剤を一緒に処方しますね。

2.三つのGoodと"How"の質問

 相手の意見の良い点を三つ指摘してから、How(どのように、どうやって)〜と質問する。
【実践例】
患者:合併症が怖いから、内視鏡じゃなくて、バリウム検査だけにしてほしい。
医師:合併症の発生率は低くても、それが自分の身に絶対に起きないということは言えないですよね(1st Good)。内視鏡よりも、バリウム検査の方が苦しくないですよね(2nd Good)。あの苦い麻酔薬を使っての喉の麻酔もしなくて良いですしね(3rd Good)。
 そして、○○さんは潰瘍から出血している可能性が高いので、内視鏡であれば、すぐにその場で血を止める処置ができますが、どのようにお考えですか?("How"の質問)

3.Good&Better&Good

 最初に良いところを伝え、次にどのように改善すれば、もっと良くなるかを伝え、最後に良いところを伝える。改善点を伝えるところでは先ほどお伝えしたようにD言葉ではなく、"そして"を使うのがコツである。
(1)毎日、ウォーキングは続けられたんだね。夏の暑い時だったのに頑張ったね。
(2)そして、食事量は今の3分の2くらいに減らしたら、確実に体重は減らすことができると思うな。
(3)最初の一週間は腹筋とスクワットもやっていたんだよね。それもすごくいいよ。
 このようにNLPでコミュニケーションの方法を変えるだけで、患者とのコミュニケーションの質が変わってくる。そして、それは診療の質の向上につながると考える。また、ここでお伝えした方法は、患者に対してだけでなく、コミュニケーション全般で共通した方法である。したがって、他の医療スタッフとのコミュニケーションもこの方法で改善することで、患者さんへ提供する医療の質も向上すると考える。

(4月17日、診療内容向上研究会より)

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