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学術・研究

医科2021.05.22 講演

プライマリ・ケアで役立つめまい診療の診断戦略
[診内研より522] (2021年5月22日)

千葉大学医学部附属病院 総合診療科  鋪野 紀好先生講演

はじめに
 めまいを主訴に病院や診療所を受診する患者は多い。その一方、めまいは原因となる疾患を特定しにくく、医療資源の限られたプライマリ・ケアセッティングでは、その診断に難渋する。しかしながら、そのような状況下であっても、めまい患者に対して適切な診断を行い、適切なマネジメントにつなげること、さらには危険なめまいを見逃さないための診断戦略を身につける必要がある。
 そのための方略としては、めまいの原因頻度を押さえる、めまいの診断戦略で効果的に疾患の絞り込みを行うためのアプローチを理解することが重要になる。また、近年慢性めまいのトピックとなっている持続性知覚性姿勢誘発めまい症(Persistent Postural Perceptual Dizziness:PPPD)についても最新の知見を共有する。
めまいの疾患頻度
 表1にめまいの原因頻度についてまとめる。めまいの原因は大きく、末梢性、中枢性、精神、非前庭・非精神に分けられる。
 末梢性の頻度が多く、その中でも良性発作性頭位めまい症(Benign Paroxysmal Positional Vertigo:BPPV)が全疾患の中で最も多い。末梢性では、前庭神経炎、メニエール、薬剤性などが頻度の高い疾患として挙げられる。
 一方、危険な疾患の潜む中枢性については、脳梗塞に留意をする必要がある。また、片頭痛によるめまい(片頭痛性めまい)もしばしば遭遇するため、合わせて理解を深めたい。
 精神疾患としては、うつ病、不安障害(パニック障害を含む)、身体症状症(DSM-Ⅳでの身体表現性障害)などが挙げられる。
 非前庭・非精神の中には、失神ないし失神前状態(syncope/ presyncope)が挙げられる。この中には、消化管出血などによる起立性低血圧、不整脈によるAdams-Stokes症候群、肺血栓塞栓症や急性心筋梗塞、大動脈解離といった疾患も含まれることに留意する。
 また、めまいの原因頻度を考える場合は、診療セッティングを意識する必要がある。例えばプライマリ・ケアの場合では、末梢性が43%、中枢性が9%、精神疾患が21%、その他が34%、不明が4%となるが、救急では精神疾患は9%にとどまり、その他は37%、不明が19%となる。また、脳神経内科をセッティングとした場合には、中枢性が19%まで増加する。
 自分が、今診療しているセッティング、これは診療所や病院、診療科だけでなく、地域性や時間帯も含めてであるが、そういった状況を加味して、原因疾患の有病率を把握し、高頻度疾患から疾患仮説を立てて診断推論を進めていくのが合理的である。
めまいの診断戦略で重要な問診
 めまいなどの症状を確認する場合は、"OPQRST"といったアクロニウムに合わせて問診を行うことがある。その場合、優先して確認する項目を立てるのが良い。
 めまいと聞くと、Quality(性状)から確認する医師も多いかもしれない。この性状が、眼前暗黒感のような失神前状態を示唆すれば、脳への循環血漿量低下を示唆する情報になるので、診断への近道になるであろう。
 しかしながら、めまいについて性状を分類していく診断戦略は難しいとされる。過去の研究によると、めまいを訴えた872名を対象にした研究では、62%はめまいの性状にタイプ分類することはできなかったとされる。さらに、同一患者に対して時間を空けずに1回目・2回目と問診を行った時、1回目と2回目とでのめまいの性状の一致率は52%に留まったという結果がある(Mayo Clin Proc. 2007;82(11):1329-1340.)。この研究結果が示唆するように、めまいについて性状からアプローチを行うのは、いささか難しいということが読み取れる。
 そこで、急性めまい患者の診断アプローチとして近年着目されているのが、"ATTEST"と呼ばれるアプローチである(J Emerg Med. 2018;54(4):469-483.)。このアプローチでは、図1にあるように、A、TT、ES、Tに沿って臨床情報を収集していく。中でも特段重要になるのが、TTにあるTiming and Triggers(持続時間と誘引)になる。これは、OPQRSTでは、PとTにあたる箇所である。ここの部分を確認することで、図2にある、めまいの分類を進めることができる。
持続性知覚性姿勢誘発めまい症の知見
 近年、持続性知覚性姿勢誘発めまい症(Persistent Postural Perceptual Dizziness:PPPD)という慢性めまいの原因疾患がThe International Society for Neuro-otologyで定義され、ICD-11にもPPPDが追加されている。PPPDの診断基準を表2に示す。
 かねてから、「めまい症」と言われていた、原因不明のめまい(20-25%)の一定部分を占めると考えられた。そこで、原因不明のめまい患者が集積する、千葉大学医学部附属病院総合診療科では、当科を受診した慢性めまい(3カ月以上続くめまい)患者におけるPPPDの割合と特徴について分析を行った。
 PPPDがICD-11に追加された2017年から2019年9月に受診した慢性めまい患者229名のうち、PPPDは33名(14.4%)であり、うつ病(24%)に続いて2番目に多い疾患であった。また、PPPDとうつ病、不安障害、身体症状症との鑑別が重要となるが、そこで重要になるのが、めまいの持続時間である。この増悪した時の持続時間が10分未満かどうかが、PPPDとその他の心因性疾患との鑑別に非常に重要となり、われわれはその特徴について英文誌で報告をしている(Intern Med. 59(22);2020:2857-2862.)。その他の特徴についても、こちらの雑誌をぜひともご参照いただきたい。
 今回の講演内容が、プライマリ・ケアにおけるめまい診療に貢献できることを切に願う。

(5月22日、診療内容向上研究会より)


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