医科2021.08.21 講演
[保険診療のてびき]
不眠症治療Up To Date
薬理学的機序の異なる睡眠薬の使い方(2021年8月21日)
神戸市立医療センター中央市民病院 精神・神経科医長 大谷 恭平先生講演
新しい機序の睡眠薬
不眠症の治療にはまず睡眠衛生指導を行い、生活指導や認知行動療法などの非薬物療法を行った上で睡眠薬による薬物療法を行うことが望ましい。しかし入院患者の場合、迅速な効果が求められるため、まず薬物療法から開始されることが少なくない。従来のベンゾジアゼピン受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)は内服してすぐに効果を得ることができ、短期的な治療効果に優れた睡眠薬であり、日本において長期にわたり睡眠薬治療の中心的存在であった。その反面、せん妄や転倒、依存形成などの有害事象が次第に知られるようになり、今度は安全性の高いメラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)、オレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント、レンボレキサント)が注目されるようになった。これらの新しい機序の睡眠薬は、せん妄の予防効果を認め、依存性がなく、安心して処方できる睡眠薬である。
精神科リエゾンチーム
神戸市立医療センター中央市民病院では、突然の事故や病気で入院されせん妄を起こされる患者さんや、睡眠薬の過量服薬で搬送される患者さんが後を絶たず、医療安全上、院内での全医師の睡眠薬処方改革に以前から取り組んでいた。せん妄の対応アドバイスを行う精神科リエゾンチームでは、せん妄予防の推奨睡眠薬としてラメルテオン、スボレキサントをあげており、チーム介入を依頼する前に必ず「STEP0(図1)」を行っていただくルールとなっている。また、病院の全クリニカルパスにおける睡眠薬をスボレキサントに置き換えている。それにより院内のベンゾジアゼピン受容体作動薬の処方は2016年から2021年にかけておよそ4分の1に減少した(図2)。一方でラメルテオン、スボレキサント、レンボレキサントの処方は、コロナ禍において病床制限のあった期間を除けば、徐々に増えていった。それでも、すでに入院時から睡眠薬を多剤併用している患者がいるため、当院では3剤以上睡眠薬を内服している予定入院患者さんに対して、入院前センターを通じ自動的に精神神経科を受診するシステムが確立している。そのため、事前に薬理学的にせん妄ハイリスクの患者を予測することができ、入院前から薬物療法の調整を行えている。
COVID-19患者にも介入
また、現在第5波にあるコロナ禍において、COVID-19肺炎で入院中の患者に対する不眠症治療にも精神科リエゾンチームは介入している。COVID-19肺炎は、不眠症はもちろん、せん妄の合併率も高く、2021年8月27日現在、当院COVID-19肺炎入院患者のべ941人中、精神科リエゾンチームが介入した患者は114人であった(図3)。COVID-19肺炎の不眠やせん妄は呼吸苦による悪化があるため従来の対応ではうまく改善しない例も認められる。また、陰性化した後にも不眠や不安が遷延することが散見されている。現在喫緊の問題であり、治療課題と考えられる。(8月21日、薬科部研究会より、小見出しは編集部)
図1 当院における推奨睡眠薬(STEP0)
図2 ベンゾジアゼピン受容体作動薬の院内処方錠数(2016〜2021年4〜6月)
図3 COVID入院患者とそのうち精神科リエゾンチームが介入した患者