医科2021.06.05 講演
医療関係者のための「やさしい日本語」(上)
新型コロナ流行下に
在日外国人が置かれている状況
[国際部研究会より 1] (2021年6月5日)
NPO法人 国際活動市民中心(CINGA) 新居みどり先生講演
日本に暮らす外国人の現状と課題
はじめに、やさしい日本語を学ぶ前段階の知識として、在住外国人がどういう状況にあるのか説明する。現在日本には290万人を超える外国人が暮らしている。15歳から39歳の年齢層が多い。また各地の外国人数をみると、東京や大阪、愛知など大都市圏に多く暮らしているが、都道府県別の外国人増加率でみると、大都市ではなく、地方にこそ外国人が増加していることが分かる。この背景には、少子高齢化が進む中、労働力が不足している地方で、農業や漁業、製造業などの分野に積極的に外国人を受け入れているからである。また、介護の領域も外国人の就労が近年増えている。外国人は労働力であると言われるが、同時に、人として地域に暮らしている。
東京都外国人新型コロナ生活相談センターの取り組み
CINGAは東京都と協力をして、14言語で相談を受ける「東京都外国人新型コロナ生活相談センター(TOCOS)」を2020年4月に設置した(図1)。4月17日から3月31日までの258日間で、5607件の相談が来た。相談対応言語の内訳をみると、やさしい日本語を含む日本語が一番多い。なぜ、外国人相談なのに日本語かというと、いくつかの理由がある。まず、東京都内には160を超える国と地域の外国人が暮らし、そのすべての人の共通言語は日本語であり、相談センターで、自分の母語での対応がないとき、次に話せることばとして日本語を選択する人が多いということ。
二つ目は、2020年春、社会全体が混乱しており、コロナに関する相談をしたくても、色々なセンターに電話がつながらないという問題があった。外国人相談についても同様であったが、センターの電話回線を対応言語別に14本に分けるより、すべての回線に対して、全言語の相談員が日本語で対応し、一本でも多くの電話を取るようにした。電話がつながらない状況下で、電話がつながったという安心感を提供することを大事にした。
そして、もうひとつは、家族や友人など周りの外国人のために日本人も電話してきてくれたからであった。
外国人はどのようなことに困っているのか
自治体で行われている外国人意識調査をみると、一番には「日本語の不自由さ」、次に「病気になった時の対応・病院で外国語が通じないこと」に不安を挙げている方々が多くいる(図2)。別の視点として、「特にない」と答えている人も22.3%いる。その背景には、外国人住民が単身世帯で、若い人が多いということが挙げられる。
日本人の若者もそうであるが、アパートと大学等を往復する、職場とを往復する生活の中で、さほど大きなことに困ることは少ない。ゆえに、困ったことがないと答える方も多い。ただ、相談現場からみていると、外国人住民が結婚し、家族を持つようになると、圧倒的に困ったことに直面することが増えるようである。
外国人という言葉の定義
「外国人」という言葉は、「日本国籍を有しない者をいう」(出入国管理及び難民認定法 第2条2)と定義されている。つまり国民という言葉が使われるとき、外国人はそこに入っていない。一方で、「外国人住民」という言葉があり、これは「市町村の区域内に住所を有する者を外国人住民という」(住民基本台帳法30条45)と定義されている。神戸市というところで考えたら、神戸市に住所を有していたら、外国人も日本人も同じ神戸市民となり、神戸市は住民に等しく行政サービスを提供することになる。外国人住民という言葉をよりどころに支援活動を行うNPOとしては、とても大切にしている言葉である。
三つの壁
外国人相談からみるとき、三つの障壁がある。それは「法律・制度の壁」「ことばの壁」「こころの壁」である。法律・制度の壁とは在留資格による制限である(図3)。外国人の多くが在留資格をもって日本に暮らしている。この在留資格によって就労できる領域や時間、また資格によっては住む場所さえも決められる。この制限が壁であるのだが、それに加えて、日本人、特に地域医療・福祉を担っている対人援助職の人でさえ、外国人は在留資格をもって暮らして、それによって色々な制限があるということを知らない人が多い。このことが大きな壁になっている。
生活保護が使えるのか、日本学生支援機構の奨学金が使えるのか、など在留資格によって制限を受けることがあり、それを知らずに対人援助にあたるとき、大きな混乱が生まれることがある。しかし、在留資格は法律などもよく変わり、素人が対応するのは難しい。
だからこそ、県や自治体が設置している外国人相談センターなど専門機関に相談してほしい。外国人本人からだけではなく、日本人からの相談にも対応している。兵庫県には「ひょうご多文化共生総合相談センター」(21言語対応、月〜金、9〜17時、(078)382-2052、神戸市中央区東川崎町1丁目1番3号神戸クリスタルタワー6F)があるのでぜひ利用してほしい。
ことばの壁とこころの壁
国内に暮らす外国人は、家族や職場での会話など独学で、それも耳から覚えて日本語を勉強する人が多い。長年暮らす中で、日常会話ならできるが、読み・書きができないという人が多くいる。人が読み書きできない状況で暮らしていくのは大変なことである。また、日本は大事なことこそ、文書で知らされることが多い。税金を滞納している、健康診断を受診してください、すべて文書で郵便ポストに届く。これを読み、行動をすることができない人が多く、これがことばの壁である。
相談現場にいると、こころの不調を訴える人によく出会う。その背景には、異文化ストレスや、外国人ゆえに感じる差別というものがある。潜在的にストレスがある状態で、解雇や離婚、交通事故などの大きな困りごとに直面すると、こころのバランスを壊しやすい。地域の中で、気軽におしゃべりをしたり、ちょっとしたことを尋ねたりできる人間関係がないと訴える人もいて、こころの壁となっている。
今後も外国人住民は増えていき、永住・定住化も進んでいく。医療現場においても、外国人住民との接点が増えていくであろう。その時、外国人特有の障壁についての理解がなされ、地域の共有言語である日本語、やさしい日本語によってコミュニケーションが図られるならば、地域はより安全・安心な場となるのではないだろうか。今後、医療領域と外国人支援領域がともに連携していければと思う。
(6月5日、国際部研究会より)