医科2021.12.11 講演
わかってほしい!子ども・思春期の頭痛
[診内研より528] (2021年12月11日)
筑波学園病院小児科、東京クリニック小児・思春期頭痛外来 藤田 光江先生講演
はじめに
頭痛は子どもにとって、よくある症状であると同時に疾患群でもある1)。外来を受診する子どもの頭痛は、感染症を除けば原因疾患のある二次性頭痛は少なく、ほとんどは片頭痛や緊張型頭痛に代表される一次性頭痛である。子どもの頭痛診療において成人と異なる点は、子どもは心身ともに発達途上である点である。外来受診の多い頭痛は片頭痛であり、片頭痛を正しく診断し治療することが、子どもの頭痛診療の第一歩である。思春期になると片頭痛の治療に抵抗し、学校欠席につながる慢性連日性頭痛もみられる。なお、本稿では18歳(高校3年生)以下を子どもあるいは小児と称す。
二次性頭痛を見逃さないコツ
小児・思春期の二次性頭痛は、感染症による頭痛が多く、次いで頭部外傷である2)。頭痛専門外来における二次性頭痛の頻度は低い2)。診察前に記載する頭痛の問診票3)と診察室に入ってくる子どもの様子で、おおまかに二次性頭痛の有無を把握できる。中枢神経疾患で重篤なものはわずかであるが、危険因子がある場合には頭部CTまたはMRI検査を施行する。なお施行する際は放射線被曝に配慮する2)。頭痛が主訴のもやもや病もあるので、MRIを施行する際はMRAも入れる。まれではあるが子どもにも高血圧による頭痛があるので、初診時に血圧測定は必ず行う。
頭痛の診断は成人と同じく、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)1)を使用する。
片頭痛の診断と治療
片頭痛は発作性の中等度~重度の頭痛で、動くと痛みが増強する。頭痛の部位は前頭側頭部、持続時間は18歳未満では2~72時間で、両側性であることが多い1)。悪心または嘔吐(あるいはその両方)、光過敏および音過敏の2項目中1項目を満たす1)。発作中に静かな暗い部屋での安静を好むのは、光過敏・音過敏があると判断する。これらの片頭痛発作が今まで5回以上あることで診断されるが、発作の曜日、時間帯はまちまちで、多くても月4日程度である。子どもの場合は1晩寝ると頭痛は軽減し、多くは翌日登校できる。ICHD-31)には含まれないが、片頭痛は家族集積性の強い疾患で、親のどちらかに片頭痛があれば、子どもの頭痛も片頭痛のことが多い4)。
片頭痛治療の第一歩は、正しい診断と、患児と家族が片頭痛を十分に理解することである。その上でまず生活指導や誘因を避けるなどの非薬物療法が推奨される。治療薬が必要な強い片頭痛発作には、第一選択薬はイブプロフェン、ついでアセトアミノフェンであり、いずれも安全で経済的薬剤である2)。トリプタンは12歳以下ではスマトリプタン点鼻薬とリザトリプタン、思春期ではスマトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタン、ゾルミトリプタンが使われている。成人と同じく、頭痛が始まったらできるだけ早く使用し、その後の休息が必要である。学校で頭痛発作が起きた場合、学校スタッフの協力をお願いするため、日本頭痛協会のホームページから啓発活動を行っている5)。
なお、日常生活に支障をきたす頭痛が月4回以上、あるいは回数は少ないが毎回嘔吐を伴う場合は、小児も予防薬を考慮するが、エビデンスが確立した薬剤はない2)。使用されている薬剤は、アミトリプチリン、トピラマート、バルプロ酸、プロプラノロール、ロメリジン、シプロヘプタジンであるが、トピラマートは片頭痛には保険適用外、バルプロ酸は思春期女子には使用を控えるなどそれぞれ注意が必要である。片頭痛は概ね非薬物治療および薬物治療が有効な頭痛と言える。
緊張型頭痛の診断と治療
片頭痛が中等度~重度の発作性頭痛であるのに対し、緊張型頭痛は軽度~中等度の非拍動性(圧迫感または締めつけ感)の頭痛1)であるため、外来受診は少ない。また、頻発反復性緊張型頭痛は、受診して診断に納得すると、生活支障度が低いため再診も少ない。一方、慢性緊張型頭痛は絶え間なく持続し、生活の質(QOL)を大きく低下させ、高度の障害を引き起こす深刻な疾患である1)。特に思春期では、後述のように軽度~中等度の緊張型頭痛が重度の痛みに変容し、不登校などの社会不適応を来すことがある。慢性連日性頭痛
1日に4時間以上、1カ月に15日以上、3カ月以上持続する頭痛を、慢性連日性頭痛(chronic daily headache:CDH)6)といい、ICHD-31)の慢性片頭痛であるか慢性緊張型頭痛であるかは、治療に大きく関わってくる。片頭痛の治療薬が無効の場合は、慢性片頭痛とは言えず、心理社会的要因が関与する慢性緊張型頭痛が主と考えられる(図)7)。片頭痛の既往がある場合とない場合があるが、CDHの共通する基盤は、思春期という年齢的要因、気持ちを言語化するのが苦手な性格特性、起立性調節障害や精神疾患など共存症が関連することである。特に不登校が絡むCDHでは、不安症群、適応障害、身体症状症、神経発達症群など精神疾患の共存も見逃せない8)。
心理社会的要因関与のCDHの治療は、保護者とは別に子どもに支持的精神療法9)を行うことが有用である。子どもに治療薬が効かない頭痛であることを説明し、頭痛と付き合いながらできることを探すことを勧める。治療者とのコミュニケーションツールの頭痛ダイアリー5)や登校カレンダー7)は行動療法として有用である。保護者に対しては、頭痛の治療薬が効かないこの頭痛は、子どもの言葉にできない思いなので、心の成長と共に必ず軽減することを説明し、よき理解者として巻き込んで行くことが重要である。
おわりに
頭痛を訴える子どもは、小児科以外にも、成人対象の頭痛外来、内科や脳神経外科も受診する。子どもの頭痛診療の第一歩は、片頭痛の診断であり、片頭痛が分かると難治な慢性連日性頭痛も理解できるようになる。子どもは心身ともに発達途上であることが頭痛診療にも大きく関わってくる。頭痛のみを診るのではなく、患児の性格特性、学校・家庭生活などの環境を診ること、頭痛で欠席が続く子どもの居場所の一つが外来であることを認識し、子どもの成長を見守ることも重要と考える。(2021年12月11日、診療内容向上研究会より)
参考文献
1)日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会:国際頭痛分類第3版.医学書院、3-205,20182)日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会:小児・思春期の頭痛.頭痛の診療ガイドライン2021.医学書院、358-389,2021
3)頭痛の診かた~これならできる!頭痛専門小児科医のアプローチ.藤田光江監修、荒木清・桑原健太郎編、南山堂、2-240,2018
4)藤田光江、牧たか子、仁井純子、他:小児片頭痛における家族集積性の検討.日本頭痛学会誌 36:239-243,2010
5)日本頭痛協会ホームページ:養護教諭と教師向け資料:学童・生徒の頭痛の知識(2013年版):http://www.zutsuu-kyoukai.jp
6)Silberstein SD,Lipton RB,Sliwinski M: Classification of daily and near-daily headaches: field trial of revised IHS criteria.Neurology 47:871-875,1996
7)藤田光江:わかってほしい!子ども・思春期の頭痛.南山堂、2-161,2019
8)藤田光江、牧たか子、絹笠英世、他:不登校の絡む頭痛の対処法と予後.小児科臨床 70:1667-1672,2017
9)日本小児心身医学会:小児心身医学会ガイドライン集.改訂2版、南江堂、東京、p150, 2015
図 片頭痛と緊張型頭痛の起こり方と違い(1カ月)7)