医科2021.10.09 講演
女性の不定愁訴を見分ける3つの問診
[診内研より527] (2021年10月9日)
大阪市・淀川キリスト教病院 柴田 綾子先生講演
主訴や症状の多い患者を診ると「不定愁訴か!?」と感じてしまいがちです。ここでは、さまざまな症状を呈する女性疾患において、診断に近づける三つの問診をご紹介します。日本産科婦人科学会の診療ガイドラインは学会HPにて無料で閲覧可能です。ぜひご参照ください。月経前症候群
「生理の前後に体調が悪くなることはありますか?」月経に伴う女性ホルモンの変化によって、約70%の女性が、月経前に心身の不調を感じていますが、生活に支障を来している場合は、月経前症候群(PMS:premenstrual syndrome)の可能性があります。PMSは「月経3~10日前にさまざまな症状が出現し、月経開始後に改善する」が特徴で、2カ月以上の月経と症状の記録から臨床診断を行います(表1)。
女性が多様な症状で来院したら「生理前に調子が悪く、生理が始まると症状が改善するか」を確認してください。毎回月経前に症状が出る場合、PMSの可能性が高いです。PMSに対しては、適度な運動、カルシウム、マグネシウム、ビタミンB6の摂取やサプリメントが推奨されています。漢方(当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸など)、低用量ピル、抗うつ薬(SSRI:selective serotonin reuptake inhibitors等)などが治療法となります。
更年期障害
「生理の周期に変化や異常はありますか?」正常な月経の周期は24~38日ですが、閉経が近づいてくると月経不順が出現します。更年期とは、閉経の前後5年間(合計10年間)を指し、閉経とは月経が来なくなって12カ月経過した時に、1年前にさかのぼって診断します。日本人の平均閉経年齢は約50歳(50.2±3.24歳)です。更年期に出現する症状で器質的な原因がなく、日常生活に支障を来している状態を更年期障害と言います。
症状はホットフラッシュ(顔のほてり、発汗)、動悸、めまい、関節痛、肩こり、頭痛、腟萎縮、不眠、イライラ、抑うつ気分などがあります(表2)。更年期障害は、月経不順と症状の問診から臨床診断を行い、内診や女性ホルモン値の血液検査は必須ではありません。除外すべき疾患として、更年期女性で頻度の高い甲状腺機能亢進症/低下症、うつ病、冠動脈疾患があります。
更年期障害では、体温調節しやすい服の重ね着と禁煙をお勧めし、カフェインを控えることを推奨します。鍼灸、ヨガ、マインドフルネスは効果があり、肥満の場合は減量により症状が改善します。軽症では、漢方(当帰芍薬散・加味逍遥散・桂枝茯苓丸・温経湯・女神散・五積散など)やサプリメント(大豆イソフラボン)を試行し、ホットフラッシュが強い場合はホルモン補充療法を行います。腟・外陰部症状(灼熱感や乾燥)には市販の保湿剤や潤滑ゼリーが効果がありますが、症状が重い場合はエストロゲンの腟剤が有効です。精神心理的症状には、カウンセリングや認知行動療法、ホルモン補充療法が効果がありますが、症状が強い場合には睡眠薬(非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のエスゾピクロン®やゾルピデム®)、抗不安薬、抗うつ薬が必要になります。
周産期うつ病
「気分の落ち込みや趣味などへの興味の低下はありますか?」日本では、産後の母親が亡くなる原因の1番が自殺です。日本で産後1年未満に自殺した母親は2年間で92名もいました(2016~2017、国立成育医療研究センター調査)。日本では、妊娠中や産後の10人に1人にうつ病が起こっており、妊産婦の不定愁訴ではうつ病を鑑別に挙げる必要があります。うつ病は「心の病気」のため外からは見えません。Whooley2項目質問表は簡便で、感度が高く英国NICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)で推奨されています。
もし周産期うつ病を疑う場合は、かかりつけの産婦人科や精神科の受診を推奨します。自殺念慮・希死念慮がある場合は緊急のため、そのまま自宅へ帰宅させずに、必ず精神科救急へつなぐようにお願いします(地域の精神科救急情報センターへ連絡する)。治療は、母親が休息できる環境調整(産後ケア施設への宿泊、里帰り、夜間は家族がミルクや冷凍母乳を解凍して授乳する等)を1番に行います。症状が強い場合は睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬等を使用します。
〈Whooley2項目質問表〉
1.過去1カ月の間に、気分が落ち込んだり、元気がなくなる、あるいは絶望的になって、しばしば悩まされたことがありますか?
2.過去1カ月の間に、物事をすることに興味あるいは楽しみをほとんどなくして、しばしば悩まされたことがありますか?
*どちらか一つ陽性の場合のうつ病の感度94%、特異度63%
*注:以前は「産後うつ病」という名称が使われていましたが、産後だけでなく妊娠中に発症するため最近では「周産期うつ病」という名前に変わってきています。
(2021年10月9日、診療内容向上研究会より)
参考文献
・日本産科婦人科学会、診療ガイドライン2020婦人科外来編https://www.jsog.or.jp/modules/about/index.php?content_id=16
・日本周産期メンタルヘルス学会、周産期メンタルヘルスコンセンサスガイド2017
http://pmhguideline.com/consensus_guide/consensus_guide2017.html
・日本精神神経学会、精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド
https://www.jspn.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=87
表1 月経前症候群の症状
表2 更年期障害の症状